シェノメルン国立魔石採掘場11
とりあえず、サキトのご機嫌取りは成功したようだ。雑貨屋の主人であるシラに、若者受けするプリンが置いてある場所を教えて貰おう。
『じゃ、待ってるからね』
冷静な言い方だが、内心嬉しさが滲み出ている感がある。不躾な考えだが、何だか可愛いと思ってしまった。
会話が中断するとホッと一息付き、雑貨屋ナナサへと入った。相変わらず圧迫感があり、若い女性客が入り乱れている。客層が女性の為に、ヒタカのような大柄な厳つい体型の男は嫌でも目立ってしまう。中にはちらりと視線を送り、くすくすと笑われる場面もあった。
早く退散してしまおう…と明らかに年下の異性に笑われ凹む気持ちを払拭し、彼は奥へと進む。
「あっ、ヒタカ君じゃなぁい」
「こんにちは、シラさん」
前回と変わらず、様々な雑貨に埋もれるように会計ベースに座るシラは、ヒタカの姿を見るなり立ち上がる。やはり爆発したようなヘアスタイルだ。
「フランドル様はぁ?」
色々ありましてと苦笑いしながら、持ってきた魔法石を彼女に手渡した。メイドに長すぎる麺棒で頭を殴打されたとは、彼の名誉の為にも言えない。
包みを開けて中身を確認するや、シラは「きゃー!」と歓声を上げる。想像していた石よりも大きいらしく、こんな大きい石なんてあるの!?と驚いた。
いい反応に、ヒタカは安心する。
「よ、良かったー!その石、作業員の人から状態が凄くいいって言われてたんです。魔法石の事は詳しくないですが、とても綺麗な石ですね」
「十分過ぎる位よぉ。助かったわぁ~!」
満面の笑みを浮かべてシラはヒタカに礼を告げると、カウンターの下から真っ白な封筒を手渡した。え?と彼は封筒を見下ろす。意外な反応を見て、シラは「どうしたの?」と問う。
「いや…何ですか、これ?」
「やぁだ、謝礼金よぉ。ちゃんと支払うって書いてたでしょ?」
…見ていなかった。
サキトのペーパーナイフを探す事で頭がいっぱいで、魔法石の謝礼金の事など全く気にしていなかったのだ。
「あの、こちらはペーパーナイフを作って頂ければそれで」
「ああっ、ペーパーナイフ!そうそう、どうにか間に合ったけど、色をどうするか聞いてなくて!」
ごそごそとカウンターを探り、紙に包まれたペーパーナイフをヒタカに差し出して中身を開ける。オレンジの照明に照らされた新しいナイフは、傷の無い銀色の輝きを見せていた。持ち手には注文した揚羽蝶の片翼を模し、細かい模様部分は透明になっている。刃は紙向けに仕立てられ、革で作られた鞘まであった。
これを一晩で?とヒタカは目を見開き驚く。
シラは「そうよぉ」と満面の笑み。
「デザインに少し悩んだけどぉ」
「す、凄い!凄いですよ!これはサキト様が喜んでくれます!」
「うふ、良かったぁ。そうだ、色はどうだったっけ?」
「あ…青がいいそうです」
羽根の模様に入れる色を指定すると、シラは「分かったわぁ~」と店の奥へ引っ込んでいった。やはり通路が狭く、彼女は行き交う客にごめんねぇ、と謝りながら移動していった。
会計ベースで立っていると、品物を手にした客がカウンターにやってくる。ヒタカはシラが居ないのでどうしようか焦った。
「お願いしまーす」
「あ、あの、今シラさん、お店の奥に行ってるので…」
参ったなと困惑していると、カウンターの下からぴょんと何かが跳ね上がった。
『やあやあやあ、お客さんだね』
「…わ!!」
突然出現する豆のぬいぐるみ。
『すぐに戻るから待ってておくれ』
どうやらカウンターから離れている時に対応するらしい。さすがにぬいぐるみには金銭のやり取りは無理なようだ。ゆらゆらと揺れながら、来客の相手をする役割を果たしているらしい。
女性客が多いこの店では、このぬいぐるみの存在はなかなか好評のようで、「可愛いー!」とぬいぐるみを興味津々に眺めていた。
『ぼくは豆ですよ』
「変わってるぬいぐるみだね!」
客がぬいぐるみに話しかけ、不思議そうにしながら笑う。
『そうなんですよ。アストレーゼンから来ましたよ!』
アストレーゼンで流行っているようだ。…という事は、このぬいぐるみは輸入してきた物か、とぼんやりとヒタカは思う。変な物もあるものだな、と。
『ぼくの仲間がたーくさんいるのです!アストレーゼンに行ったら、にこにこしながら搾ってくる司祭と、目付きの悪い仲間の魔法使いには気をつけて下さい!燃やされてしまいますからね!』
「?」
どういう意味なのだろうか。ヒタカは首を傾げながらぬいぐるみを見ていると、ようやくシラが「ごめんねぇ」と言いながら戻ってきた。支払い待ちをしていた女性客の応対を済ませ、遅くなったのを丁寧に謝った後、彼女はまたヒタカにペーパーナイフを見せる。
改めて色付けされたナイフを見た彼は、つい「わああ…!!」と歓声を上げた。透明だった模様部分に、青をベースにした色が入っている。青だけではなく、水色や、中には緑色も入っていた。まるでステンドグラスのような美しさがナイフを彩る。
凄い!とヒタカは喜んだ。これならサキトも満足するだろう。




