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盟約の証12

 樽は男達にぶつかり、床に叩きつけられて大破する。血液不足になり、頭がぐらぐらする。自分が思った以上に出血しているようだ。気を強く持ちながら、ヒタカは呟いた。

「あなたを置いて行ったら、俺は自分を嫌いになる」

「………」

 サキトは手の中のネックレスをきつく握り締めた。早くアルザスとアーダルヴェルトに、自分を見つけて欲しい。自分はここだと。早く、ヒタカを楽にさせて欲しいと。

 ガン、と何かを打ち付ける音がした。そして、勢い良くテーブルが吹っ飛ばされる。朦朧としながらも、応戦の姿勢を見せていたヒタカは派手に転がるテーブルに気付く。

「ううわ!何だお前、血だらけじゃねえか!」

 凄まじいヒタカの状態に、遅れて来たアーダルヴェルトは驚いた。アルザスも彼の様子に「いい顔してんじゃねえか」と笑う。

「せ、先輩…」

「サキト様連れて外で待ってろ。ここは違法の酒を取り扱ってる闇の酒場だ。中で存分に暴れようが、文句は言われねぇ。すぐに片付けてやるよ」

 アルザスの言葉を聞き、サキトはヒタカの傍へ走る。

「クロスレイ」

「は…はい」

「掴まって。外に出るよ」

 よろめいているヒタカを支え、サキトは酒場の出口に向けて歩き始める。どうやらここは地下らしく、階段を上がらなければならないようだ。

「待てや!!」

 散々暴れておいて簡単に出させるかと、荒くれの一人が出口を目指す二人に向けて走り出した。アーダルヴェルトは横切ろうとする男にするりと足掛けをする。周りを全く見ていなかったのか、彼は悲鳴を上げて倒れてしまった。

「お前らの相手はこっちだよ」

「!!」

 アルザスは拳をバキバキさせながら、「よしよし」と邪悪そうな笑みを浮かべた。

「暴れてぇんだろ?可愛いがってやらぁ」

 やはり血の気の多い護衛剣士だ。早く暴れたくてウズウズしているようにも見える。二人は拳を構え、「来いよ」と笑った。


 外に出ると、眩しい日の光が瞼に差し込んでくる。サキトはヒタカを店から少し離れたベンチに座らせると、濡れた上着とシャツも脱ぐと、ヒタカの血だらけの顔をシャツで拭った。

「…サキト様」

「怪我してるの。黙って」

「あなたの服が汚れてしまいます。それに、肌寒いから」

 ヒタカは護衛剣士の制服の上着をサキトに被せる。シャツも脱ぐと、彼は上半身が裸になってしまう。

「破片、少し残ってる」

「危ないから触らないで下さい」

「これくらいなら抜ける。痛いでしょ」

 頭に残る破片を取り除き、サキトはヒタカを心配そうな面持ちで見つめた。ふふ、とヒタカは自分の主人に弱々しく微笑む。

「な、何?どうしたの」

「あなたのそんな顔、初めて見たので…」

「心配しちゃ、いけないの?」

 少し拗ねる顔をするサキト。自分か原因なのが分かっているから、尚更だ。ヒタカはゆっくりと首を振ると、彼の滑らかな頬に触れる。

「ご無事で良かった」

 剣士独特のごつい手に、サキトは手をかけた。暖かくて、優しい手の温もりを感じると、彼は頭をかくりと下に向けた。

「…サキト様?」

 見事な金色の髪が揺れていく。

 微かに震える小さな身体。ヒタカはそんな彼を心配そうに見下ろす。彼に触れている手が、心なしか濡れていくが分かった。

 …泣いてる?

 ヒタカはぼうっとする頭の中が冴えてきた。

「…めんなさい…」

「え?」

「ごめんなさい…っ!!」

 あの我儘な、常に上から見下ろすような物言いをするサキトが謝っている。ヒタカは慌て、「そ、そんな」とサキトの頬を両手で包み込んだ。

「あなたをお守りするのが、俺の役目です!どうか、どうか謝らないで下さい!」

「君の注意を聞き入れなかったから、こんな事になったんだ」

「…それなら、次からしないようにすればいいだけです。出たくなったら、許可を得て俺があなたのお傍につきます」

 ヒタカはサキトの眼前に「ほら」と指輪の嵌まった手を見せた。彼がヒタカに与えた盟約の証の、魔石が鈍い光を放っている。

「俺があなたに忠誠を誓った印です。あなたをちゃんと守れるように、頑張りますから」

「………」

 最初は首輪感覚で与えただけなのに。ヒタカは素直に自分の言うことを聞くだろうと踏んでいただけなのに…。

 そんなサキトの思惑からは考えつかない方向に、ヒタカは自分に対して実直に受け止めていた。

「俺はあなただけの剣士となります、サキト様」

「く、クロスレイ…」

 ヒタカは少し照れ臭そうにサキトに微笑んだ。

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