『漢過ぎる男』第二王子フランドル9
真っ白でいかにも敬礼が似合いそうな制服。普通の旅人の格好では無い。女の質問に、ヒタカは「はい、まあ…」と曖昧そうに返事をした。
「あらぁ、そうなのぉー!?嬉しい、まさかお城の剣士様に会えるなんてぇ。それなら、一般人のお願いをちょっと聞いてよぉ。魔法石がね、どうしても欲しいのよぉ」
「何に使うんだよ?」
特徴がある猫なで声を更に酷くさせた彼女は、更に二人に詰め寄ってくる。胸元をどうにか隠して欲しい、とヒタカは出来るだけ見ないように顔を反らした。
がっつりと化粧を施した彼女は、良く見ればエキゾチックな雰囲気で、彫りの深い顔をしている。爆発したような頭をどうにかすれば、かなり魅惑的な女性のはずだ。この髪型のせいで、余計派手に見える。
「ほらぁ、言ったじゃない。私、本職は魔法を使って色んな雑貨を造る錬金術師なのよぉ。自分で使うロッドを造りたいんだけどぉ、石が無いのよぅ」
真っ赤な唇を尖らせ、彼女は説明する。
そういう事か、とフランドルは納得した。
「ならその辺に転がる石でもいいじゃないか」
「魔法石じゃないと、魔力が浸透しないのよぅ。お兄さん方は魔法使いじゃなさそうだから分からないだろうけどぉ…取りに行ってくれてる間、あたしがペーパーナイフをデザインして作ったげてもいいのよぉ」
その申し出に二人はぴくりと反応した。女は会計ブースの下から一振りのペーパーナイフを取り出す。銀色の、持ち手に鳥の彫り物を施されたナイフ。細やかで優雅なデザインで、まるで柄の部分から羽ばたきそうだ。
フランドルはその精巧さに、「ふぁっ!?」と変な声を上げた。こんな間延びした口調のぼんやりした女に、細かすぎる彫り込みが出来るとは思ってもいなかった。
「こいつを、あんたが?」
「そぅよぉ。素敵でしょ?あたしのお願い聞いてくれたらぁ、サキト様にぴったりなのを造ったげるわぁ♪これから探し回るの、大変よぉ。もう夜になっちゃうしぃ、お店も閉まっちゃうわ」
ヒタカは困ったなあ、とフランドルを見た。確かにもう夜になる時間帯だ。早く戻らないと、仲間やサキトが心配するだろう。
まずは一旦下がり後日新たに探すか、彼女の依頼を受けて魔法石を調達するか、選択を迫られる。ううん、と悩むヒタカ。遠出するかもしれないなら、許可を貰わなくては…と慎重に思いを巡らせていた彼の横のフランドルは、「よし、なら頼む」とあっさり答えを出していた。
「へぇっ!?えっ!?フランドル様!?」
がくりと体勢を崩す。
「要はその『まほーせき』とやらを取りに行けばいいんだろ?動かない分、取りに行きやすいさ。伝説のバッファローよりは気楽なもんだ」
要はバッファロー捕獲よりはマシだと言いたいらしい。
「装備するにもあれだろ、鉄の鎧とか革の鎧とかいらんだろ?」
「………」
いらんだろ?と同意を求めないで欲しい。
「しかし、フランドル様。サキト様に許可を貰わなくては」
「おう、任せろ!俺がサキトに話をつけておこう」
思いっきり考えていたのが馬鹿みたいに思えてきた。だが、フランドルが話をしてくれるなら大丈夫だろう。
「頼もしいわぁ★魔法石の採掘場はね、この街から看板があるから、道なりに行けば辿り着くはずよぉ。ただ、狂暴な魔物とか居るかもしれないからぁ、行くのは明日が良さそうよぉ」
「よしよし、分かった。任せろ、女」
「あたし、シラって言うのぉ。シラ=ナナサ=ウェルレック。そうそう、お店の名刺あげるぅ」
いそいそと名刺を差し出すシラ。この店の名前はナナサというらしい。ミドルネームから取ったようだ。
「ありがとうございます。えっと、私はヒタカ=ウラスト=クロスレイです。このお方はフランドル=エルクシア=セラフィデル・シャンクレイス殿下です」
「ヒタカ君に、フランドル様ね。嬉しいわぁ、こんな立派な人達とお知り合いになれるなんてぇ」
シラは余程嬉しいのか、満面な笑みを両手で押さえる。
「閉店作業が終わったらぁ、早速デザインするわ♪素敵なのにするから、楽しみにしててぇ」
雑貨屋ナナサから出ると、外は既に暗くなっていた。魔力で灯る街灯の明かりが路地を照らし、人々が家路に向かう様子が目に付く。
ヒタカはフランドルと並んで城に向けて移動を始めた。
「あのう、明日向かうんですか?」
「おう!行くぞ、当たり前じゃないか」
「そ、そうですか」
「魔物が出てきた時のお前の力も見てみたいしな!」
やはり自分も行かなければならないようだ。フランドルの腕前は良く理解しているが、共に動くとなれば緊張する。
サキト様に許可を取らなければ…と思っていると、不意に違和感を感じた。じわりと頭の芯から熱くなる感覚を覚え、同時に聞き慣れた少年の声がする。
…クロスレイ、今どこに居るの?
「…はっ!?えっ、さ、サキト様!?」
「ん?サキトは居ないぞ」
周囲を見回すヒタカを、不審そうな面持ちでフランドルは見つめる。そして挙動不審になるヒタカに対し、「ははぁ」と納得するように頷くと、彼が指に嵌めている指輪に注目した。
これだろ!と指輪が付いていた手を取る。




