目覚め
さあ、いよいよ第二幕の一話目です。
前幕で闇に呑まれた月城零志……日常に嫌気がさした彼の行きつく先とは……
―――どのくらいたったのだろう。
―――俺にはまだ、意識があった。
―――時間が経ちすぎていることを矛盾に考えても、長い
―――確か闇に呑まれたんだ、という記憶がかろうじて残っている。
―――何にも聞こえないし、何にも見えないし、何にも感じない、
ただ意識だけが残っている。はっきりと鮮明に……。
これが俗に言う『死後の世界』なのだとしたら……。
死後はこんなものか、といった妙な期待外れな感じがする。
これではあまりにも寂し過ぎる……せめて、何かが欲しい。
音でも、光でも、何か感触があるものを……せめて……何か……。
「…………」
意識が戻る、手の感覚が戻った……。
「う……あ……」
あれ? 手? どうして……。
手を動かしてみる……思い通りに動いた。
「……床?」
言葉も普通に喋れる。
真っ暗なのは相変わらずだがどうやら視覚以外の五感はすべて回復した。
前後から考え見るに俺はうつ伏せで倒れていたらしい。
「……真っ暗だな」
少々、間抜けな声を上げる。
その場に胡坐になるようにして座った。
少し状況を整理してみた……。
・ここは俺の知っている場所ではない。
・何も見えない。
・床があるという事はどうやら歩くことができそうだ。
だいぶ簡単なことしか分からないが、これだけ分かっただけでも大したものだ……。
「……よしっ」
真っ暗な中、歩いて探索してみることに決めた……。
暗闇の中にいると人間は発狂してしまうという。死後の世界に来てまで発狂したくはない。
ふと、自分の手の輪郭が見えることに気が付いた。
「……夜目利くじゃん」
ってわけでしばらく待ってみる事にする。
十分後、段々夜目が利いてきた。
「あれ?」
どうやら俺が居たのはどこかの大広間らしい……。
すぐ隣は階段っだった。
……うろうろしなくてよかった、危うく階段から転げ落ちるところだったな。
ちょっと背筋に寒気がしたが、よくよく考えてみれば死者が怪我を怖がるのは滑稽だろう……。
(まだ死んだとは決まってないけどね……)
さらに目が慣れるまで待つことにした……。
「建物?」
三十分後、夜目が利いた後この場所を注意しながら探索してみた……。
その結論から言えば……。
「どっかの建物だな?」
豪華な大広間とそれに続くエントランス。
階段の上には大きな窓があり、そこから見える光景は一面の山……山脈ばかり。
階段の上には左右の扉があったが俺はまだそこまで見てはいない……。
「拉致されたのかな? ……?」
そんな所かもな、と思ってみる。
実はここに来る前に見たアレは夢で、俺は涼子さんを狙った誰かに拉致された……とか?
今までも何回かあった実話だ……。
「……そんなはずないな」
ここに来る前に見たアレは本物だ、見間違えるはずはない。
(だったら……なんだろう?)
俺がそうやって考え事をしていると、不意に物音がした。
「……!」
どういうことだ?
俺以外に誰かいるのか?
だとすれば誰だ?
同じように拉致された人?
いや、俺をここに連れてきた奴か?
目を左右に動かし物音の正体を探る。
(……あった!)
階段の上の扉、左の扉からガチャガチャと物音がする。どうやら鍵を開けているらしい。
俺は用心のため、手元にあった燭台を手に取る。何もないよりはマシだろう……。
そのままゆっくりと無音でドアまで近寄る。
ガチャリッ!
鍵が開いた。