③
「逃げていた」
いくらなんでも主語がないというか、ある気もするが述語がない。
彼の言葉はあまりに率直すぎる。
「兄さんが逃げたせいで俺が継ぐ、なんて事になったらどうするんだよ」
確か次男がいた筈だから三男である彼が継ぐ必要はないだろうと私は思う。
もしや次男は既に故人?
「失礼ですがご兄弟にはもう一人いらしたのですよね?」
「いたっていうか生きてるよたぶん」
多分、つまり行方が知れないということになる。
「兄貴なら放浪して一般人の生活に溶け込んでるから消息は不明なんだ」
この家の兄弟は長男次男揃って家を出る癖があるようだ。
それにしても長男の彼は継ぎたくないと言っていて
次男も居場所を突き止めない限り後を継ぐどころの話ではない
つまり三男しか選択肢が残っていない状態なのか。
「それにしても兄貴、誰その人」
「森で会ったから連れて来た」
やはり説明が足りないようで弟さんは困惑している。
「兄貴は何処の蛮人なの?」
やはり、あらぬ誤解を招いているようだ。
「私が森で迷子になっているところを彼に保護していただいたのです」
「…見たところ裕福なご令嬢って感じだけど家に送らなくていいの兄貴」
さすがは兄弟というべきか、二人とも似たような事を言っている。
「断られたから連れて来たんだ」
「困った兄貴だ」
その当人はため息をつかれた意味がわからない様子である。
「それよりもリングドース、レイツーの居場所ならば父上が既に知っているだろう」
リングドースというのが金髪の彼ならレイツー、と云う人が次男
ということでレイツーさんが見つかりそうだからリングドースさんが魔王?という役職を継ぐ必要はなくなる。
そう彼は言いたいのだろう。
「ならいいや」
リングドースさんはほっとした様子で胸を撫で下ろしている。
流石は兄弟と云うべきか兄が言いたい事を察したようだ。
それにしても彼の名前はなんなのだろう。
私も教えていないが、彼の名前が気になった。
名前を知らないと話しかけづらい。
「ワーレン、帰ったか」
年配の男性が杖を突きながら現れる。
「父上…」
丁度彼等の父が名を呼んでくれた事で彼がワーレンという名前だと知れた。