強さの理由2
突然の誘いに、ヒタカは驚いていたものの、彼から誘うのは滅多に無い事だ。いつもの彼は簡単な用事ですら面倒臭がるので、これを逃せば二度とないかもしれない。
「珍しいですね」
「あ?…まあ、たまにいいだろうよ」
一階に抜け、広い城内の廊下に出る。一般の剣士の兵舎と訓練施設は、城から一旦外に出なければならない。有事の際にはすぐに出動出来るように近場に建てられているものの、一般民も訪れる城内に物々しい剣士が徘徊するのはあまり好ましくないという配慮がなされていた。
兵舎は正面から向かって左側に建てられ、訓練施設はそこから階段を降りた先にある。シャンクレイスの城は小さな高台に存在し、正面の門から出ると緩やかな坂道を使って街へ繋がるが、平坦な道と思える程穏やかな勾配なので往来が楽だった。綺麗に植えられた街路樹も、時期によって様々な色合いを見せ、通行人を楽しませてくれる。
「訓練施設だな。あっちには木刀もあるし、広い」
「昔、先輩の手合わせを見たことがあります」
「おう」
「やはり剣の使い方に無駄が無いというか、どこか持て余してる感じを受けました。今でもそう感じるんですけど…」
訓練施設へ繋がる階段を降りながら、黙ってヒタカの言葉を聞くアルザス。ほう…と目を細めた。
「なかなか生意気な事を言ってくれんじゃねえか」
口達者なヒタカにちくりと嫌味を言う。しかし、その通りだった。新入りのくせに見る目はあるらしい。
「は…はい、すみません」
「俺は元々大剣の方が向いてんだよ。支給される剣だと、軽いし細っこいから逆に扱いに困る。そういうお前もそうだろ」
「へ…」
「お前も剣を振り回す力がこもり過ぎてんだ。あんな動き方、でけぇ武器に慣れた奴にしか分かんねぇ。軽い剣を扱う分、大剣の時の癖がついて、余分な動きが出てくる」
自分の癖まで見通されていた。ヒタカは、アルザスの指摘に「つい大きく振ってしまうんですよね」と笑った。
「ガタイと力に合ったもんを使うのが一番いいんだろうが、ここじゃそうもいかねぇからな。色んな武器を使いこなせて、やっとマシな剣士になれるって事だ」
「まだまだ慣れるまでにはいかないようです」
「アストレーゼンは手慣れた武器の使用を許されてるみてぇだけど、人によってはお偉いさんからプレゼントされたりするらしいな。あそこは魔法文化が盛んだから、魔力が入った武器やら出回るらしい。司聖のお抱えの白騎士なんかいい例だろ。司聖ロシュが刀匠に頼んで作らせた魔力入りの剣だっていうからな」
以前、サキトの気まぐれでアストレーゼンに行った際に出会った少年剣士を思い出す。確かに、彼が携えていた細身の剣は普通の剣より凝った作りをしていて、装飾品まで付いていた。柄だけでなく、鞘も赤や黒の革が張られ、ロシュからかなりの寵愛を受けているのかが分かった。
「そういえば、立派な剣でしたね」
「あの剣は司聖の杖と対になってんだとよ。余程好きなんだろ、あのリシェとかいうガキが」
話をする限り、野心家という訳ではなく、彼もロシュを慕っていた。ロシュもまた、リシェを大事にしているようだ。
「信頼しあっているんですね」
「信頼ってか、それ以上だろ。…ま、俺らには関係ないからな」
階段を降りきり、訓練施設へ辿り着く。施設内からは、剣や体術などの稽古をする掛け声と、木刀を叩きあう音が耐えず聞こえてくる。アルザスが裏口から足を踏み入れると、訓練中の剣士達は一斉にざわめき頭を下げる。
「お疲れ様です!」
「お疲れ様です!」
王家を守る護衛剣士は一般兵の羨望の的だ。そのほぼトップに存在するアルザスは、特に畏怖されている存在だった。彼は手を上げ、「ああ、いいよ。訓練続けて」と気にしないように告げる。
ヒタカはアルザスの後ろに付き、顔見知りの剣士に挨拶していく。アルザスに向けて頭を下げる剣士を見ながら、彼の存在はそんなに凄いのかと驚いていた。
普段の彼の姿を見たら、剣士達は拍子抜けするに違いない。
「使ってないスペース借りる。木刀も二振りも貸してくれ」
「は、はい!」
命じられた剣士は、急いで木刀を探しに走る。アルザスが稽古をするらしい、という話は一気に広まり、ぜひ見てみたいという野次馬が少しずつ集まってきた。
訓練しとけよ、と苦笑いしながら彼はヒタカに一振りの木刀を手渡す。使いこなされていた木刀は、柄の部分が持ちやすいように布で巻かれ、程良く手に馴染んでいた。
「ひ、ヒタカじゃねえか!お前がアルザス先輩と!?」
「お前大丈夫かよー!?」
昔馴染みの仲間達が、アルザスと向かい合うヒタカを見て声を上げる。ヒタカは「う、うん、まあ」と頼り無い顔をした。
「頭は殴らないようにしてやるよ。まだ怪我治ってねぇだろうし」
「かさぶた程度ですから、いつも通りでも大丈夫だと思います」
「ふん…まあ、やってみるか。剣は寄せておけ」
彼はそうヒタカに言うと、自分の腰にかけてあった剣を角に放った。ヒタカも同じように括ってある剣を角に置く。お互い少し身軽になると、「感謝しろよ」とアルザスが言った。
「この俺が直々に稽古つけるなんざ、滅多にねぇからな」




