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『漢過ぎる男』第二王子フランドル10

 フランドルは新品独特の光を放つ彼の指輪をまじまじと見ながら、やっぱりなと呟く。頭の中で声がして戸惑うヒタカに、「なかなか立派なものを付けられちまったな」と笑った。

「どういう事ですか?」

「これ、サキトの魔力が込められてんだ。その後に嵌めたい奴に付けさせて、一種の契約を結ぶと主従関係が決まる。付けさせられた時に契約を交わさなかったか?」

「えっ」

 馬乗りにされてそれを付けられた際、サキトは執拗に「誓って」と押してきたのを思い出した。

「そ、そういえば」

「盟約の証って言うんだよ。付けられた側は、指輪の主が解除しない限りほぼ一心同体みたいになる。サキトが望めば、あいつの傍まで移動できるしな。あいつめ、俺にくれても良かったのに」

 そんなあ、と情けない声を上げるヒタカ。それと同時に頭の中ではサキトの声がひたすら響いていた。

『ちょっと、聞いてるの!?返事くらいして、クロスレイ!』

 怒り口調の主の声に、ヒタカは「は、ははははいいいっ!!」と背中をぴんと張り叫ぶ。フランドルはきょとんとした後、ふっと笑った。

 声が聞こえるんだろ、と。

 その図体に似合わず怯えて涙目のヒタカは、フランドルに「どうすればいいんですか?」と問う。頭の中の声に、どう返事をしたらいいのか分からない。

 フランドルは彼を見ながら、ここまでおどおどする性格なのかと内心呆れる。

「頭ん中で思えばいいんじゃないか?考え事するみたいに、話しかけてみるといい」

「は、はい」

 言われるまま、ヒタカはサキトの声に反応を恐る恐る返す。

『(な、何でしょうか、サキト様!)』

『はぁ、やっと返事くれたね。遅いよ!いつまでほっつき歩いてる訳?もう暗くなっちゃうよ!』

『(今戻りますので!少々お待ちください!)』

 最初から説明してくれたら良かったのに、と思う。いきなり声がするから、彼が迎えにきたのかと勘違いしてしまった。単独で動く事はあり得ないのだが。

『何か聞こえたけど』

『(へっ!?)』

『最初から説明してくれたら良かったとか何とかって』

『(い、いや!そんな事思っていません!!)』

『僕と会話してる時に色々考えない方がいいよ。伝わるから』

 え、とヒタカは目を丸くする。

 それでは、浅ましい考えや変な気持ちになったりする事がサキトに筒抜けになるのではないだろうか。

『…だから、僕とこうして会話する時だけだってば。安心して。君が常に頭の中で思ってるのを盗み聞きする趣味なんて持ってないから。自惚れないで』

『(そうですか…良かった)』

『良かったって何なの?…まあいいよ、早く帰ってきて』

 それからサキトの声は聞こえなくなった。一気に緊張感が抜け、はぁああ~…とよろめく。フランドルは弱るヒタカを見ながら、あはははと朗らかな笑い声を上げた。何となく、サキトが彼を傍に置いた理由が分かった気がする。

「会話できましたぁ…」

「お、良かったな!」

 疲弊するが、この手に付けられた指輪の使い道に感心した。

「でも、この指輪って便利ですね。すぐに連絡がつくなんて。サキト様が迷子になった時に話しかければすぐに見つかりそう」

「んん?こっちからは連絡出来ないんじゃないか?」

「え!?」

「その指輪、セラフィデル家でしか扱えない特注品なんだよ。王家の人間が一番信用できる家臣に与えるやつ。内密に話したい時に便利だろ?口で喋ったら、どこで誰に聞かれるか分かんねえからな。離れてた場所に居てもすぐに命令出来るんだよ。悪く言えば、お前はサキトの操り人形みたいなもんだ。その指輪にあいつの魔力が入ってんなら、逆に魔力の持たないお前が指輪を介して話し掛けるのは無理だと思うぞ」

 突っ込まれる毎にヒタカの表情が歪む。要は、全てサキトの意のままになるのだ。これでは婚活どころか、相手にあらぬ誤解をされるかもしれない。

「ふ、フランドル様も指輪をお持ちなんですか?」

 セラフィデル家の特注品となれば、彼もまた持っているのだろうか。ふと浮かんだ疑問をぶつける。

「え?俺?俺はいらんよ、面倒だろ?大体、誰かに頼む位なら自分で焼きそばパン買いに行くし」

 確かに自分で行く方が早い。しかし、フランドルとは真逆のサキトは、力も無く単独で動けば完全に無防備になる。危険回避の為に、買い出しでも他人に命じるだろう。

 サキトに嵌められた盟約の証を憂鬱に見つめるヒタカは、がくりと肩を落としてしまった。

「そんなに凹むなよ。俺が変わりたい位だぞ!ま、城に戻ったらサキトに色々説明してやるから、明日に備えとけ」

「はい…」

 変われるものなら変わって欲しい。これでは明るい家族計画から余計に遠ざかる気がする。いい相手を見つけたら僕にもきちんと紹介して、と言ったくせに。

 あの可憐な顔が、更に小悪魔に見えてしまいそうだった。

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