予兆
四話目です。
前回は零志の「傷」を見ました。
今回はそんな彼と「新しい家族」のほんのちょっと心が温まるお話です
そんな中、死神の足音は一歩一歩と近づいているわけですが……。
伍嶋の話が終る頃には外はもう日が沈みかかっていた。
ハァ、と大きく溜息をついてから頭を切り替える。
そういえば部屋に居るとき携帯に着信があったなと思いだす。
『ルパン五十三世のテーマ』ということはメールだろう。
部屋を出てから携帯を開くと案の定メールが届いていた。
義母の月城夏代子からだった。
TO:【母】
件名:【ごめんね!】
本文:【今日は多分帰れません(TωT)。晩御飯は零君と瑠衣の二人で食べてくださいね】
俺はそれを見た後、少し嘆息してから義妹に電話をかける。
そう言えば家の鍵を忘れた事を思い出す……妹に聞いてみるか。
トゥルルトゥルル……。
「もしもーし、おにーちゃん? どしたの?」
なんか電話越しに騒音が聞こえてきた、俺は少し顔をしかめて聞く。
「ちょ、今どこに居る? なんかすっごい後ろが煩いんだけど……」
「あ、ちょっと待って。場所変えるから…………どう? 聞こえる?」
「ああ、だいぶ静かになった。で? 今どこよ?」
多分、カラオケかなんかだろう。
「うん、いまヨシコちゃん達と近くのカラオケに居るよ」
ビンゴだった。
「あー、今日は義母さん残業で帰れないって。飯どうする?」
「えー、じゃあじゃあ、今日はアカネちゃんの家に泊っていい?」
……なんて妹だ、兄に一人で飯を食えとでも言うのか。
そう思ったので正直に聞いてみた。
「俺に一人で飯を食えと?」
「え、お兄ちゃん今日はバイトじゃないの?」
「……残念ながら涼子さんが書置き残して旅に出た。バイト代は俺が勝手に金庫から取るからいいとして、しばらくは俺一人しか居ないんだよ」
『涼子さん』とは俺のバイト先の店長だ、私立探偵をやっている。
時折旅に出ることが少なくないし行き先も教えてくない。とにかく謎の多い人だ。
「えー、じゃあ帰るよ……」
不満そうな妹にさっき気が付いた事を聞く。
「お前さ、家の鍵持ってるか?」
「え? ……あれ、おっかしいなぁ~、忘れちゃったのかも……もしかしてお兄ちゃんも?」
「まあな」
しばらく考えてからようやく事の事態を飲み込んだらしく、電話越しに怒鳴り声が聞こえた。
「はぁ、何それ! 信じられない! あたしはお兄ちゃんかお母さんが持ってると思って持ってこなかったのにぃ~」
ムカッときたので言い返す。
「おい、寝言は布団に入ってから言えって幼稚園で教わらなかったか?」
「あたしはベット派だし保育園ですぅ」
「おい、調子のんなよ月城(妹)」
「おい、口が悪いぞ月城(兄)」
「三秒待ってやんよ」
「すいませんでした!」
兄妹コント終了、
なんだかんだいっって今は仲が良い兄妹だと思う。
「で、結局お前はアカネちゃんとやらの家へ泊るとして、俺はどうしよう」
「奏先輩の家に行けばいいと思う」
「ダウト―――!」
そのセリフを聞いて今度は俺が電話越しに絶叫した。
「え、ちょっといきなりどうしたの?」
「瑠衣、それは俺にとって死亡フラグだ……」
それをしたら俺は死ぬ。
主に二つの理由で……。一つは「奏様親衛隊」の皆さんに暗殺される、もう一つは……。
「でもお兄ちゃん、結構前に奏さんの家に泊ったことあったよね?」
「あの時はな、先輩の親御さんがいなかった。今は親父さんがいる」
余談だが俺は千条家の当主(先輩の親父さん)に相当嫌われているらしい……。
どうやら娘についた悪い虫だと思われているようだ。
日本版ゴットファーザーのような人なので、俺は絶対にお近づきになりたくない。
「お兄ちゃんもアカネちゃん家に泊めてくれ……」
「シネ」
間髪いれずに断られた……割とひどい言葉で。
「……分かったよ、義母さんに鍵を借りてくる」
母親の職場に行くのは気まずいがこの場合は仕方がないだろう……。
「てか、奏先輩の家に泊りなよー。そっちの方が面白いよ(あたし的に)」
「うるせー、死んでも嫌だ!」
そう言って俺は妹との電話を切った。
母親の職場まで電車で向かおうとと駅に着くと、メールが二件来た。
TO【母】
件名【ごめんなしゃい(*_*)】
本文【お母さんも鍵忘れてしまいました……。
瑠衣の言うとおり、今日は奏さんのお宅に泊めて貰って下さい
零君ガンバ!(@^^)/~~~】
ピッ、見なかったことにする、二通目
TO【アホの妹】
件名【(無し)】
本文【お兄ちゃんガンバ!\(゜ロ\)(/ロ゜)/】
無言でカチャカチャとメールを打つ。
FOR【母・アホの妹】
件名【(無し)】
本文【てめえら、覚えてろ!】
どうやらうちの家族は当てにならないらしい。結局先輩に電話することにした。
……ぃよっしゃぁぁぁぁ、先輩に電話だぁぁぁぁぁぁ。
ほのぼのとした日常が書けたかどうかは甚だ不安です……。
あと二話で第一章は終ります