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王子様の献身7

「いたたた」

「急に大声出すからだよ」

 サラダを口にするサキトは、傷を痛がるヒタカを嗜めた。頭を擦り、「そんな勿体無い」と慌てる。剣士として当然の事をしたまでで、国王自ら礼をするなどとは。

「そのうちお部屋に来ると思うから」

「へっ!?あ、ああああの、そんな!!俺なんかの為に、わざわざそのような事をなさらなくても!!」

 完全に動揺しているヒタカ。サキトはスライスされた肉を口に含み、咀嚼して飲み込むと冷静な顔をして彼を直視する。

「本人が礼をしたいって言ってるんだから、君は黙って受け入れるといいのさ。僕の為に怪我をしたんだからね」

「当然の事をしたまでです!俺は、あなたの専属の剣士として当たり前の事を」

 嬉しい言葉に、内心サキトは喜びながらも表情に出さなかった。忠実な番犬はこうでなくてはならない。他の護衛剣士にはないヒタカの純粋さが、サキトにとって扱いやすかった。

 ナプキンで口を軽く拭うと、サキトは年相応ではない妖艶な笑みを浮かべてデザートのイチゴを摘まむ。

「いい心掛けだよ、クロスレイ。君はそうでなくちゃ」

「う…」

 甘酸っぱいイチゴを噛み、ぺろりと舌を見せる。

「僕の騎士は僕の事を常に考えてくれなきゃね。だから、僕も君の事を一番に考えてあげる。僕たちは一心同体みたいなものだから」

 どこか毒があるような、甘い言葉。

 愛らしい顔をしながら、ヒタカを惑わせる。つい彼は、そんなサキトからのやけに熱っぽさのある視線をそらした。

「おっ、恐れ多いお言葉です…」

「君は本当に正直者だねぇ」

 コロコロと笑顔を見せ、サキトは嬉しそうに言う。からかっているのかと、ヒタカは困った顔をした。再びイチゴを口に含み、サキトは「他にはないタイプだから、苛めたくなっちゃう」と意味深に微笑んだ。

 サドっ気のあるサキトの言葉は、ヒタカを悩ませる。

「沢山食べてよね、クロスレイ。僕、あまり食べられないから」

 彼が少食なのは前から知っていた。彼とは違い、どちらかと言えば大食漢のヒタカは、テーブルに並べられた大量の料理を見て、彼がわざわざ自分の為に用意してくれたのだと理解する。

 ヒタカはサキトに頭を下げ、改めて礼を言った。

「ありがとうございます」

「ふふ、いい子だよクロスレイ。君の従順さ、他の子達にも見せたい位だ」

 子扱いする言い方は、サキトの独特な言い回しだが、やはり違和感を感じずにはいられない。確かに彼は上の立場だが、明らかに自分達より年下だ。使う側、使われる側とはっきりしているがやはり変な気持ちになる。

 サキトはそれを十分理解しているのだ。自分が上に立つ側だと。それに伴い同じ年齢の少年らとは、対等になれないのも、サキトは良く分かっているはず。

 自分が王族の立場だから、相手側から数歩引かれた扱いをされてしまうのを、身をもって知ってしまう。それは彼にとって、寂しい事だった。だから、それに慣れて利用するしかない。近くで、数歩引いても対等に会話できる人間が居ればまだいいのだが、該当者は遠方に居る。スティレンという少年の出現に、サキトは喜んでいたのだ。

「サキト様」

「なあに、クロスレイ」

「お、俺で良かったら、いつでも甘えて下さって構いませんよ」

 突然の申し出に、サキトは驚いて目を見開く。そして「なあに?」と吹き出した。

「どうしたの、いきなり」

「え!何か、まずい事でも言いましたか?」

「ううん。その意気じゃなきゃ僕の剣士は勤まらない。ありがと、クロスレイ」

 テーブルの向こうの小さな君主は、上機嫌な顔で再び食事を開始する。生意気な性格なのは承知しているが、不思議な事にヒタカは彼を守りたくなる気持ちが前より増していた。


 食事を済ませ、少し自室で歯磨きしてきますとサキトの部屋を出たヒタカは、廊下で真っ赤なドレスのアンネリートに再び遭遇してしまう。彼女の姿を見るなり、彼は息を詰まらせ後ずさりしてしまった。

 アンネリートはヒタカを見るなりズカズカと早足でこちらに向けてやってくる。

「ちょっとあなた」

「はっ、はい!!」

 厳しい目線をしながら寄ってくる相手に、ヒタカは反射的に腰が引けていた。仄かに漂う香水がまたきつい。

「サキト様に余計な事を吹き込んでいるんじゃないでしょうね」

「はっ…はあ?」

 余計な事、とは何なのか。意味が分からずにしていると、アンネリートは眉を寄せてヒタカを見上げた。彼女も女性にしては身長が高い方だが、さすがに異性で剣士体型のヒタカ相手には頭を上げなければならない。

「何か狙ってるならやめてちょうだい!」

「狙うも何も、そんな変な事は考えてないです!」

「ふう…ん。どうだか」

 アンネリートはヒタカを上から下からと、じろじろと見回す。彼の周りを歩き、「こんな野獣みたいなののどこがいいのかしら」と疑問符を呟く。

 ヒタカは何か疑われているのかと困惑した。本気で何もないのだが、彼女は信じられないらしい。

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