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マイペース☆ファンタジー  作者: 風白狼
5章 東国への旅路
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8.宴の夜に泣く

 一連の事件のあと、私達は宿屋に連れてこられた。どういうわけか一番上等な部屋を、タダで貸すと言ってきたのだ。その担ぎ上げられ方は英雄扱いのつもりだろう。だが、私はちっとも嬉しくなかった。ただ、男女で部屋を分けてくれたのはありがたい。今は誰とも会う気になれなかったから。

 荷物を置き、ベッドに倒れ込む。マットレスは私を押し返さず、ふわりと沈んだ。シーツはなめらかで肌触りが心地よい。私はうつぶせのまま息を吐き出す。寝転んでいると、心の中のいがいがが和らぐような気がした。

 脳裏に浮かぶのは先ほどの光景。狂ったような観客が見守る中、領主の処刑が行われた。目の前で起こったことのはずなのに、夢の中のように現実味がない。そう思うのは現実逃避だろうか。思い出すだけで気分が沈む。重しになっているのが怒りなのか悲しみなのか。あるいは後悔かもしれなかった。この街で問題になっていたのは、高額な税金だ。どうにかしてそれを改めさせることができれば、それで終わるはずだった。何も性急に処刑などすることはなかっただろう。説得か、それがだめなら政権交代だって、もっと穏やかに執り行うことだってできたはずだ。けれど、そうならなかった。

 そもそも、今回の事件は不可解な点があった。騎士団が伝令を持ってきたタイミングが、あまりにも良すぎたように思う。私が説得を試みて騒ぎが大きくなった時に伝令が来るなんて、偶然にしてはできすぎている。タイミングを見計らっていたのではないかと思うほどだ。先に通達は来ていたが、反旗を掲げるときを待っていたのではないかと。

 だいたい、解決するつもりがあったのなら、どうして国は行動を引き延ばしていたのか。あの領主が来たのは数ヶ月前だったはずだ。税率が変わったのがいつなのかはわからないが、それでももっと早くに動くこともできただろう。市民や旅人達も抗議していただろうし。なのに、重たい腰をなかなか上げてくれなかった。それどころか、あのときの領主の口ぶりからして、逆に領主の味方をしていた可能性もある。何がしたかったのか、さっぱりわからない。

 私は重たい頭をゆっくりと起こした。小さな窓から外をうかがう。夕暮れに染まった道は大勢の人々で賑わっている。軽快な音楽も聞こえてきて、お祭り騒ぎだ。中には国王の名前を挙げて喜んでいる者もいる。楽しい雰囲気のはずなのに、今は私の不愉快さを増すばかりだった。

 そこではたと閃いた。これはあくまでも推測だが――あの領主は利用されていたのではないだろうか。王国の威厳を示すための、倒されるべき悪役だったのかもしれない。金の亡者と知りつつ送り、問題になったところで処刑したのではないかと。だとすれば、救えなかったことが悔やまれる。知らない間に道化にされて、無残な死に方をして。確かに嫌な人物ではあった。けれど、果たして命をもって清算されるべき罪だったのだろうか。そう考えるとじわりと涙があふれてくる。他に方法はあったはずだ。助けられたはずだ。なのに――


 ノックの音が私の思考を遮った。優しい声が私の名を呼ぶ。答えようとしたけれど、喉の奥がひくひくと鳴って上手く言葉が出ない。返答がないのを不審に思ったのか、声に疑問が混じる。どうしよう。きっと私、ひどい顔をしてる気がする。心配いらないと言いたいのに、焦れば焦るほど嗚咽が止まらなくなる。

「デュライア? 開けますよ?」

 遠慮がちに部屋の戸が開いた。こちらをうかがうように、そっと入ってくる。私はミシュエルに背を向け、うつむいたままだった。顔を上げたら情けない顔を見られてしまう。

「夕食ができたそうです」

 いつもの穏やかな声で、ミシュエルはそう言った。私は答えるため、そっと呼吸を整える。

「……いらない。食べてていいよ」

 私は首を横に振った。正直食欲はないし、お腹もすいてない。食べないのは体に悪いけど、行っても喉を通りそうにない。

「体調でもくずしましたか?」

 心配そうにミシュエルは歩み寄ってくる。私はまた首を振った。近寄らないで欲しい。今はただ一人にして欲しい。そんな願いも虚しく、青色の瞳がのぞき込んでくる。

「泣いて、いるのですか」

 ミシュエルははっと息を飲み込んだ。私は恨めしげに彼を睨む。だから見ないで欲しかったのに。そう視線だけで訴えかける。大粒の雫が頬を伝って流れた。

「だって、あんなの、見た、ら――」

 言いかけて、脳裏に処刑の景色が蘇った。耐えきれずにしゃくりあげる。涙はボロボロこぼれ、嗚咽に言葉が遮られる。

「助け、たかっ、た……えぐっ、残、酷だ、から」

 言いたいことはあるのに、上手く吐き出せない。感情の波が押し寄せて、何を言っているのかもよくわからなくなっていた。それでも何も言わないのはつらくて、必死に言葉を紡ぐ。

「なん、で……今、になっ、て、ひくっ、あの人、はっ――」

 息を吸い込みすぎて、胸が苦しい。私の言いたいことは、どれくらい伝わっているのだろう。けれど他の言い回しを考えようにも頭が回らず、荒くなった息を落ち着けるので精一杯だった。

「あなたのせいではありませんよ」

 ミシュエルが私と目線を合わせて言った。なだめるように大きな手が頭に乗せられる。髪を滑る指の感覚は私の心をいくらか落ち着けた。

「でも」

「あなたが責任を感じることではありません」

 言いかけた私を遮って、ミシュエルは優しくささやいた。わかっていることだ。けれどどういうわけか泣けてきてしまう。そんな私の心を見抜いたのか、ミシュエルは私の髪を撫でた。幼い子どもにするような、やんわりとしたしぐさ。動きに合わせて呼吸が徐々に和らいでいく。私はそっと顔を上げた。目の前に深い青色の瞳。微笑んだ顔がどこか悲しげに見えるのは、気のせいだろうか。

「落ち着きましたか?」

 彼の質問に頷いて答える。大きな手が頬に触れた。

「疲れているのなら、休んでいてください」

「……うん、そうする」

 私は言われたとおり布団に潜り込んだ。泣きじゃくったせいか、既にまぶたが重い。手がそっと髪の毛に触れた。遠ざかっていく足音を、私は夢見心地で聞きながら静かに目を閉じた。

 マミネの領主編、一応完結です。というか、本当はこのシーンが書きたかったがために前二話(伏線を含めるともっと前から)を書いたという……

とりあえず一人で泣きじゃくる満月(デュライア)とそれを見たミシュエルが書きたかっただけなんですごめんなさい

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