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魔導師オーギュスティン24

 少女は手の大きさから次第に形を変化させ、蛍霊草を取り込みながら身を膨張させていった。青白い光が彼女を包んだ後、その姿は周囲の木々を圧倒させる大きさの大木に変化する。ヒタカはサキトを庇いながら安全な場所に避難するように告げた。

『身勝手な人間に渡せる代物じゃない。欲しかったらそれに見合った力があったら考えてあげてもいいわ!これ以上、勝手な事をされるのは我慢ならないのよ!』

 大木の中から少女の声が響いてきた。オーギュは舌打ちし、「強情ですね」と文句を呟く。

『すまない、オーギュ。私がどうにか説得できれば良かったのだが』

 実体の無いファブロスはしゅんとする。あなたのせいではないですよとオーギュは慰めると、眼前の大木を見上げながら「要は力を見せればいいだけですし」と言った。

 大量に生えてきた枝を腕の如く広げ、少女は『さあ』と勝気に挑発する。

『やれるもんならやってみなさいよ』

「…ヒタカ殿、腕は大丈夫ですか?」

 小さな草から大木に変化した少女を前に、オーギュはヒタカに声をかけた。サキトを安全な場所へ引っ込めて戻ってきたヒタカは、剣を鞘から抜き「はい」と返す。手当された腕は多少痛むだけで、あとはちゃんと動かせる事が出来る。初期の処置の仕方が良かったようだ。

 無事に草を取って帰るだけのはずが、こんなに回りくどいやり方をしなければならないとはと内心がっかりしたが、ここまできたのであれば腹を括るしかない。

「…ファブロス、サキト様を見てあげて下さい」

『御意』

 ヒタカはオーギュの前に立った。大木は枝を駆使しながら、先制攻撃を仕掛ける。鞭を思わせるようなしなやかな動きを見せ、枝はヒタカの構えていた剣に絡みついてきた。細いくせにやけに力があり、一本絡んだかと思えば更に数本伸びて絡んでくる。

 ぐぐっと呻きながら剣を取られまいとしていると、火球が背後から飛んできた。火は絡んできた枝を一気に焼き尽くしていく。熱気が顔を掠め、傷だらけの頬に響いた。オーギュの火の魔法で危険を免れたようだ。バチバチと音を立て、絡んだ枝が原型を失っていった。

「あっ」

 枝に込められていた力が抜け、焦げた欠片が落下する。

「枝が厄介ですね」

 棘だらけの物騒な杖を手にオーギュは大木を見上げた。相手は枝の一本や二本失っても平気だと言わんばかりに、更に枝の触手を増やしていく。どう対処していけばいいのか考えていると、おもむろにヒタカは呟いた。

「俺が中まで突っ込んで中心部を探してみます」

「中心部って…」

 魔物の中心部の核を狙えば大抵は一発で仕留められるのだが、見た限り大木の中心部が頑丈な木の幹に隠れていて判別がつかない。闇雲に突っ込んでいけば、命を落とす可能性もある。突っ込めばいいというものではない。

 慎重に動いた方が、と言いかけていると、杖に枝が絡みついてきた。邪魔だと言わんばかりに剣の切っ先がそれを切断していく。ヒタカは「あまりお待たせする訳にもいきません」と告げると、大木に向かって走っていった。

「ヒタカ殿!?」

 リシェといいヴェスカといい、攻撃一辺倒の人間はどこに行っても同じなのかと呆れていると、背後からファブロスの声が聞こえた。

『オーギュ』

「?」

『この者の魔力であれを止めよう』

「え?」

 引っ込めていたはずのサキトを連れてファブロスが言った。サキトはやや不満げな様子で、「僕にできるの?」と逆にオーギュに問う。同時にまた大木の枝が伸び、咄嗟に魔法で焼いた。ちょっとは待ちなさいよと睨んだ後、ファブロスにどういう意味なのかと聞く。

 ファブロスはサキトをちらりと見た後、『この者の持つ特殊な魔力はお前も良く知っているだろう』と言う。子供を戦いの中心に出す事に対し、あまり乗り気のしないオーギュだったが、サキトの持っている魔力は自分のような術者とは違うのは知っていた。

『私よりも更に大きな精霊の加護を持っている。向こうは精霊の立場で言えば下部に位置する者だ』

「ですが、どうやって」

「精霊がどうとかは知ってるけど、その精霊の出し方が分からないよー?」

 オーギュは大木に目を向ける。その間、ヒタカが頑張って中心を探している事を思い出した。早い所決めておかなければ彼の体力が尽きてしまう。

 枝を振るい、攻撃の手をこちらまで伸ばそうとするのを魔法で止めながら「とりあえずこちらでどうにかしてみますよ」とファブロスに言った。サキトは呑気に困ったなぁと呟きながらヒタカを遠巻きに見る。彼の大胆な攻撃は嫌いでは無いが、危なっかしい場面も多々あった。

「怪我が多くなってきたね…」

「私も近くまで行きますので、安全な場所で待機して下さい」

 自分が行って何か出来るのかと思うと、結局初歩的な魔法しか使えない。大木に向かっていくオーギュの後姿を見送りながら、サキトは立ち止まっていた。どうしたらいいものか。最低限の身の守り方は把握しているが、魔物が相手となれば話は別だ。自分の周囲には常に護衛がついていたので、それが当たり前だと思っていた。

 葛藤しているサキトの隣で、ファブロスは口を開いた。

『もし常に守ってくれる者が、居なくなったらどうするのだ?』

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