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魔導師オーギュスティン26

 ヒタカは避けられない非常事態に、ここまでかと目を閉じる。強烈な熱波が全身を包んだ時、不意にサキトの顔が脳裏に過った。結局、全然守れてなかったなと情けなさが心の中を占める。

 …ごめんなさい、サキト様。こんな事になるなら一度位気持ちを伝えれば良かった。

 観念し、黒焦げになっちゃうかなあと目をきつく閉じる。

『(クロスレイ!)』

 頭の中に響く主人の声。え?と閉じた目を開いた瞬間。首に加圧がかかり、ずしりと重さを感じた。馴染んだ香水の匂いと共に。

「え!?」

 目の前。すぐ目の前にサキトが居る。ヒタカに抱きつく形で、魔法のバリアを張って火球を防いでいた。甘く可愛らしい顔をしかめっ面にしたまま、「僕を置いて死ぬとかやめてよね」と言った。

 ヒタカは顔をかあっと真っ赤にする。

「あっ、あっ、えっ!?」

 何故こんな危険な場所にと慌てる。魔法で浮遊するサキトは、これだよと自分の指に着けている盟約の証を示した。

「僕から君の場所にも行けるようにしたの」

「何もっ、こんな危ない所にっ」

「へえ、あのまま黒焦げになりたかった訳?」

 突然出てきたサキトを見つけたオーギュは、二人を守るバリアを目にしてほっと安心する。危うく大惨事になる所だった。火球はバリアを撫で、そのまま大木にぶつかった。

 きゃああ!という叫び声が辺りを響かせていく。

 バチバチと燃え焦がす音を立て、その胴体をうねらせた。

『よくもやったわね!人間のくせに!』

「そんなおっきな身体じゃ、自由に逃げられないじゃない」

 ヒタカに抱きつきながらサキトは呆れた。

『…何よあんた!いつの間に』

「クロスレイが危ないのを見てられなくてね」

 よいしょ、とサキトはヒタカから腕を離し、大木を見上げた。

『あんたみたいな子供に何が出来るっていうの!』

「僕はオーギュ殿みたいに大きな魔法は使えないよ。でもこの子を守ってあげなくちゃ」

 十歳以上年下のサキトに、子供扱いされるのは何ともくすぐったい。きつく縛り付けてくる枝が煩わしくなり、ヒタカは剣を使って逃れようと試みていた。

 サキトはちらりとそんな従者を横目で見ると、「待ってて」と言った。

「今、変に解かれたら落っこちちゃう」

「で、ですがサキト様」

 あなたを守れなくなる。ヒタカは言いかけたが、幼い主は「いいから」の一言で止めた。迂闊に動いて落下したら面倒な事になる。彼は枝に絡まれたまま浮いている状態なので、余計な事をして欲しくなかった。

 小馬鹿にした笑いが大木から聞こえてきた。

『どう戦う気?素手のまんまじゃないの』

「さあ…?」

 ちゃんとした武器も持っていない。サキトはただ強がっているだけだった。

 自分でもこの相手に対処すればいいのか、ここまできてさっぱり分からない。魔法は使えるものの、初歩的な魔法だけ。こんな状態でどうやってヒタカを守っていくのか。

『ふ…何にもできないくせに出てきちゃって』

 大木の中心から緑色の淡い光が放たれる。魔防のバリアを維持したままのサキトはごくんと唾を飲みこんだ後、やってみなくちゃ分からないじゃないかと呟いた。

 自然をイメージさせる緑色の光は、きっと風を呼び込む魔法だと今までの勉強で理解していたサキトは、それに対抗するべく魔法の力を更に込めバリアを強めていく。

「サキト様!どうかここは私にお任せ下さい」

「オーギュ殿」

 魔力を用いて浮上してきたオーギュは、ヒタカを守ろうとするサキトに声をかける。しかし、サキトは頑として首を振った。

「たまに僕がこの子を守ってあげないと」

「さ、サキト様、お気持ちは凄く嬉しいんです…が、ここは戦闘慣れしている俺に」

 ぎっちりと両手を枝に拘束されたままのヒタカは前方のサキトの安全を危惧していた。防具も何もない彼に守って貰うつもりは毛頭無い。ここで逆に守られては、護衛としての役目を全く果たせないという事になり先輩方の説教の餌になってしまう。アルザスには殴られ、アーダルヴェルトには馬鹿にされ、イルマリネには怒られてしまうだろう。レオニエルはキノコしか見ていないだろうから大丈夫だが、サキトを溺愛する次兄のフランドルの反応も恐ろしい。

 大木からの緑の光が更に強まる。ヒタカは「サキト様!」と怒鳴った。

 オーギュはサキトの前に進み出ると、彼を庇う形で無詠唱の光弾を出現させる。そして前方の敵の詠唱を阻むべくそれを放った。一瞬光が鈍くなるのを確認すると、「お逃げ下さい!」とサキトに言う。

「嫌だ!」

 ヒタカは強情なサキトに内心困惑しながら、枝をどうにか解こうともがいていた。しかしぎゅっと締め付けてくるその枝は頑丈すぎて、なかなか振りほどけない。最初に負傷した傷跡もギシギシを痛み初めていて、このままでは無意味にサキトを危険な目に合わせてしまう。

「…それなら、サキト様。俺に絡みついているこの枝を魔法で焼き切って下さい!」

 ここに居たいなら構わない。それなら、彼の力を利用するしか無かった。

「え!?」

「服を少し燃やしても構いません。この枝を解いて貰えるだけでいいんです!」

「でも火傷しちゃう」

「俺の事はいいんです!あなたを守れずにこのまま死ぬよりは余程マシだ!」

 魔法で作られた物には、魔法で解除した方がいい。支給された剣では時間がかかってしまう。

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