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マイペース☆ファンタジー  作者: 風白狼
7章 与えられていた運命
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(10.)抜け殻の村(下)

 慌ただしく足音が駆け込んでくる。見れば、小柄なエルフ達が入ってきたところだった。身長は私の胸より低いくらいで、どうやら子供のようだ。

「うわーっ、本物の星護様だ!」

 エルフの子供達は嬉しそうに私の元に駆け寄った。キラキラと輝く瞳が私を見上げてくる。

「星護様って強い?」「悪い奴をやっつけてくれるんだよね?」

 子供達はいっぺんに質問してくる。その声は甲高く、テンションも高い。当然、全部は聞き取れなかった。なんと答えようか困っていると、女性が子供達の間に割り込んだ。

「こら、星護様が困ってるでしょう?」

「えー?」

 止められた子供達は不満そうだった。しかも聞いていないのか、一人の男の子が私のベッドによじ登ってきた。その子にぐいと耳を引っ張られる。

「星護様の耳、小さくて丸いー」

 引っ張られて痛かったが、声を上げるのは我慢した。かわりに、私はやんわりとその手を外す。そして子供を抱き上げてベッドから降ろした。

「私はみんなのようなエルフ族じゃなくて、人族だからね。耳は尖ってないんだ」

 私はそう説明して、横髪を掻き上げた。それだけで、子供達は興味津々に見つめてくる。

「ひとぞくー?」

「そう。見た目は似てるけどね、この国の外で暮らしてる、ちょっと違う人種なんだ」

「ふーん?」

 子供達は不思議そうな顔をしていた。彼らはこの国から――いや、この村から出たことすらないのだろう。だから、人族だけでなく他種族すら初めて見たようだ。実際、リザード族であるアッグのこともこわごわと見つめている。と、一人の女の子についと袖を引っ張られた。

「ねえねえ、星護様! お外行こ!」

「こら、星護様を休ませてあげなさい」

 女性が女の子を叱る。その子はしょぼんとうつむいてしまった。私は小さく息を吐き、立ち上がって微笑む。

「構いませんよ。…ね、一緒に行こっか」

 私が女の子にそう言うと、彼女はぱあっと表情を輝かせた。嬉しそうに私の手を取り、外へ引っ張っていく。周りの子供達も一緒についてきた。

「って、どこに行く気だ」

「大丈夫だよ。この子達と一緒にちょっと散歩してくるだけだから」

 驚いたようなカイトにへらりと笑って、私は外へ出た。


 子供達に連れられて、私は大樹の前までやってきた。大樹は大人数人でやっと囲めるほど太く、伸びた枝もたくましくて葉が生い茂っていた。その木の根元に、ちょうど子供一人が入れるほどのうろがあった。子供が好みそうな場所だ。童心に返れば、入りたくなるのもわかる。私は彼らに引っ張られ、洞をのぞき込んだ。じめっとした木の皮の中に、小さな生き物が蠢いているのが見える。男の子の一人がひょいと一匹わしづかみにした。彼は嬉しそうに私の顔の前に差し出す。私は苦笑しつつ、おお、と歓声を上げた。不意にその虫のような生き物が跳び上がった。そして、私の鼻の上に乗っかってしまう。驚いていると、足が触れてくすぐったかった。そっと引きはがせば、どこかに飛んで行ってしまった。

「放しちゃダメだろ」「だって逃げちゃったんだもん」

 逃がした子と、別の男の子がそんなやり取りをする。気付くと、女の子達は私の後ろに隠れていた。跳んだのに驚いたらしい。

「こんなところにいたのか」

 上から低い声が降ってきて、私は子供達と一緒に声を見上げた。声の主は赤い髪の毛のエルフの男性だった。

「あー! クロヴィスおかえりー」

 子供達はクロヴィスと呼ぶ男性の元に駆け寄った。彼は子供達に懐かれているようだ。手に付いた土を払い、まとわりつくように集まる子供達の頭を撫でている。親というより、年の離れたお兄ちゃん、という感じに見える。ただ、彼の赤髪は子供達の誰とも似ていなかった。一通り子供達を撫で終わると、クロヴィスさんは私に向き直る。

「星護様、こいつらが迷惑を掛けたようで」

「いえいえ、気にしないでください」

 彼に頭を下げられ、私は慌てて手を振った。顔を上げたとき、クロヴィスさんはどこかほっとしたような表情をしていた。優しげな表情で子供達を見下ろす。

「さあ、もう家に入りなさい」

「はーい」

 言われたとおり子供達は駆けていく。クロヴィスさんは私に会釈してから彼らの後を追った。その背中は若いながらも頼もしい。

「健気なもんじゃろう?」

 唐突に後ろから声をかけられた。振り向くと、数人のエルフ達が集まっていた。そのうちの一人が発した言葉に、私は首を傾げる。

「健気、ですか?」

「左様。あれは皆クロヴィスの子でもなければ兄弟でもない。が、彼が皆の面倒を見ておるのじゃ」

 私は目を見開いた。似ていないとは思ったが、やはり血のつながりはなかったらしい。そして血の繋がっていない者が世話をしていると言うことは、子供達の親はいないか、少なくとも世話をしていないことを意味する。

「それじゃ、あの子達の親は――」

「皆、この村から出て行ってしまったわ。帝国に雇われての」

 私の問いに、別の一人が答えた。そこで思い出すのは、宮殿で聞いた言葉。確か彼らは、『帝国は同胞を引き抜き、悪行の片棒を担がせている』と言っていなかっただろうか。あれはつまり、有用な働き手をこの国からスカウトし、この村のように人材がいなくなると言うことを意味していたのだろう。

「この村には農業以外やることがないからのう。若者にはつまらぬのかもしれぬ」

「まったく、子供をほっぽってまで行く場所ではないだろうに。今の若いもんは忍耐が足らぬわ」

 集まっていたエルフの人々はそんなことを言う。途中から老人の小言じみた言葉が目立ってきた。ただ彼らは皮膚にしわもなく、髪の毛もしゃんとしているから、ちっとも年老いているようには見えない。

「若者、って、あなた方は…?」

「ああ、わしらはもう若くないわ。齢も300近い者がほとんどじゃ。明日死んでもおかしくないわい」

 すみません、とてもご老人には見えません。確かに考え方は老人に近い気はするけれども。ミシュエルもあれで150歳近いらしいし、エルフ族って長寿な上に見た目の若さも保てるようだ。地球ではうらやましがられる体質に違いない。

「若いのはあの子供達と、彼らの世話をするクロヴィスとメリーヌくらいじゃからのう。わしらが死んだらこの村はどうなってしまうんじゃろうな」

 一人の呟きが、ことの深刻さを表していた。メリーヌというのが誰かはわからないが、若年者が少ないというのだけは察してしまう。

 私は心のどこかで軽く考えていた。誇張された役割を期待されているように感じていた。けれど、この村のように、切実な問題となって“帝国”という存在が関わっている。肩に掛けられていた期待の意味をようやく理解して、私は深くため息を吐いた。

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