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マイペース☆ファンタジー  作者: 風白狼
7章 与えられていた運命
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1.混乱

 山道を越えた先、峠の向こうには一面の森林が広がっていた。様々な木々が連なり、林冠は複雑な模様を作っている。風が吹くと木の葉がざわざわと波打った。

 今私が立っているのは、ミストラル共和国とシルフェリオ王国との国境。山脈を隔てた向こう側だ。木々のない尾根からは眼下の景色がよく見える。けれど森ばかりで、このどこかに街があるようには見えなかった。

 立派な木の生えた坂道を下っていく。森の中は木漏れ日が入ってきて明るかった。風が渡り、小鳥がさえずる声が聞こえてくる。道は舗装されておらず、ほとんど獣道だった。それだけ通る人が少ないということだろうか。




 先頭を歩くミシュエルの足が止まった。開けて明るい場所で辺りを見回している。

「何してるんスか?」

「この辺りのはずです」

 何が、かは教えてくれなかった。ただミシュエルは手をかざしたりして何かを探しているようだった。けれどここに何があるんだろうか。木々の間隔が広いということ以外、特に変わった様子はない。そう思っていると、ミシュエルが何事か呟いた。ここからでは聞き取れないが、詠唱であることだけはわかる。

 目の前の森に光が現れた。光は輪となり、波のように広がっていく。見えない壁に沿って光が遠のいていき、眼前の景色が変わった。森しかなかった場所に、城門が現れたのだ。さっきまでは幻影魔法で隠されていたのだろう。突然建物が現れるなんて、まるでゲームのワンシーンだ。

 城壁は白い石壁で、侵入を阻むように見渡す限りどこまでも続いている。重そうな扉の傍には二人の門番が立っていた。細やかな装飾が施された衣服を纏う彼らは、尖った耳を持つエルフ族。見た目だけならどちらも若そうだ。

 ミシュエルは二人の門番に近づき、優雅にお辞儀した。

「お久しぶりです、ウィクレウス殿、アームバロン殿。元・王宮騎士団所属、ミシュエル・ハミ・グレクス・ケツァコルハイデ・マナ・ロンドアーツです」

 門番の二人はじろりとミシュエルを見た。その目は何か侮蔑を含んでいる。

「やはりお前か、グレクス・ロンドアーツ。相も変わらず汚らわしい者どもと戯れおって。ロンドアーツ家の面汚しもいいところだ」

 門番の一人、緑髪のエルフが冷たく言い放つ。言葉の端々から嫌味を感じる。それを受けるミシュエルは軽く頭を下げた格好のまま微動だにしなかった。焦れたもう一人が素速く動く。金髪が煌めいて、槍の矛先がミシュエルの喉元に迫った。

「この地によそ者を連れ込み、汚した罪はどう償うつもりだ!」

 金髪のエルフは怒号を上げた。槍は今にも突き出されそうだ。ちっとも穏やかな雰囲気じゃない。下手に手出しすることもできず、私はただハラハラして成りゆきを見守るしかなかった。

「これだからここの奴らは嫌いなんだ」

 横でカイトが舌打ちする。振り向くと、彼はやはり不機嫌な顔をしていた。尋ね返そうと口を開きかけ、さらなる怒声に遮られる。

「無視を決め込むつもりか! 無礼者!」

「落ち着け、アームバロン」

 金髪のエルフが飛びかかり、それを緑髪のエルフが制止した。彼らが睨む前で、ようやくミシュエルが顔を上げる。

「無礼はどちらです」

 毅然とした声がはっきりと響く。彼の言葉に門番の二人は弾かれたように顔を上げた。

「この方をどなただと心得ているのですか」

 そう言うミシュエルは、私の両肩に手を掛ける。優しい力で押され、私は二人の前に立たされた。鋭い視線を向けられ、私の思考は一瞬停止する。あれ、なんで私がここに立たされているんだろう。というか「どなたと心得る」って、水戸黄門じゃあるまいし。そう思っていたのだけれど、私を見る彼らの目は驚愕に満ちていた。

「そのお方はまさか、星護(せいご)様か!?」

「こうしてはいられない。すぐに宮殿に連絡を!」

 二人は急に慌ただしくなった。「せいご」という聞き慣れない単語に言及することもできず、私はただ立ち尽くす。

「ええっ!? デュライアって星護だったんスか!?」

 後ろでアッグが叫んだ。そんなこと聞かれても、私も初耳なんだけど。

「なんだ、アッグは気付いてなかったのか?」

 カイトがからかうように言う。その口ぶりからして、彼はある程度わかっていたみたいだ。でも本当に知っているべきはずの私は「せいご」が何なのかわからない。問いただそうとしたとき、後ろから声がかけられた。

「星護様、どうぞ車へ」

 アームバロンと呼ばれていた金髪のエルフの人に背中を押される。その先にあったのは上半分が透明な饅頭型の乗り物だった。車輪はなく、並べられた椅子の上にドーム状の板が乗せられているだけにも見える。私はその椅子部分に乗せられようとしていた。

「ちょ、ちょっと待ってください! 彼らは一緒じゃないんですか?」

 置いてけぼりを喰らっているミシュエル達を指さすと、門番の二人は顔を見合わせた。やがてこちらに向き直り、私の顔をのぞき込んでくる。

「彼らも連れて行きますか?」

「あ、当たり前です!」

 私は即答した。緑髪のエルフ、確かウィクレウスと呼ばれていた人が頭を下げ、残っていた三人のところに歩いていく。短いやり取りの後、三人も一緒に車に乗せられることになった。

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