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強さの理由4

「んなっ…ま、マジかよクロスレイ!」

 木刀をがっちりと掴まれ、ヒタカが背を丸くしながら立ち上がると同時に、自分の身体も浮き上がる。それも、片手で悠々と大の男を持ち上げているのだから驚愕した。

「遠慮するなと言われたのでっ…遠慮しません!!」

 ガラン、とヒタカの木刀が床に落ちた。彼はアルザスの木刀を両手で掴むと、そのまま力任せに持ち主もろとも背負い投げた。

 大柄な男が飛んでいくのを、剣士達は目の当たりにする。こんな珍しい光景はなかなか見れないだろう。

「飛んだ…」

 珍しい状況に外野の声が静まった。ドシン、と訓練場が振動で揺れる。アルザスは受け身を取って床に転がると、すぐに身体を起こした。

 普段の泣きっ面からは想像がつかない力で押してくる。対戦相手としては、普通の剣士よりは遥かに面白い。叩き潰したくなる。

「呆れる位馬鹿力だわ」

 木刀を構え直し、アルザスはニヤリと笑む。ヒタカがこちらに向けて走り出すのを見ると、彼も迎え入れるべく刀を振るった。


 詰所の入口で、サキトはアーダルヴェルトを見上げながら「クロスレイ居ないの?」と問う。誰も居ないのをいい事に仮眠していた彼は、あくびを押さえて「指輪で聞きゃいいじゃないすか」と返した。

「声かけてるんだけど反応が無いんだよ。クロスレイのくせに」

「あー」

「どこに行ったか知らない?」

 彼は暇なのだろうか。アーダルヴェルトはヒタカへの依存っぷりにくすぐったい気持ちになりながら「訓練場っすよ」と教えた。

「訓練場?今日は詰所勤務じゃないの?」

「アルザス先輩に付き合って出ていったんすよ」

「そっか。ならいいや…つまんないの」

 サキトはふて腐れながら詰所の中に入った。アーダルヴェルトは「何もないっすよここ」と言う。休憩の時間を邪魔されたくないので、なるべく早く去って欲しい。

 詰所の中をうろうろ動き回り、サキトはやや不満そうに言った。

「書類しかないんだね」

「そりゃあ…仕事場ですし」

 あくびが止まらない。気温は暖かく、詰所の中も日差しが入り込んでぽかぽかと暖かいので余計眠気が湧いてくる。ぼんやりしていると、突然サキトが「わあ!」と叫んだ。

 何かあったのかとアーダルヴェルトは彼に目を向ける。

「ん?」

「アーダルヴェルト!何なのこれ!?信じられない!」

「何ですか、もう」

 勝手に詰所の中を徘徊して文句をつけるのかとムッとした。アーダルヴェルトはサキトが手にしていたものを見た瞬間、うわ!と叫び彼からその物体を引ったくる。

 サキトはアルザスの机に上がっていた半裸の女性が撮された、きつめの風俗雑誌を見つけてしまったのだ。さすがにサキトには目の毒過ぎる。

 大きく印字された見出し記事のタイトルも、『誘惑の開脚』やら『昼下がりの熟女の微熱』やら欲情をそそるような物。

「俺のじゃないっすよ!アルザス先輩の物です!!誤解しないで下さいよ!!」

「詰所に何でこんなの持ち込むの!」

 表紙からしてどぎつい雑誌を、慌てながらアルザスの机の棚に放り込むとすぐにバシンと引き出しを閉じる。どこから見つけたか知らないが、目敏く指摘しないで欲しい。

 まるで抜き打ちチェックみたいではないか。

「知りませんよ!先輩に聞いて下さい!」

「もう、困ったもんだね。あ…そうだ!」

「次は何ですか…」

「クロスレイの席はどこ?」

 どんだけ好きなんだよと呆れた。アーダルヴェルトは数歩進んでから「ここっすよ」と椅子を引いて教える。彼は嬉しそうな顔でその椅子に腰をかけた。

 机の中を開けて何か無いかなと探してみるが、見れば見るほど書類や簡単な筆記用具しか無い。へえ、とあちこち探る。

「面白そうなのが無いよ?」

 首を傾げてサキトはアーダルヴェルトに報告した。

「期待するだけ無意味じゃないっすかね…」

「アルザスみたいに変な本があるかなって思ってたの」

「見つけたら見つけたで喚くのに…」

 色んな場所を探し、「クロスレイは真面目だからね」と言う。何も無いのがかえって面白くないらしい。アーダルヴェルトはどっちなんだよと頭を掻き、「あいつにそんな本を買う勇気なんか無いですもん」と眠そうな顔を見せていた。

「絶対後悔する位何も無いと思いますよ」

 確かに、探せば探す程、何の面白味がない。ここまで何も無いと逆におかしいのではないかと思う位に。

「つまんないな」

「ね?言ったでしょ?」

 結局止めた。綺麗に整頓されていたが、全て書類やら専門書しか見当たらない。だが、彼はどこか嬉しそうな顔をしていた。

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