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シェノメルン国立魔石採掘場2

「そうか。結構歩き回ってるけど、案内看板を見ないからなぁ」

「え?じゃあ、街で目的のある買い物をする時は…」

 再び足を進めながらヒタカはフランドルに問う。ミニマップでも持参するのだろうか。

「勘だ」

「は…はあ…」

 何だか男らしい。

 シャンクレイスの街は結構広いのだが、野性の嗅覚が働くのだろう。色々突き詰めて考えるのが面倒になってきた。ようやく現在地付きの立て看板を見つけ、二人は採掘場の位置を確認する。

 看板は少し古めかしく、所々印字が剥がれていた。

 そして採掘場の名前を探し当てると、フランドルは「何だ」と拍子抜けするように呟いた。図面では城をぐるりと後方に回ったすぐ先にある。

「近いな。すぐに終わりそうだ」

「そうですね…」

 採掘場の名前はシェノメルン国立魔石採掘場。魔石のイメージで描かれたのか、雫形のルビーのマークが記載されていた。

 位置が分かった所で二人は採掘場を目指す。

 一旦街から出て、それから街に沿って城の後方に進む事にした。どうせなら、大きい魔石を頂いてこようと意気揚々に進むフランドル。

「確実にビビるだろうな!」

「あまり原石を見る機会が無いので、楽しみです」

 魔法に疎いヒタカは、初めて見た際、その便利さに腰を抜かしそうになったものだ。稀にサキトが魔法を使うのを見るが、それでも驚いてしまう。

 街の外れに差し掛かると、小さな案内看板が見えた。

「ははあ、これだな。ここから道なりに行けばいいらしい」

 フランドルは看板の前で仁王立ちする。そして、彼と向き合う案内看板にはおまけのように小さく注意書きがあった。


『通行時には魔物と変質者に注意して下さい』


「………」

 ヒタカはその部分に目がいってしまう。

「どうした?クロスレイ」

「あの、魔物は分かるんですけど変質者に注意して下さいっていうのは…」

 指摘された場所に、二人揃って注目した。

「魔物が居る場所に変質者が潜んでいるとは。随分気合の入った変質者だな」

 着眼点が違う気がする。さすがに、男二人相手だと変質者は出現しないと思うが、気をつけるに越したことはない。行くぞ、というフランドルの言葉に、ヒタカも頷いて先を急いだ。

 街と外部を仕切る壁に沿うように砂の小道がある。そこへ入り、道なりに真っ直ぐ行けば辿り着くようだ。しかし壁と道を挟んだ逆側は、同じ壁ではなく鬱蒼とした木々が生い茂り、日中でも少し暗く感じる。街の中は魔物を弾く結界を常に張っているが、稀に掻い潜って出現する場合もあった。

 比較的安全な結界があるものの、油断は出来ない。

 森林独特の青臭い匂いが周囲を漂い、ヒタカはつい噎せてしまった。

「魔物は毎度見てるから、変質者にお目にかかりたいもんだな」

「えっ…見たいんですか?」

「どんなもんかと思ってな」

「えっ」

 世間知らずか、それとも天然なのか、好奇心旺盛なのか、彼の場合良く分からない。出来ればお目にかかりたくないというのが普通なのだが。

 進む度に木々の隙間を縫って日の光が降り注いでくる。それはとても綺麗な風景として、視界に映り込んできた。まだ日に暖まらない冷たい風が、全身を引き締めてくる。

「ここから見える城もなかなかいいものだな」

 成人男性の背丈を越える壁から見えるシャンクレイスの王城。視点を少し変えるだけで、いつもと違ったように見えてくる。ヒタカは何故か、その城が遠く見えた。

 自分とは違う世界、という印象を受けてしまう。

 平民の自分が、あの城で、そしてあの王子に仕えているだなんて、まだ信じられない。サキトは一体自分の何が良くて傍に置きたいと考えたのか、納得出来ずにいた。

 君は僕のものだよという謎めいた言葉が、自分の胸の中で甘くのし掛かる。意味深に微笑み、まるで誘惑するように嵌められた指輪の手に口付けするサキトの気持ちが分からない。

 その時に見せてきた、恍惚とした甘い表情を思い出すと、胸がきゅうっとざわめくのだ。

「うう」

 ついヒタカは呻き声を上げた。

「どうした?腹でも下したか?」

 フランドルはヒタカに問う。そこでハッと我に返り、「だ、大丈夫です」と気持ちを落ち着かせる。まさか彼の弟に心を乱されているとは言えない。

 溺愛している感があるから、発狂するかもしれない。

「それにしても、退屈な道だなあ」

「やはり、結界の効果が効いてるんですね。魔物の気配が感じられません」

 砂を踏む音と、木々のざわめきだけが周囲を響かせていく。

 魔物に遭遇しなければ、その分早く仕事が終わりそうだ。余計な邪魔が入らなければそれでいい。ひたすら平穏無事を願うヒタカとは逆に、一方のフランドルは「早く変質者出ないかなあ」と変な期待をしていた。

 出る事を前提に考えているのだろうか。

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