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理知の魔書9

 中のバネが引き金と連動して前に伸び、拳が前に出る。ただの子供騙しの玩具ではないかとヒタカは思ったが、自分が言える立場ではないと我慢する。

「どうしてこれを作ろうと思ったの?」

「イメージでこういうのを作ってみたいなぁってね。ふふ、趣味みたいなものだよ。君なら使いこなせると思うよ。魔力あるようだからねぇ」

 サキトは綺麗な緑色に塗られているラッパの部分を見つめ、「魔法と関係あるのかぁ」と呟く。

 普通の道具にも見えるのだが、何かしら関係があるようだ。

「さっきのように悪い人を捕まえる時にもね、拡声器として使えるしね!正義感が強いみたいだから、呼び止める時便利でしょ?中のバネも長く伸びるよ!」

 また引ったくりに遭遇したらかなり便利なはずだ。

「分かったよ、ありがとう!大事に使わせて貰うね!んっと、これ何ていう名前なのかな?」

 トーヤの発明品を胸に抱き、サキトは問う。

「名前は特に決めてなかったねぇ。仮の名前で『鰹節一号』って呼んでたけど、特に意味は無いから好きなように呼んでくれて構わないよ」

「鰹節?」

「その時の気分で呼び方を決めてたからね」

 これだけの精密な物を発明する割には、意外に適当なようだ。彼は呼び名には拘らない事にした。トーヤはじゃあまたね!とその胡散臭い外見とは似合わぬ爽やかさで挨拶をすると、城下の人波へ消え去ってしまった。

 彼が居なくなった後、サキトはヒタカを見上げて「またアストレーゼンに遊びに行きたいねぇ」と満足げに話す。

 余程アストレーゼンが楽しかったようだ。だが、彼を取り巻く人々は結局サキトに振り回されていた。しかしその事は本人は全く気付かない。

 一段落ついて安心したのか、サキトはヒタカに「喉渇いたね」と同意を求めるように言った。走り回って大声を出した為に、喉がカラカラになっていた。

「そうですね…では途中で飲み物でも」

「ね、ちょっと手前にフルーツジュースの露店があるよ!」

 人々が行き交う目先に、沢山のフルーツのレプリカが可愛く飾られている露店があった。女性客をターゲットにしているせいか、若い女性が順番待ちをしている。むさ苦しい男が並ぶのは少し気が引けたが、サキトが居るので大丈夫だろう。ヒタカは並びましょうかと最後尾についた。

 目の前で順番待ちをする二人の女性はひたすらべらべらと笑いを交えながら会話を続けている。女が集まると話がなかなか終わらないと聞くが、なるほどとヒタカは思っていた。

「何にしようかな。ねえ、クロスレイはどうするの?メニューに沢山種類書かれてるの」

 待つ間に選べるように立ててあるメニュー看板を見ながらサキトはヒタカの上着の袖を引っ張る。フルーツだけではなく、野菜ジュースも置いてあるようだ。

 無難に野菜ジュースにしようかな…と考えていると、緩やかに進路が進んでいった。気が付くと、自分達の後列にも客が数人並んでいる。かなり繁盛している印象を受けた。

「もう少しだね。僕はミックスジュースにするよ、フルーツの。沢山あって悩んじゃうからね」

「俺は野菜ジュースにしますよ。種類がありすぎて目移りします」

 喉がカラカラのままなので、早く飲みたい。ようやく前の女性らの番になり、サキトはミックスジュースの味を想像しながら自分達の番を待ち遠しそうにしていた。

「私達の順番来たよー!」

「えっ、やだぁまだ決めてなかった!あははは!」

「どうするぅー?」

 そんな会話が飛び込んでくる。サキトはあらかじめ決めといてよ…とげんなりした。時間は沢山あったろうに。

「桃とか美味しかったって聞いたよぉ」

「本当ー?桃にしよっかなぁ…あっ、でもぉ、キウイとか良くないー?美味しそぉー!」

 ヒタカは長いなぁ…と天を仰ぐ。

「口コミとかだったらバナナミルクとかぁ、イチゴバナナとかぁ」

「えー?バナナとか入るとあんまりさっぱりしないよねー」

 早くしてほしいのに一向に決まる気配が無い。待つのが嫌いなサキトは段々苛立っていた。こんな人種が居るのかと。すると一人が街中で知り合いを見つけたのか、「あっ!」と声を上げる。

 声をかけられた女性数人が露店側を見ると、きゃあきゃあと再会を喜んで近付いてきた。

「えー?何、ジュース?」

「今ねぇ、悩んでたとこぉ!どれがいいかなぁ?」

「ここ美味しいよねぇ!あたしも頼もうかなぁー」

 後ろに居る他の客らも、なかなか決まらぬ彼女達に苛立っていた。早くしてほしいよね、という不満の声。まさか追加の彼女らも悩むのではないかとヒタカは危惧していると、「一緒に頼もうよぉ」と更に不快になる一言が発せられた。

 何分間悩む気だ!!と後列の人々が爆発寸前になった時、サキトは「ちょっと!」と女性らに声をかける。

「いつまで悩む気?選ぶ時間なんか沢山あったでしょ!僕は早くジュース飲みたいんだからさっさと決めてよ、ほんとありえないね!君らがぺちゃくちゃ喋って、仲間を呼んでる間に後ろがつかえてるの!分かる!?」

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