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マイペース☆ファンタジー  作者: 風白狼
6章 自由と観光の国
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1.旅人の集まる国ミストラル

 私たちが乗る舟はゆっくりと対岸に近づいていく。それにつれ、前方にある未知の土地――ミストラル共和国の姿がはっきりしてきた。白い石で作られた建物が並ぶ、美しい街。屋根の青と植木の緑が混じって、一枚の絵のようだ。地球のギリシャと見た目の雰囲気がよく似ている。

 小舟は桟橋に寄り添い、ロープでくくりつけられた。アッグから順に舟を降り、警備員のいる門の方へ向かう。体格のいい彼らは私たちの身分証明書を確認してからにっこりと微笑んだ。

「ようこそ、ミストラル共和国、ネラファの街へ」

「旅人の集まる国をお楽しみください」

「ありがとうございます」

 そんな風に出迎えてくれると、自然とわくわくしてくる。当初の目的通り、めいっぱい満喫しようと思えてくるのだ。私は足どりも軽く門をくぐり、街道を歩いた。舟から見えたように白いレンガの家々が立ち並び、国の伝統を感じさせる。街をゆく人々は活気にあふれ、種族も様々に入り交じっている。

「この国や地域のガイドマップはこちらで配布しております。ガイドマップはこちらです。必要な方はどうぞご自由にお取りください」

 雑踏の中をかき分けて、男性の声が聞こえてきた。見れば紫色の上着を着た狸族の人が、冊子を入れた棚の傍で声を張り上げている。舟から降りたうちの何人かはその声に従い、必要な物を選んでいる。

「あれは?」

「ああ、あれは旅行者用のガイドマップやパンフレットを配っているんです。ここは観光客にとって入り口の一つですから、こういったサービスは充実しているんです」

 私の疑問に、ミシュエルが答えた。今までガイドマップが配られているのを見たこともなかったから、この街がよほど観光に力を入れていることが伝わってくる。目先の利益だけを追求した、どこかの街の領主とは大違いだ。

「さ、まずは必要な物の買い出しと行こうぜ」

 カイトの提案に皆が頷く。すぐに必要になるのは食料と水、そして応急手当に使う薬草などだ。通りを歩いてそれらしき店を見つけ、中に入って商品を見る。カイトやミシュエルに選び方を教わっていると、店の奥から人影が現れた。

「いらっしゃいませー!」

 大きくて明るい声に顔を上げ、私はその人物の姿に目を見開いた。まずくりっとした瞳と目が合い、ちょんと尖った顔立ちが目に入る。しかしその人はネズミに似た小さな顔つきとには不釣り合いな、がっしりとたくましい体格をしていた。しかも耳の辺りからは、湾曲した円錐形の角が伸びている。言ってしまえば、ネズミと牛の特徴を混ぜたような姿の人だった。失礼だとはわかっていたが、まじまじと見つめてしまう。

「こらロロス、お客さんが怖がってるじゃないか」

 これまた大柄な女性が奥から現れて、ロロスというその男性を小突いた。男性は頭をさすって恨めしそうに牛族の女性を睨む。

「母さん、痛いじゃないか」

「そんなこと言ってないで、頭を下げな。……すみませんね、うちの息子が」

「あっ、いえ、大丈夫です。お気になさらないでください」

 私は慌てて手を振った。驚いていただけで、謝られるほどのことではない。むしろ、姿を気にして見つめてしまった私の方が謝るべきだろう。

「そうかい? あたしゃてっきりこの子が大きな体で脅かしちゃったのかと思ったけど」

「いえ、少し変わった方だなと思いまして」

 私はなるべく当たり障りのない言葉を選んだ。もう一度、店員の二人を見る。親子のようだけど、特に顔つきが全く似ていない。そんな風に思っていると、背後にカイトが立った。

「この国じゃ種族間の混血は普通にいる。たぶん、そこのロロスとかいうやつも混血だろう」

 カイトの言葉が聞こえていたらしく、牛族の女性は笑い声を上げた。

「ひょっとしてお客さん、ミストラルに来るのは初めてかい?」

「はい」

 私が頷くと、女性はさらに口の端を上げ、楽しそうに続ける。

「そうかい、じゃあ混血の人を見るのも初めてなんだね? この子はね、私とネズミ族の旦那から生まれたハーフなのさ」

 女性はロロスさんの背中をばしばしと叩いた。ロロスさんは前に押され、ぶすっと口を尖らせる。彼の体の特徴は、混血だと言われれば納得できる。今まで接したことのある人は皆純血だったみたいだけど、ハーフの人もいるんだ。また一つ、世界が広がった。慣れるまでは驚いてしまいそうだけれど、失礼にならないように気をつけていこう。私は密かに決意を固めた。


 買い物を済ませ、彼らの店を出る。道を行く人々の数は入ったときよりも増えている気がした。買い物をする人、食事をする人、記念撮影をする人。思い思いの方法でネラファの街を満喫している。そんな中、私はとある露店に目がとまった。

「旅人の方、武器の手入れは済ませましたか? こちらでは刃物の研ぎ直しを行っております」

 鷹のようにきりっと鋭い目つきをした鳥の人が呼びかけている。彼の傍にはサンプルなのか、いくつかのナイフが飾られていた。私はその露店の前で立ち止まった。

「研ぎ直しはすぐにできますか?」

「はい。状態にもよりますが、ほんの数分で完了いたします」

 鷹の店員さんは自信たっぷりに答える。こういうサービスがあるのも、この国の特徴なんだろうか。私が値段の書かれた看板を見て考えていると、後ろからアッグが身を乗り出した。

「俺の斧も大丈夫ッスか?」

「もちろんです」

 鷹の人はドン、と自分の胸を叩いた。足を止めた私たちの後ろから、ミシュエルが優しく微笑む。

「いいんじゃないですか。武器の手入れは重要ですよ」

「そうッスよね! じゃあ、お願いするッス」

 アッグは担いでいる斧を台の上に乗せる。鷹の人はそれを受け取り、刃先の観察を始めた。刃の状態を確認し、適当な砥石を取り出す。斧を砥石に乗せ、ゆっくりと前後に動かした。金属のこすれる独特な音が、一定のリズムで刻まれる。素人の私にはよくわからないが、この音がする度に刃が生まれ変わっているのだろう。削れた粉が砥石の表面の水に捕まり、てらてらと光を反射する。鷹の人は斧をひっくり返し、裏側も研いだ。表面の余計な削りくずを拭き取り、仕上げにさび止めを塗る。こうして、アッグの斧はぴかぴかに磨き上げられた。アッグは自分の斧を受け取り、綺麗になった刃先を見て嬉しそうに笑う。

「そんじゃ、手入れ代は3パースだ」

 言われたとおり、アッグは銀貨(パース)を手渡した。店の人はそれを受け取ると、愛想のいい笑みを浮かべた。

「ありがとうございましたッス!」

 アッグは斧を背中に担ぎ、笑顔で手を振る。私たちは手入れやさんの前から離れ、再び雑踏に混じった。

久々の更新になってしまいました……楽しみにしてる方には申し訳ないです。

今回から新たな国を冒険します!


そして今回で初登場した混血人種。

人間(この場合は人族)との混血は安直だな、そもそも人族は少数種族のはずだし……と考えていたらネズミ×牛という誰得なんだかわからない混血になりました。でも後悔はしていません。

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