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マイペース☆ファンタジー  作者: 風白狼
7章 与えられていた運命
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10.抜け殻の村(上)

 気がつくと、見知らぬ天井が視界に入った。背中に触れる感触は柔らかく、どうやら私はベッドに寝かされているらしい。と、そこまで認識してはっとした。飛び上がるように体を起こし、反動で頭がくらっとする。めまいに頭を押さえると、近くに人が立つ気配があった。

「気がついたんですね。……まだ無理はなさらないでください、星護様」

 顔を上げると、桃色の髪の毛をしたエルフ族の女性と目が合った。成人の顔つきだが、どこかあどけなさがあるように見える。彼女に仲間のことを聞こうとして、私は目を見開いた。女性より向こうに、ミシュエルが座っているのが見えたからだ。彼だけでなく、カイトやアッグもベッドの上で眠っている。私はひとまず安心し、改めて女性に向き直った。

「あの、ここはどこですか? どうして私たちはここに?」

「ここはヒュノーという小さな村です。村の近くであなた方が倒れているのを見つけて、ここまで運んできたのです」

 私が質問すると、女性はすぐに答えてくれた。ついでに、今寝かされているここは臨時で使われる宿なのだそうだ。ひとまず状況が確認出来ると、女性はところで、と切り出した。

「どうしてあなた方は、あんなところで倒れていたのですか?」

 問われて、私は記憶を元に思い返す。確か、竜巻に巻き込まれて飛ばされた気がする。それ以降は気を失ってしまったのか、記憶がなかった。

「ええと、大きな魔物が起こした竜巻で飛ばされて……」

 私がおぼろげな記憶を頼りに答えると、相手はわずかに首を傾げる。

「大きな魔物?」

「ベヘモットですよ。エリアムから北へ向かっていた途中、うっかり近寄って襲われたのです」

 私が答えるより先に、ミシュエルが補足してくれた。魔物の名前を聞き、女性の顔が引きつる。

「よく……生きてましたね」

「まったくです」

 その会話で、私はあの魔物がいかに凶悪なのかを悟った。おそらく、襲われたら並大抵のことでは生き延びられないのだろう。あのとき確かに頭を貫いたのに生きていたし、とんでもない相手だったのだと改めて思い知らされる。

 と、不意に私のお腹が鳴った。そういえば野営地を探していたから何も食べてなかったっけ。音は二人にも聞こえていたらしく、エルフの女性がクスリと微笑んだ。

「何か食べ物をお持ちしますね」

 そう言って、女性は部屋を出て行く。部屋が静かになると、小さなうめき声が上がった。見れば、カイトも目を覚ましたようだった。体を起こし、怪訝な顔で部屋を見回している。

「なんだここは…?」

「ヒュノーという村の、公民館のようだ。あの竜巻でかなり飛ばされてしまったらしい」

 ミシュエルが答えても、カイトはまだ何か聞きたそうに眉をひそめる。私は思い立って、地図盤を取りだした。現在地を表示させ、村の位置を確認する。どうやら私たちが通ってきた街道から、東へかなり飛ばされた場所にあるらしい。シルフェリオ王国の端にある海辺で、近くに大きな街どころか目立った集落も見当たらない。

「ずいぶんと辺鄙(へんぴ)な場所に飛ばされたんだな」

 いつの間にか、カイトは私の地図盤を覗いていた。彼はちらとミシュエルを見上げ、意見を請うようにじっと見つめる。ミシュエルは腕を組み、顎に手を当てた。

「とりあえず、近くの都市まで行った方がいいんだろうが――セントルか……」

 “セントル”という地名を呟いたとき、ミシュエルの声は凍りついていた。何か因縁を感じさせる表情で黙り込んでしまう。セントルという街はこの国のほぼ真ん中辺り、この村から北に行ったところにある都市のようだ。村から一番近い上に街道もある。それだけでは別に避ける要因があるようには見えない。

「ミシュエル…?」

 心配になって見上げると、ミシュエルははっとしたように目を見開いた。が、すぐにいつものような笑みを浮かべる。

「いえ、何でもありません。気にしないでください」

 いやいや、何でもないわけないよね、とは口に出せなかった。ミシュエルは笑顔ではあったが、それ以上聞かれたくないようだった。無言の圧力が怖い。拒むなら無理に聞かないけれど、もやもやしたまま行き先を決めるのも気が引ける。


 ノックが聞こえて、あの桃色髪の女性が戻ってきた。彼女が抱える小さめの土鍋からは美味しそうに湯気が立ち上っている。女性は土鍋を机に置くと、お椀に一つずつよそった。白い粥状のそれは緑色の菜っ葉を含み、薬のような匂いがした。

「う、ん…? 何か……美味しそうな匂いがするッス」

 もぞもぞとアッグが起き上がった。食い意地の張った起き方につい笑みがこぼれる。エルフの女性も苦笑して、おかゆをよそったお椀を差し出した。

「どうぞ。大したものではありませんが」

「ありがとうございます。頂きます」

 私はお椀を受け取り、スプーンですくって口に入れた。とろりと煮込まれた粥の中で、みずみずしい菜っ葉が歯ごたえを残す。植物のつんとする、薬に似た匂いは案外気にならなかった。むしろ鼻腔を刺激して食欲をそそる。水でふやけているからか、お腹にも溜まった。

「……この国の食いもんはどうしてこう味が薄いんだ」

 カイトはぶつぶつ言いながら食べている。顔は渋かったが、お腹が空いているのか手は止まらなかった。アッグに至っては大きな口でほとんど飲むように食べている。かなり豪快だ。私はそんな彼らを見やりつつ、空になったお椀を置いた。

 ドアの向こうでばたばたと足音がした。勢いよくドアが開く。入ってきたのは、小さなエルフ達だった。

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