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マイペース☆ファンタジー  作者: 風白狼
7章 与えられていた運命
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2.星護

 透明な窓の向こうで景色が過ぎ去っていく。饅頭型の乗り物は地面から浮いており、動物などに引かれることもなくひとりでに進む。目的地を設定すれば自動で運行できるらしく、操縦席はない。どちらかというと、SF物に出てきそうな乗り物だった。

星護(せいご)様、先ほどは失礼いたしました」

 金髪のエルフの人、アームバロンさんが頭を下げた。細い金色が顔の前にかかる。私は気にしなくていいですと言って顔を上げさせた。

 ちなみに緑髪のウィクレウスさんの方は引き続き警備をするために城門に残っている。だから今車に乗っているのは私たちとアームバロンさんの五人だ。アームバロンさんがこちらを向いたところで、私は口を開く。

「先ほどから聞こうと思っていたんですが――」

 言い出すと、自然と私に視線が集まった。一瞬静かになり、次の言葉を待っている。聞きたいことは山ほどあるが、まずは重大な問題からだ。

「“せいご”って何ですか?」

「は?」

 私以外の全員が同時に間抜けな声を出した。特に旅を始めたばかりの頃によく向けられた、なんでそんなことも知らないのという視線が突き刺さる。うん、わかってた。話の流れからして、世界共通の常識であろうということくらい、何となく察していた。でも知ったかぶりをしているわけにもいかない。恥をかいても事実を知っておきたかった。

 一人の笑い声が気まずい沈黙を破った。見ればカイトが口元を押さえて笑っていた。

「そうか、お前、隠してたんじゃなくて、何も知らなかったんだな」

 カイトは可笑しそうにこちらを見ている。何がそんなに可笑しいんだろう。状況の読み込めない私は首を傾げた。そんな私を見て、ミシュエルが柔らかい笑みを浮かべる。

「星護とは星の運命に選ばれ、世界をよりよい方向に導く存在だと言われています。その時代において世界にたった一人しか存在しないとまで言われる、稀有(けう)な人物なのです」

 ミシュエルはそう説明してくれた。つまり星護というのは世界を救う選ばれし者、って認識らしい。おとぎばなしの勇者や英雄のような扱いだろうか。それはわかったけれど、まだ納得できない。

「なんで私が星護だって言えるの?」

「星護の特徴は主に二つあります」

 ミシュエルが私の顔の前でついっと指を立てた。

「一つは目に浄命紋(じょうめいもん)と呼ばれる特殊な紋様があること。そしてもう一つが魔力と意思を切り離し、魔物を“浄化”して魔石に変える力を持っていることです」

 私は息を呑んだ。魔物を魔石に変える力。散々変だとか言われてきた原因の一つ。それがまさか、星護という存在の特徴と一致しているなんて。ただの偶然だと思いたい。けれど浄化したときの周りの反応や、得られる純魔石がとんでもなく貴重で高価であることからして、その可能性は低いだろう。

 こうなると、気になるのはもう一つの特徴だ。私はカバンから手鏡を取りだした。銀色の中に映る自分の瞳をのぞき込む。濃い緑色の虹彩に紛れて、植物の蔦のようにとぐろを巻いた黒い模様が何となく見えた。意識して探さなければ見過ごしてしまいそうなほどひっそりとそこに描かれている。これがさっき言っていた“浄命紋”なのだろうか。

 そういえば、ミシュエルやカイトは私の顔をのぞき込んできたことがあった。カイトは私が魔物を浄化したのを初めて見たときに、ミシュエルは出会ってすぐに。だから私が星護であると確信していたのだろう。それに私には『特別な運命が待っている』と言っていたアレスキア旅人協会のケルクさんも、私の顔を、目をのぞき込んでから言ったのではなかったか。そこまで思い当たった私は思わず頭を抱えた。

「私が、星護? 世界でたった一人の、特別な存在? そんな、私は普通の旅人で、世界を導くとかそんなことするような人間じゃ――」

 あり得ない。私がそんなご大層な存在だったなんて、どうして信じられるだろうか。きっとみんなも心の底ではそう思ってるはずだ。だって私は、伝説で言われるみたいにすごくはないんだもの。

「普通、ねぇ」

 鼻で笑う声が車内に響いた。カイトは腕を組み、感情の見えない眼差しで私を見ている。

「魔人に拾われて育てられて、世間知らずで、見ず知らずの他人も親切に助ける上に命まで懸けられる奴の、どこが普通なんだよ」

「う……」

 私は反論できなかった。前二つは不可抗力、最後は自分の選択だが、こうやって並べられると確かに普通じゃない気もしてくる。横でアッグが大きな口を開けて微笑んだ。

「そうッスよ。奴隷を解放したりスラムの人々を助けようとしたり、“普通”じゃなかなかできないことッス。むしろヒーローって言われた方がしっくりくるッス」

 そこはヒーローじゃなくてヒロインじゃないのか、というくだらないツッコミは飲み込んだ。彼からあふれる尊敬の眼差しは普段なら嬉しいものだが、今は重圧にしか思えない。

「でも、私は――」

「そう自分を卑下しないでください。あなたは今までも多くの人を幸せにしてきたではありませんか」

 ミシュエルにも笑顔を向けられる。反論の言葉は遮られたが、それでも認めたくなかった。確かに人助けはしてきた。でもそれは局所的なことで、一部でしかない。世界全部を巻き込むなんて、到底無理だ。

「なるほど、星護様は皆から厚く信頼されているのですね。それならば我々の要求も応えられるに違いありません」

 アームバロンさんが納得したように頷いた。私は反射的に顔を上げ、眉をひそめた。要求って、何のことだろうか。

「どういう、ことですか?」

「その話は後ほど、宮殿に着いてからされると思います」

 アームバロンさんは軽く会釈しただけで、それ以上は答えてくれなかった。落ち着いた場所で話したい、重要な内容らしい。

 車が速度を緩めた。慣性で進行方向に引っ張られる。前方には森に囲まれた、大きな建物が佇んでいた。

 ようやく大きな伏線を回収できました。長かったー…

一つ肩の荷が下りた感じです。

どのくらいの方に見破られていたのか、見物ですね←

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