表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マイペース☆ファンタジー  作者: 風白狼
5章 東国への旅路
54/89

4.賑やかな休息

 日が傾いてきた頃、私たちは街を出発した。岩肌がむき出しになった道をひたすら歩く。整備された道とは言え、風に浸食された土地はでこぼこして歩きづらい。おまけに時折吹く砂嵐のために、足を止めなければならないときもある。何度目かの砂嵐が過ぎたあと、私はこっそり息を吐いた。とはいえ泣き言は言ってられない。これくらいは乗り越えなくちゃ。

 徐々に日は落ちていき、それとともに気温も下がってくる。私はコートを羽織り直した。前を行くアッグは寒そうにぶるぶると震えている。暖房のための炎は既に灯していたが、それでも足りていないようだ。



 悪い道のりに足が疲れてきた頃、ほのかな明かりが見えた。土でできた壁が、明かりに照らされて浮かび上がる。

「すっかり暗くなってしまいましたし、今日はそこの休憩所で休みますか?」

 先頭を歩いていたミシュエルが振り向いて言う。暗くて足下が見えにくいので休もうということだった。そろそろどこかで休みたいと思っていた私は賛成した。あとの二人も同じ気持ちだったのか、ミシュエルの提案に反論しなかった。

 休憩所だというそれは、小屋というより防空壕のようだった。明かりのある入り口はしっかりと閉まっており、すきま風も入らないように見える。おそらく大きな気温差と砂嵐への対策なのだろう。アレスキアにあったような、雨だけをしのげる作りと比べればずいぶんしっかりしている。入り口から延びる通路を通って、地下へと下っていた。用意されていた魔法ランプを灯すと、意外に広い空間が現れる。土の中であるおかげか、寒くなかった。

「ようやく休めたッス~」

 どかりと腰を下ろして、アッグが息を吐いた。鎧を外し、尻尾はリラックスして楽しげに揺れている。

「座りこんでないで夕食の準備くらい手伝え」

 カイトは仏頂面でアッグを睨みつけた。彼の手にはこれから軽く調理する保存食が握られている。私は彼とミシュエルを手伝って鍋に食材を入れた。調理済みのものは炎で温めればすぐに食べられる状態になる。現代日本で言うところのレトルト食品だ。今回のはシチューに似た、野菜をミルクで煮込んだ料理である。それぞれのお椀によそい、熱々の具材を少しずつ冷まして口に含む。とろりと優しい味わいが口の中に広がった。

「おい、アッグ! セリエは一人二匹だって言っただろ!」

「一匹くらい別にいいじゃないッスか」

 わいわいと男二人が騒ぐ姿が目に入る。どうやらアッグがカイトの分まで食べてしまったらしい。ちなみに、セリエというのは八本足で外骨格の小さな動物のことである。節足動物に似た見た目で、クモと言うよりはカニに近い。砂漠に広く存在し栄養価も高いため、臨時で入手できる食料としては重宝するのだ。

「まあまあ二人とも、落ち着いて」

 なんだか見過ごせなかったので仲裁に入る。すると、特にカイトの強い視線がキッと向けられた。ああ、食べ物の恨みは恐ろしい。そんな風に思ってしまったが、私は気を取り直して二人に笑顔を向けた。

「アッグ、他人(ひと)の分まで食べちゃだめでしょ? ほらカイト、セリエなら私の一つあげるから」

 言いながら、私は自分の皿のセリエをつまんだ。それを向かい側にいるカイトに差し出す。私の提案が意外だったのか、カイトはきょとんと瞬きした。

「え? いや、デュライアがそこまですることじゃ――」

「カイト、あーんして」

 遠慮していたが、気にせず私はセリエを差し出した。カイトはしばらく(しゅん)(じゅん)していたが、食欲には勝てなかったらしい。口を開け、殻のついた生き物にかぶりつく。そのまま少し恥ずかしげに視線を泳がせた。

「デュライア、俺も欲しいッス」

「ごめん、一匹は自分で食べちゃったからもうないよ」

 私が答えると、アッグはしょんぼりしてしまった。彼のオレンジ色の瞳が物欲しげに揺れている。いや、そんな顔をされても無いものは無いんだけど。

「アッグ、デュライアが困っているでしょう。諦めてこっちでも食べてなさい」

 困っている私を見かね、ミシュエルが料理の入ったお椀をアッグに差し出す。アッグは仕方なくといった風にそれを受け取り、煮込まれた野菜を頬張る。私はほっと息をついて、自分の分に口をつけた。

「いつもこんな感じだったのですか」

 遠慮がちにミシュエルが尋ねてくる。私は頷いて、彼に向き直った。

「えっと、まあ、だいたいは」

 苦笑交じりにそう答える。アッグの方が食い意地が張っているのか、よく食料の取り合いになるのだ。それを眺めつつ、大きくならないうちに仲裁に入るのがいつの間にか私の役目になってしまっていた。でも、そういう賑やかさは嫌いじゃない。むしろ、楽しくて好きだ。最初の頃は一人旅だったから、余計にそう思えるのかもしれない。

 ちらりとミシュエルを盗み見ると、彼はただじっとアッグとカイトの二人を見つめていた。その表情は、ここでないどこか遠くを見ているような、物憂げなものに思えた。瞳の奥に秘めた感情は、私には推し量れない。そんな風に思っていると、彼と目が合ってしまった。こちらの視線に気付き、ふわりと微笑まれる。どうやらずいぶんまじまじと見つめてしまっていたらしい。私は慌てて目をそらし、お椀の中の料理を口の中に流し込んだ。



 食事が終わると、休憩も兼ねて明日の道程を話し合う。といっても、私やアッグは地理に疎いのでただの確認に近い。その後は寝袋に包まって眠るだけだ。炎を暖房に使っているので、休憩所内はぬくぬくとしている。疲れていたこともあって、私はすぐに眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ