3.行き先を決めないとね
始めにたどり着いた農村――オミノというらしい――で歓迎を受けていた私は、話に花を咲かせる事にした。どうやらこの村は本当に人の往来が少ないらしく、先ほどの芋虫ですら退治に来てくれる人間もいないのだという。だから私はこれほど歓迎されているのか。
「あの~、私旅立ったばかりで右も左も分からないんですけど、まずどこに行くのがいいですか?」
旅の目的が『見聞を広めること』なのだから、とりあえず世界をめぐる必要があるだろう。六厳善も大ざっぱでいいから世界地図を渡してくれても良かったのに。まあ、今更仕方がない。地図を手に入れるのも試練だと割り切っておく。
「まず行くところか……。大都市ピオッシアに行くっていうのはどうだ? そこなら情報もあつまるだろう」
私の問いに、オークの(恐らく)男性があごに手を当てて答える。なんでも、この村の近くに、世界地図にしても名前を書き込まれるくらい大きな都市があるのだという。近いといっても歩いていくとそれなりに日数はかかるらしいが。なんて田舎クオリティ。“その辺”は実はめっちゃ遠い、ってやつか。
「どうやって行けばいいですか?」
「街道に沿って歩いていけば、いずれ宿場町にたどり着けるさ。で、そこから地図もらうなり道を尋ねるなりすればいいさね」
牛の姿をした女性が、私に給仕をしながら答える。つまりその大都会は『すべての道はローマに通ず』みたいな場所なのか。それは相当な場所のようだ。
ちなみにどんな地図がお勧めか聞いてみると、少々値は張るが、“地図盤”と呼ばれている物が一番便利らしい。なんでも、魔法によって全世界の情報を網羅し、随時それが更新されるものだとか。おまけに紙と違ってかさばらない。多分、最新鋭のカーナビみたいな機能を備えた物だと思ってもらって差し支えないと思う。残念ながら、この村には満足のいく地図は無いそうなのだが。
行き先について聞いた後、私は膳に並べられた料理を見た。やはり、見たことのない物が多い。肉厚の葉っぱで作られたサラダだとか、川魚の干物らしきものだとか、何かの卵料理だとか。はじめは私も恐々としていたが、食べてみると意外に美味しい。お腹の空いていた私は箸を止めることなく完食した。特に、山菜か何かの佃煮は美味しかった。醤油ではないようだが、ほのかな香ばしさと歯ごたえがある。
それにしても、人の食事がそんなに珍しいのかなあ? 私が食べるところを驚いて見なくてもいいのに……。
ごちそうを頂いたあとは風呂を用意してくれたり布団をしいてくれたり。至れり尽くせりとはこのことを言うのだろう。あの魔物を数匹退治しただけでこの優遇は非常に申し訳ない。私は最初断った。が、なんというか、多勢に無勢という感じで押し切られてしまった。そこで好意に甘えさせていただく代わりに、私は先ほどの芋虫の魔石を全て村の人達に渡した。この村も魔法を使って生活を営んでいるようだから、小さいけれどもあって困ることはないだろう。村長であるらしい、毛深い水牛のような人に代表として渡しておく。
「いいのですかな?」
「ええ、私はいっこうに構いませんので」
多分これからも手に入る物だし、何より私の良心が許さない。私は紫色に輝く小さな水晶を、半ば押しつけるように差し出した。
「ありがとうございます。これは少ないですが、何とぞ路銀の足しにしてくだされ」
そう言われて渡されたのは、何かの入った革袋。袋の中身はずっしりと重い。開けてみると、中には文字通り“銀”が入っていた。丁寧に整形されているあたり、この世界の通貨であるようだ。ざっとと数えて十数枚ほどか。しかし金銭感覚のない私には、これがいかほどの価値の物なのかさっぱり分からない。まあ、これから先必要になるだろうから、ありがたくちょうだいする事にした。
たった一日だけなのに、布団に入ってしまうと疲れが睡魔としてどっと押し寄せた。耐えきれず、私はあっという間に眠りに落ちてしまった。
主人公、銀貨をゲット!
人里離れた場所に住んでいたので、はじめはこういう農村からですね。
とはいえ、本文中にあるように都市から近いためそれなりに豊かなのです。
村人達が主人公の食事を驚いたように見ていたのは、主人公が粗末な食事にケチをつけずに食べていたからです。主人公はそんな事には気付いていませんがねw
やたらと獣人が多い訳はそのうち分かるかもしれません。