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シェノメルン国立魔石採掘場7

 歩く度に土埃が舞う道を歩き、採掘場事務所の小屋へ向かっていると、フランドルは溜息混じりの口調で「またあいつ出てこないかなあ」と呟いた。

「え」

「さっきの」

「………」

 もういいだろう、と返したいが言えない。

「見た?あいつの」

「いえ…あの、見たくないので下までは」

 それが普通だ。何悲しくて他人のを見なければならないのか。

「俺の方が立派だ」

「………」

 彼はそれが一番言いたいだけなのではないだろうか。ヒタカはそれに対してどう返したらいいのか分からず、苦笑いしか出来なかった。

 歩くとザクザクした感触のする道の両側は、あちこち機材やら石が山積みにされている。行き交う作業員達はこちらを見ると、固いヘルメットを脱いで頭を下げてきた。通達が届き、礼を尽くすように知らされているのだろう。

 事務所の扉をノックし、再び中へ入る。誰も居ない事務所で、魔法石が完成するのを待つことにした。

「座るか」

「は、はい」

 傾きそうな木の椅子に腰掛け、休憩。中にある簡易的な家具は、ほとんど年季が入っているようだ。

「物持ちいいなあ」

「…ですねぇ…よく壊れないなぁ…」

 休憩する時間以外は作業しているのだろうか。事務所に立ち寄る作業員の気配すら感じない。石を削り取る重機の振動がこちらまで響くと、ガタガタと戸棚が揺れた。

「響きますね」

「ああ…」

 揺れる家具類に気をつけていると、ようやく事務所へ近付く足音が聞こえ、ガラリと扉が開かれる。

「お待たせしました!魔法石です!」

 応対した事務所の作業員が日焼けした赤い顔で室内に入ってきた。彼の手には透明に輝く宝石。わあ、とヒタカはその美しさに目を見開く。

 あの土に塗れた石が、こんなに綺麗になるとは。

「うわああ、凄いな!光ってるじゃないか!」

「これは魔力が良く浸透しますよ!いやあ、良いものが出来て良かった!」

 彼は得意気にそう言うと、戸棚から布を出して魔法石を包むと、紙袋に入れてフランドルに手渡す。石は意外に軽く感じた。

「何個か似たような石も入れました。サキト様に宜しくお伝え下さい」

「ありがとう。あいつも喜ぶよ」

 余分にくれたのなら、サキトにもお土産が出来る。フランドルは歯を見せながら作業員に礼を告げた。

 シェノメルン採掘場から、再びシャンクレイスの城下へ戻ろうとすると、ヒタカは「ん?」と何かに気づく。フランドルは彼が立ち止まったのを見て、どうした?と声をかけた。

 採掘場は城の後ろに位置し、城の周囲は固く高い城壁に包まれている。

「フランドル様、あの階段は城に続くんですか?」

 城壁に沿って、石段が見えた。石段の先には扉があり、何年も使われていないように見受けられる。フランドルはそれを見るや、「何だ」と驚いた。

 階段の先の扉を見れば、城の二階に当たるだろうか。

「遠回りしなくても良かったって事か!」

「は…はあ」

「あそこから城に入ってしまおう。面倒が無いしな!」

 城が大きすぎるせいで、自宅でも知らない出入口があるのだろう。フランドルは時間が省けるな、と笑い声を上げた。確かにかなり短縮になる。早く帰ってきて、というサキトの希望も叶えられそうだ。

 生い茂る緑を掻き分けながら、急な造りをした裏階段をフランドルが先に上がっていく。どの辺りに繋がるかなあ、と考えながら、ようやく扉の前に辿り着いた。

 木製の小さな扉は、金具で補強されているがきちんと開きそうだ。しかし、ドアノブが無い。

「ここから開きそうにないな。物音がする…」

 中から開けるタイプらしい。

「いい匂いがしますね」

 コーンクリームの匂いが漂う。ヒタカは空腹を覚えた。通気孔のような所から漏れているようだ。

 フランドルは扉をガンガンとノックする。

「おい、誰か居るか?開けてくれないか!」

 激しくガンガン叩いた後、間を開けて緩やかに扉が開いた。良かった、近道だとヒタカに顔を向け笑っていた彼だったが、いきなり扉の隙間から棒が上から激しい勢いで降り下ろされる。それに気付いて、反射的にああっ!とヒタカが叫んだ。

 ゴツン!!と固い何かがぶつかる音がした。

「…この泥棒が!!こっから入れると思ったが!?」

 訛りのきつい若い女の声が飛び込んでくる。フランドルは頭を押さえて屈み、「ぐぁああ!」と悶絶していた。

「ふ、フランドル様!!」

 ヒタカは慌ててフランドルに駆け寄る。

「昼間っから堂々と盗みに入ってくるんだが!?おめぇがだは上手いこといったど思ってんだろが、そうはいがねどこの盗人め!!ぶっ殺してやる!!」

 怒り狂うメイド姿の少女。ヒタカは頭を押さえるフランドルの前に立ち、慌てて叫んだ。

「ちっ、違います!落ち着いて下さい、よく見て!!こちらはフランドル様です!!」

 いきなり棒で殴り付けてくるとは、酷い女だ。

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