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マイペース☆ファンタジー  作者: 風白狼
7章 与えられていた運命
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8.シルフェリオの道中

 王都・エリアムで一泊した私たちは、森の道を歩いていた。道はあまり良くないが、最初のうちは敵も出ず、特に問題はなかった。時折、上空を車が追い越していく。ああやって空を飛んでいく手段があるから、陸路の整備に力を入れる必要も無いのだろう。でこぼこした足場を乗り越えてから、私は大きく息を吐き出した。


 どれくらい歩いただろうか。こちらを窺う気配がして、私は顔を上げた。すでにそれを察知していたのだろう、先を行くミシュエルも足を止めている。注意深く辺りを見渡すと、木の幹に張り付いた植物のつるがうねうねと動いていた。その細い蔓には見合わない、大きなつぼみが一つ付いている。人の頭ほどありそうなそのつぼみは、桃色と紫の混じった毒々しい色をしていた。つぼみが開く。現れたのは花のめしべでもおしべでもなく、口と形容すべき空洞だった。

 植物型の魔物はこちらの様子をうかがっているように見えた。いつでも動けるよう、私は剣を抜く。みなも警戒態勢を取っていた。ミシュエルは剣に手を添え、アッグは斧を構える。カイトも傘を手にしている。

 魔物が動いた。蔓が伸び、口のあるつぼみがこちらに接近する。ミシュエルが花を切りつけた。花弁から体液が飛び、すかさずその体を炎が覆う。口が燃え尽きるのを見、カイトは目を細めた。

「やったッスか?」

「いえ、まだです」

 堪えるミシュエルの声は強張っていた。なぜなら、先ほどカイトが退治したはずの蔓が、まだ動いていたのだ。どうやらあの花は魔物の本体ではなかったらしい。うねうねと動き、隙を窺っているようにも見える。と、別の場所からさらに数本の蔓が現れた。先ほどよりも小さいが、やはりあの毒々しいつぼみを付けている。蔓の出所は茂みに隠れて見えない。

 私は剣に魔力を集めた。意識を集中させ、空気の塊を撃ち出す。突風は茂みの草を倒し、わずかに視界を広げる。私は起こした風で気配を探った。あの蔓の生えている根元を探る。どこかに本体がいるはず。だが風はそれらしい物には触れず、ただ土を舞い上げただけだった。

「いない!?」

「地中です!」

 ミシュエルの声にはっとした。そうだ、相手は植物型の魔物。地中にある根が本体ということもありえる。それを裏付けるかのように、地中から別の蔓が現れた。

「手っ取り早くいくッスよ!」

 言いながら、アッグは跳び上がった。斧を楽々振りかざし、重さを生かして地面を殴りつける。わずかに足下が揺れるほどの衝撃が起きた。魔物の奇声が上がる。アッグの斧は大地をえぐり、隠れていた魔物を捉えていた。地面の裂け目から見えるのは植物の根。それも大樹より太く、丸い。うねうねと細かい根を動かし、傷口から体液を漏らしている。

 蔓が怒ったようにアッグに襲いかかった。アッグはすぐに斧を持ち上げた。が、間に合わない。襲い来るつぼみの一つに狙いを定め、私は風塊を放つ。圧縮された空気は狙い通りつぼみを切り裂いた。同時にミシュエルが別の蔓を切り落とす。魔物はもぞもぞと後退を始めた。

「逃げるッス!?」

「アッグ!」

 追撃に向かうアッグを、ミシュエルが引き下げた。何を、と思った瞬間、

『隆起』

 詠唱に合わせ、魔物がいた地面が盛り上がる。後退していた魔物はその土の柱から落ちそうになった。逃げ道を変えようと、根のような本体の動きが鈍る。私は剣に魔力を溜め、意思を宿らせた。同時に浮遊の魔法をかけ、軽く飛び上がる。上空から魔物の体に剣を突き刺した。刹那、宿らせていた魔法が発動する。剣からあふれた炎は魔物を包み、蔓も残さず焼き尽くす。悲鳴が上がり、声はやがて小さくか細くなっていく。炎が収まると、魔物はただの魔石になっていた。

 紫色に輝く魔石を拾い上げ、段差から降りる。柱状に盛り上がった土はずぶずぶと元に戻った。魔物の消滅を確認すると、みんなの顔にも安堵が広がる。そして再び、私たちは道を歩きだした。



 足場の悪い道をずんずんと進む。やがて日も傾き、森は暗さを増してくる。おまけに風も強くなり、木々の葉が暴れ出す。

「嫌な風だ」

 ぽつりとカイトが呟いた。彼は空を見上げ、紫色の目を細めている。つられて私も見上げると、木の合間から雲に覆われた空が見えた。重い色のあれは、雨雲だろうか。

「雨宿りできる場所があるといいッスね」

 アッグもカイトに同調し、辺りを見回す。もちろん魔法で雨よけの結界を張ることもできるが、朝まで持続させるのは手間がかかる。木のうろや洞穴に入れるのならその方がいい。そうして歩きながら探して――私は洞窟を見つけた。

「あそこはどう?」

 切り立った崖をくりぬくように存在するそれを指さして、皆の注目を集める。かなり大きなその洞窟は、雨をしのぐのにちょうどよく映った。問題は、動物や魔物の住処となっていないかどうかである。

 私たちはその洞窟に近づいてみた。入り口は私の身長の倍以上の高さがあり、奥はさらに広くなっているように見える。野営するには十分すぎるほどの広さだ。けれど、地面には大きな足跡があった。人間のものではない、巨大な生き物を思わせる重たい跡。

「っ……早急に離れましょう」

 足跡を見て、ミシュエルが顔を引きつらせた。それに頷き、すぐさま元の道へ急ぐ。――が、遅かった。枝を踏みならす地響きに、思わず足が止まる。振り向くと、山のように大きな魔物がそこにいた。頭からは一対の円錐状の角が水平に生え、たくましい四肢の全てに鋭い爪が生えている。その魔物は私たちを見て、怒りの咆哮を上げた。

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