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人狼  作者: 枯野
序章終幕
2/13

愚者と節制

本当の一話開始です。

題名の意味はおいおい説明いたしますがとりあえず、今回の18人をタロットカードに当てました。

四枚使われないカードがあるので皆さん、探してみてくださいね。

  事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだ。

  確かイギリスの詩人だったと思う。

  前に先輩に聞いたときはバイロンの『ドン・ジュアン』と教えられた。

  この言葉を信じている奴がどれほどいるのかは分からないが、少なくとも俺はこの十数年でその言葉を嫌というほど痛感させられた。

  こんな不思議な人生ばっかり歩んでるとやっぱり耐性なんかがついてしまうんだと思う。

  厄介事は嫌いではないけどできることなら回避したい。

 

「零君、ちょっといいかな?」

  ある日の昼下がり、廊下を急いでいたら担任の伍嶋先生に呼ばれた。

「はい? どうかしましたか?」

  いきなりの事だし少しばかり急いでいたので、少々声がイラついてしまった。

 だが伍嶋先生はそんなことを気にする風もなく、

「いや、ちょっとここじゃあ言いにくいんだ。

 放課後に職員室に来てくれないかな?」

「……分かりました、時間があったら行きます」

 

 階段を下って購買へ行きながら考える。

 伍嶋先生、若いしルックスも良いので生徒にそこそこ人気があるのだが、熱血教師キャラなので俺はあまり好きではない。

 もちろん奴が俺に何を言いたいか分かっていたので、適当に頷いて逃げることにした。

 そもそもこの人にとっては可愛い教え子の為ってのもこちらにとっては迷惑だってのも日常茶飯事(にちじょうさはんじ)だ。

 いや……言い方が悪いかもしれないな、やる事なす事全てが迷惑だったら生徒が懐くはずないもんな。

 要するに伍嶋秀屏(ごしましゅうへい)という人物と月城零志(つきしろれいし)では相性が悪すぎる。

 油と水、永遠に混じることのない二つの物質。そんなところだ。

 人の傷をむやみやたらと心配する人は傍から見ればいい人だが、世の中には自分の傷に触れてほしくない人間だっているんだ。

 とりあえずそんな事を考えていたら人を待たせていた事を思い出したので、俺はそのまま階段を急いで駆け上がった……。

 

 

「先輩? 来ましたよ。センパ~イ?」

 メールで指定された場所(学校の屋上)まで来たのだが、待ち人がいない。

 場所を間違えたかと首をかしげると不意に後ろから何かを突き付けられた。

「手を挙げろ。……後ろを向くな、後ろを向いたらお前の家のポストに毎朝揚げ餅を入れてやる!」

「なんて地味な嫌がらせ!!」

 うちのポストに何してくれてるんだ……。

 というか誰かは振り向かなくたって分かる。

 こんな可愛いイタズラを俺にしてくるのは一人しかいない。それよりも、それで声を変えられたつもりなのだろうか……。

「はいはい先輩、遅れてすいませんでした」

「そして遅れた理由を三行以内で……ってちょっとはビビってよぉ」

 不審者さんは俺のリアクションがたいして面白くなかったのかすぐに離れた。

「どうしたんですか? 機嫌が悪そうですね」

「……その前に零君は私に言うべきことがあると思う」

「ごめんなさい」

 即答だった。この場合、非は完全に俺にある。

 メールを受けてからもう二十五分もたっている。

「クラス委員は大変なんです。さっきも伍嶋に捕まったし」

 あながち嘘は言ってはいない、クラス委員の仕事がありそうだったのは本当だし、伍嶋に話しかけられたのも本当だ。

「それでも先輩を待たせるのはどうかと思う」

 千条奏(せんじょうかなで)、それがこの人の名前だ、俺の先輩。

 容姿は一言で言うとかなりの美少女。学校でも五指に入るほどの人気がある。

 親衛隊がいるほどだからその人気が窺い知れるというものだ。

 しかも成績はかなり良好、完璧美人。

 俺みたいな生徒(成績を下から数える方が早い落ちこぼれ)と仲が良いということ自体が教師の頭痛の種。

 実際、俺も去年の出来事が無かったらこの人とは一生、縁など無かっただろう。

 厄介事様々だ。

 とはいえこのままだと先輩の機嫌が悪いままなので……。

「先輩、これをお納めください」

 恭しく先程急いで購買で買ってきたデリシャスメロンパン|(一個380円 一日十個限定)を差し出す。

「ふっふん、そんなメロンパンで私が機嫌直すとか思わないでよね!」

「なんて王道なツンデレ!!」

 衝撃映像を目の当たりにした、メロンパンの出費が全然痛くない。

 先輩はそのまま嬉しそうにメロンパンに食いついた。

 それよりも……。

「どうして屋上に呼び出したんですか?」

 気になっていたことを聞いてみる。

 もし俺に用があるなら教室に来ればいいだけだし実際今まで先輩はそうしていた。

 そのせいで俺は親衛隊にかなり恨まれているのだが……。

 というか親衛隊幹部に「夜道に気を付けな……」などと脅されている、

 それ以来バイト帰りには必ず後輩の空手経験者(♂)に送ってもらっているのだが……。

 

 うちの学校は屋上がオープンとはいえこの時期はもうだいぶ暑い、現に屋上には俺たち以外の生徒が居ない。

「ん? ひゃひゃひふぁ、ふぉーひゃ」

「食べながら喋らない!」

 先輩は足をパタパタさせながら何か言いたそうにしていた。

 普段は凛としているのにこういう所をみると本当に可愛く思える。

「私は用が無いと、君を呼び出せないのかな?」

「いや……そうじゃないですけど」

 困ったな、こういうときは子供っぽくなる。

「う~ん、私は零君にとって都合のいい女だったのね……奏、悲しい……」

「悲しいならせめてメロンパン食う動作をやめろ、無表情で言われても説得力ねぇよ……」

「しょうがないなぁ~。じゃあ、零君のために理由をあげよう。星場さんの事はどうなったの?」

「……」

 俺と先輩の間にあった空気がいきなり変わった……。

 


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