表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/140

小悪魔王子と下僕系剣士2

 ルーヴィルから預かった棘の抜けた薔薇を持ったまま、ヒタカは第三王子サキトの私室の前に立つ。見るからに重厚そうな、彫り込み入りの茶色い扉を、深呼吸した後ノックした。きちんとノックしないと後で嫌味の材料になりかねない。

 自分の主君となる小さな王子は、作法にうるさいのだ。

 恐らく、嫌という程教えられたせいだろう。

「はぁい」

 穏やかな声が返ってきた。それを聞いて、ヒタカは少しばかり安心する。機嫌はそんなに悪くはなさそうだと。失礼します!と声を張り上げ、重い扉を開いた。

 たった一人の部屋にしては広すぎる室内。綺麗に毛羽立ったクリーム色のカーペットの上を、小さな青いボールが転がっていく。特注品の家具が揃った、贅沢過ぎる部屋の主人は、専属の剣士の姿を見るなり「遅かったね、クロスレイ?」と嫌味を含めた言葉を投げつけてきた。

 背もたれの部分ですら細工が入っている豪華な椅子に、悠然と腰かけていた小さな少年は、ヒタカに近付くと、可愛らしい人形のような顔を不満そうに歪めた。

「どんな大切なご用件があった訳?」

「…あ、あの、…それは」

 アルザスに昼の焼きそばパンのお使いに頼まれたとは言いにくい。モゴモゴしていると、いきなり左足の爪先に痛みが入った。

「痛ぁっ!」

 サキトの足が、ヒタカの爪先を思いっきり踏んづける。

「はっきり言う!!僕に言えない内容じゃないだろうね!」

 …やっぱり怒ってる!

 どう見ても巨漢のヒタカが、小さな少女のようなサキトにたじたじになってしまうのは、王家の者と一般庶民出身という、酷い格差によるものだ。ヒタカはサキトには絶対に逆らえない。何か反論しようものなら、たちまちご機嫌を損ねるだろう。甘やかされた王子様は、意に叶う奴隷を見つけたのだと、護衛剣士らや使用人の間で話題になっていた。

 我儘王子のお付きになった事で、余計にヒタカの婚期が遅れる事は間違いない。本当なら普通の一般剣士で居たかった、と後悔しても既に遅かった。

 武術大会、それも王族が主催するセラフィデル杯の一般剣士枠において、図らずも優勝してしまったのが運のツキだった。その優しそうな風貌に似つかわしくないような馬鹿力が目立ちすぎ、それを見ていた護衛剣士の長が優勝したヒタカを引き抜いたのだ。初めは確かに嬉しかった。浮かれ、舞い上がり、これで取り柄が無い自分に婚活の材料になりうると思っていた。

 しかし。…しかし、だ。

 現状は先輩剣士にこき使われ、理不尽に怒鳴られる日々。王族の護衛となれば、変わり者三兄弟に振り回されるのが現状。

 挙げ句には第三王子サキトに、お忍びで隣国の司祭の国アストレーゼンに行くから付き合えと連れられる始末。アストレーゼンでは彼の命を狙う暴漢に襲われ怪我を負い、自意識過剰の少年剣士に怒鳴られ、アストレーゼンの街に行きたいと我儘を言い出したサキトが誘拐されてしまうというとんでもない状態に置かれた。最終的には、アストレーゼンの司聖補佐をするオーギュスティンに、「あなたは苦労するタイプですね」と溜息混じりに同情までされた。

 この事があってから、ヒタカはサキトの専属護衛剣士に選ばれてしまった。もう婚活どころではない。

 せめてこの目の前に居る王子様が、その外見同様可愛い気があればいいのにと願わずにはいられなかった。

「クロスレイ」

「はっ、…ははははいっ!」

「僕に断りもなく勝手に動く事を禁止する。君は僕の専属剣士なの。意味分かる?君は僕のものなんだからね」

 その言葉はやけに魅力的にも聞こえてくるが、ヒタカにとっては悪魔の命令だと思えた。

 金色のふわふわしたウェーブがかった髪や、人形のようにまん丸く宝石を埋め込んだような青い瞳、上品なお仕着せで包み込む華奢な身体はどう見ても少年より少女。シャンクレイス人独特の白い肌がまた、余計な雑念を呼びそうだ。頬は薄いピンク色をし、睫毛も長い。これでは彼の兄上様方が大事に思いたくなるはずである。

 思えば、隣のアストレーゼンに居た司聖ロシュを護衛する黒髪の剣士もシャンクレイス出身で、こちらもまた愛くるしい顔立ちをしていたが、性格はサキトよりかなりまともだったなと思い出していた。むしろ、話が分かる分彼の方がいい。

「それでは俺…いや、私はサキト様と同僚剣士の間で板挟みになってしまいますよ…」

「ふうん…それなら、線引きが必要だね」

「あなたを護衛するには、然るべき鍛練も必要で」

「まだ新人の癖にいっちょまえに言うんだね、クロスレイ。…ま、いいよ。君には君の立場があるしね。でも僕に断りもなく勝手に部屋から出たりしないでよ?」

「は…はあ…すみません」

 ヒタカの素直に折れる所が、サキトは気に入っていた。他のベテラン剣士は無機質な反応で面白くないのだ。人によっては、嫌そうな表情を垣間見せてくる。子供相手だからと、気付かないと思っているのだろうか。

 自分は普通の子供ではない。王の息子、そしてこの国の将来を担うかもしれない人間だ。好きなように身動きを取る事が出来ない籠の鳥。自由のきかない籠の鳥ならば、籠の中で好きにさせてくれても罰は当たらないだろう。

 ヒタカは自分だけの玩具だ。意のままに操れる自分の玩具。離れる事は自分が飽きない限り許さない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ