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 6  お姫様抱っこ

「仕事が恋人……私の姉と同じですね」

そう言ってエミリアンは少し困ったような笑みを浮かべた。

「姉もそう言って未だに独身を通しております。私より2つ上、すでに25歳なのですが」


『おっ、同士ありか。それは心強い』

女性の早婚が常識かと思いきや例外も可と知ってホッと胸を撫で下ろす。まあなんにせよ外見はまだ17歳だし、いき遅れの陰口が気になる年までだいぶありそうだ。しばらくはそっちの方面は気にせずにいられるだろう。


「それで、エミリアンさんは、ご結婚は?」

これだけ聞いて本人にも聞いてやらないと失礼だろう。そんな軽い気持ちで訊ねた。だが、エミリアンはひどく真面目に幾分うろたえながら否定してきた。

「いえ、私のような未熟者、まだ家庭を持つなど時期尚早かと」


『いや、逆に早く結婚して癒しの場を持った方が……』

でないとますます老けるかもなどと失礼なことを頭に過ぎらせ、すぐにその元凶が自分になると気がついた。ましてや、今後は護衛だけではなく、この中身と外見が合致していない主人を周囲の目からごまかしながら、指導補佐していかなければならないのだ。


『なんかすみません』

心からこの人に優しい女性との安らぎの時間をと望み、すぐに余計なお節介だと気がつく。そんな心配しなくともなかなかいい男じゃないか。精悍な顔立ちで、目はちょっときつい印象だけど、たまに表情が緩むとどこか可愛らしい。いや、これは年下だと知ったからそう見えるだけかもしれないが。とにかく、どちらかといえば確実にもてる部類に属する顔だ。だから、まず放っておいても大丈夫だろう。


『でも、見てくれに惹かれて結婚したが、仕事に夢中で家庭を顧みない旦那に失望、なんてパターンもありそうだよなぁ。将来の家庭不和の原因にならないように、私もできるだけ負担かけないようにしないとなぁ』

そんなことを考えながらまじまじと見つめすぎてしまったらしい。エミリアンがいぶかしげに訊ねてきた。

「あの、何か? 私の顔に何かついておりますでしょうか?」


「あ、いえ」

とっさに誤魔化す。

「あのご実家はどなたが?」

「はい。一番上の兄がすでに家庭を持っておりますので、安泰だと」

なるほど、長男ではないのか。ならまあある程度は本人の好きにできるだろう。そう納得したところで、城に到着したようだ。


「あ、そうだ。あの、私はいつも家族をなんと呼んでいましたでしょうか?」

危なかった。それだけは絶対に前もって聞いておかねば。


私の質問に、エミリアンさんは真剣に思い出しながら答えていく。

「お父上でいらっしゃる国王陛下のことは、ただ【陛下】と。現王妃のエリシア様のことは【エリシア様】のままですね。貴女は亡くなられた前王妃コンスタンシア様の唯一のご息女でいらっしゃいますので、たぶん……。ただ、ご側妾ルイーゼ様がお産みになられた第一王女、姉君のカロリーヌ様のことは【リーヌ姉様】とお呼びです。また、現王妃ご出生の王太子リシャール殿下、並びに、他のご弟妹たちのことは皆【あなた】とのみだったと思います。これは、実は殿下たちに貴女から話しかけることがほぼ皆無だったからなのですが」


『うーん、なんとなく家族関係もややこしそうだ。だが、ともかく姉にだけは心を許しているらしい。正室の娘の私より先に側妾が産んだ第一王女の姉なのに。……何故だ?』

これももう少し詳しい事情を聞いたり実際に会ってみたりしないとわからないことだろう。


結局、新たな疑問山積のまま、馬車は止まり、扉が開かれるのを待つことになってしまった。


「さ、どうぞ、姫」

先に降りたエミリアンが差し出してくれた手に掴まって馬車から降りる。衛兵たちだろう、宮殿への入り口まで軍服を着た男たちが両側に並んで立っている。この中をまっすぐに進んで……中に入ってから私はどう進めばいいのだ? まさか客人のように案内されるわけにもいかない。身分からいっても先頭を歩かねばならないはず。


『困った』

咄嗟にエミリアンに顔を向けると、すぐに私の困惑に気がついたらしく、

「失礼いたします」

そう声をかけて、エミリアンは私を掬い上げるように横抱きに抱き上げた。

「姫には、不慮の出来事でひどくお疲れのご様子。ご無礼ながらこのまま私室までお連れしましょう」


『うわっ、大勢の前でのお姫様抱っこ! なんと大胆な』

今までの人生で経験したことのないレベルの羞恥プレイだ。だが、今は恥ずかしがっている場合ではないな。他に手はないのだから。初めての宮殿のどこにあるか知らない自分の部屋に、案内されずに無事に辿りつけるわけがない。ここは、自動運搬ロボットとでも思って……てか、すみません、重い思いさせてるのに、なんて失礼なことを。


『なんだか、この人に謝ってばっかりだなぁ、私』

できるだけ負担をかけまいと決心してすぐにこのざまかと、ナチュラルに凹みながら大人しく運ばれていくしかない私だった。


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