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マイペース☆ファンタジー  作者: 風白狼
5章 東国への旅路
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2.退治というよりは駆除?

 旅人協会を後にした私たちは、堅固な雰囲気の建物に入った。そこはこの街の水道を管理する役所、つまり今回の依頼主がいる。案内された部屋には山羊族の人とリザード族の人が座って待っていた。


「おお、君たちが今回依頼を引き受けてくれる旅人かね?」


 山羊族の男性の嬉しそうな声に、私たちは頷きを返す。その顔は安堵しているようだった。勧められるままに席に着くやいなや、カイトが口を開いた。


「で、水源近くに魔物が巣くったんだったか?」


 カイトが確認すると、二人の役人は強く頷いた。


「ええ。まずはこれを見てください」


 そう言って、リザード族の人が円筒形の道具を持ってくる。その中には魔石が取り付けられていた。二人がなにやら操作すると、その道具は光り始め、筒の中で映像となって動き始めた。

 映ったのは川の近くに立つ四角い建物。おそらく話に出た水道施設なのだろう。遠目だが水路と仕切りが見える。その影に、小さな何かがうごめいていた。せいぜい膝までの高さしかないが、凶暴な目を光らせ、八本ほどの足でもぞもぞと動いている。私がよく知る動物の姿ではなく、まるでヒトデがその腕で歩き出したかのような、そんな形だ。その全ての足の間に一つずつ目がある。見た目だけでも気持ち悪いのに、それが一匹ではなく何十匹もいるのだ。私は口元を引きつらせて映像を見ていた。


「ボガードか…!」


 なんて厄介な、とカイトが呟く。見れば、カイトもミシュエルも険しい表情をしていた。それを見るに、あのボガードという得体の知れない魔物は、雑魚キャラの見た目とは裏腹に退治が大変なのかもしれない。


「なるほど、事情はわかりました。駆除に尽力しましょう」


 ミシュエルが丁寧な仕草で会釈する。役人の二人は喜んで握手を交わしていたが、私の心には一抹の不安が残っていた。




「ボガードってどんな魔物なの?」


 私は商品を見比べる二人に問いかけた。ボガード対策の準備を整えるといって、薬草を扱う行商人の店に来ているのだ。私の問いに、ミシュエルが優しく答えた。


「ボガードは水辺に住み着く魔物です。水をかなり吸収し、しかも増殖が早いんです」

「おかげで数が多いから、駆除には仕掛けが必要なんだ」


 薬草を選びながら、カイトが続ける。つまり、一網打尽にする仕掛けを準備しようとしているらしい。私は二人の準備をじっと眺めていた。


「それで、具体的にはどうするんスか?」


 そうアッグが尋ねると、ミシュエルがアッグに選んだ薬草の束を渡しながら答えた。


「これを燃やして、煙で追い出すんです」


 ミシュエルが渡したのは乾燥させた草花だった。このままでもハーブのような、独特の香りがする。そこへ、カイトがビンを見せながら続けた。


「そして、出てきたところにこいつをかけて仕留める」


 彼が持っていたビンには毒々しい色をした液体が入っていた。魔物に特異的に効果のある魔法薬だという。これを全体に散布して一気に仕留めるつもりらしい。この二人がここまで準備するのだから、私も気を引き締めなきゃ。そう考えて、私は二人についていった。





 日がいくらか昇った頃。私たちは例の水道施設にたどり着いていた。日光を避けているのか、魔物の影はない。日よけのローブを纏いながら、私たちは様子をうかがう。煙を利用するため、風向きや地形を把握する必要もあるのだ。

 そうして近づいていくと、日陰からぎょろりと目が輝いた。それも1つだけではない。私は反射的に剣の柄に手を掛ける。二呼吸ほどのにらみ合いの後、影が躍り出た。奇声を上げ、タコだかヒトデだかわからないそれは飛びかかってくる。私は一息で剣を抜くと、白銀の刃を突き出した。


「っ、バカ! 待てデュライ――」


 カイトの叫び声が後ろから聞こえたが、勢いをつけているので急には止まれない。襲ってきた一体に真っ直ぐな切っ先が突き刺さる。刹那、魔物は魔石へと変化して地面に落ちた。横から来た2体を横薙ぎに切り裂き、浄化する。わきに残っていたやつらに魔法を当て、ひとまず先鋒(?)は全滅させた。


「で、カイト、何だった?」


 振り返ってみると、カイトもミシュエルも面食らったような顔をしていた。


「ボガードは再生能力が高くて普通の物理攻撃や魔法攻撃じゃ倒しきれない。はず、なんだが…………お前の場合は再生する前に浄化できちまうのか」


 盛大なため息を吐いて、カイトが頭を掻く。困惑しているような安心したような、微妙な表情をしている。……そうか、普通(・・)ならこうもあっさり倒すことはできないんだ。とはいえ、“魔物を浄化する力”が役に立ってくれるのは一つの強みかもしれない。


「そもそも魔物を魔石に――それも純魔石に変えることができる、という時点で驚きなんですが」


 ミシュエルも遠慮がちに言う。そういえば、彼にこの力を見られるのはこれが初めてなんだっけ。アッグもミシュエルの言葉に同意してるし、なんだか肩身が狭いなあ。


「しかしそれだけでボガードを倒せるのなら、風下側にいた方が有利になりますね……カイト、そっちは頼むぞ」

「ああ、わかってる」


 ミシュエルの言葉にカイトは頷き、薬草の束を抱えたアッグと共に風上へと回る。二人ともすぐに切り替えられるところがさすがだと思う。私はミシュエルと共に風下側、つまり追い出したボガードをやっつける側に回った。




 じりじりと日差しが降り注ぐ。本当ならこんな暑い時間に動くべきではないのだが、相手も水辺の魔物で乾燥に弱いため、あえてこの時間を選んだのだという。私はミシュエルに魔法薬の使い方を教わりながら、そのときが来るのを待っていた。

 やがて向こう側で煙が上がる。それは風に乗り、私たちのいるところまで芳香が届いた。と、煙から逃げるようにぞろぞろとそれは出てくる。


「デュライア、準備はいいですか?」


 ミシュエルの問いに、私は強く頷いて見せた。大軍がどっと押し寄せたところで、ビンの中の液体を振りかける。途端に魔物は奇声を上げて溶けてしまった。なるほど、これがボガード退治なのか。そう思う間もなく、わさわさと異形の者達が押し寄せてくる。キリがないんじゃないかと思いながら、私はビンの中の魔法薬を振りまいていた。

 と、視界の端に背後からミシュエルに飛びかかる魔物の姿が映った。咄嗟に剣を抜き、魔力を集める。空中で振れば、魔法で増幅された剣圧が刃となって魔物を両断した。断末魔を上げる間もなく、それは魔石へと姿を変える。コトリと落ちた宝石を見やり、ミシュエルは軽く笑った。


「守られてばかりでは男が廃りますね」


 そう言って、ミシュエルは左の手のひらを開いて宙にかざした。彼の手のひらの周りに、魔力が凝集していくのを感じる。その魔力は意思を吸い、魔法薬を自在に操っていく。あ、と思う頃にはほとんどのボガートは溶け、消滅してしまっていた。残っていた数体も、手際よくさばいていってしまう。気付けば、魔物の姿はどこにもなかった。

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