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シェノメルン国立魔石採掘場

 翌朝、ヒタカはサキトが用意した譲渡許可証を貰い、護衛剣士の詰所に顔を出していた。本来ならば今日は一般兵士との合同訓練が割り当てられていたが、用件が用件なので訓練はキャンセルされていた。

 護衛剣士と名を与えられた以上、日頃の訓練も必要で、護衛剣士も一般の兵士達に混じって剣技の稽古や身体を鍛えている。一日交代で変わり、必ず参加しなければならないのだ。

「おう、クロスレイ。準備が出来たか?」

 既にフランドルは詰所で準備を完了していた。彼より遅かったのか、とヒタカは慌てて頭を下げる。

「すみません、遅くなりました!」

「いいよなぁクロスレイ!お使いで外に出るとかさぁ!俺らなんか仕事で缶詰だぞ!」

 仕事中にも関わらず、コーヒーを優雅に飲みながら雑誌を読むアーダルヴェルト。発言と行動が食い違っていた。

 イルマリネは向かい側のデスクに座る彼に向け、吹き矢を放つ。重りが先端に付いている矢は、見事に彼の額を直撃した。頭を突き刺す衝撃で、彼は動きを停止する。

「あ…が…!!!」

 彼は雑誌を手にしたまま、背中から床に椅子ごと倒れた。倒れた振動で、室内が若干震える。

「仕事してないだろ」

 白目を向いて倒れたアーダルヴェルトに、イルマリネは吐き捨てるように言葉を放つ。それを見ていたアルザスは「怖ぇ怖ぇ…」と身を小さくした。

 倒れたアーダルヴェルトを見下ろし、ヒタカは「大丈夫でしょうか…?」と問う。

「岩より頑丈だから心配しなくていいよ。こちらの事は任せて、君はフランドル様と用件を済ませておいで。…フランドル様、クロスレイはまだ新人のようなものですので、ご無礼がありましたら遠慮なくご指摘してやって下さい」

 やはり仕切る人間が居ないとここは駄目らしい。フランドルは手をヒラヒラさせ、「任せとけ」と返す。さすがに今回は猛獣向けの革の鎧や鉄の鎧などではなく、護衛剣士用の白い制服姿だった。体格が大きいと、がっちりとした制服も生える。

 元々細く見えるように作られているが、大柄なタイプが着用すると更に体型が際立って見える。一般の兵士の憧れとして、その制服はある意味特別視されていた。

「じゃあ、行くか、クロスレイ」

「はい!では、行ってきます!」

 支給された剣を腰のベルトに括り、ヒタカはフランドルの後に続く。最後に頭を下げ、詰所から出ていった。ふう…と一息つくイルマリネ。

「あ…が…が…」

 吹き矢攻撃を受け倒れたままのアーダルヴェルト。アルザスはひっそりと雑誌を手に角に向かおうとするのを、イルマリネは見逃さなかった。

「アルザス」

「!!!」

 真顔だと彼の持ち前の美貌が引き立つ。冷たい目線がきつい。

「仕事しろ」

 一番の先輩の立場なのに、これでは逆なのではないだろうか。

「は…はい…」

 白目を剥く位の吹き矢を喰らいたくない。アルザスは弱々しく返事をした。


 城から外へ出ると、爽やかな青空が目に飛び込んできた。つい両手を上げて全身を伸ばしたくなる。風も緩やかに吹き、庭園の木々を揺らしていた。

「あ…そうだ、フランドル様」

「んん?」

 ヒタカはサキトが用意した譲渡許可証が入った封筒をフランドルに手渡す。何だこれ、と不思議そうな面持ちで裏返しにすると、封の部分に付けられているセラフィデル家の紋章に気が付いた。

「こいつは?」

「サキト様が、魔法石の譲渡許可証を作成して下さいました。採掘業者に渡して欲しいと」

「ほほう!」

「採掘場所は国の管轄だから、個人的な売買ではなく王家の命でという事にすれば、話が進めやすいだろうって」

 封筒を胸元に収め、「ありがたいな」と笑う。

「買う気でいたよ」

「私もです。サキト様はご自分のせいで、話が大きくなってしまったみたいだと言ってました」

「帰ったらいい子いい子してやらなけりゃならないな!」

 城門から出て、採掘場への道を探す。案内図がどこかにあるはずだ。国の中心のシャンクレイスは、国内は勿論、海外からも観光客が多い。迷った時や、施設などの場所を知らせる為に街のあちこちに看板が置かれていた。

 路面を走る馬車の車輪の音が心地よい。

「ええっと…採掘場採掘場っと」

 連呼しないと何処が目的地なのか忘れがちになるようだ。

 先を進みながら連呼するフランドル。しかし、不意にぴたりと止まった。ヒタカは「!」と同じく立ち止まる。

「看板が無い!どこだ!」

「…あ、歩いてればあちこちにあると思いますよ」

 何かあったのかと思った。大雑把な性質なのだろうが、あのサキトと同じ血が流れているとは思えない。

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