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マイペース☆ファンタジー  作者: 風白狼
4章 砂漠の道訪ねて
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13.出会いは新たな始まり?

 遊牧民族の人たちと別れてから数日後。私たちはイサラスの街にたどり着いていた。最初に驚いたのは、その城門の大きさで、目測だがピオッシアと同じかそれ以上あると思う。壁は堅そうなレンガが(しっ)(くい)で塗り固められていて、少しの衝撃ならびくともしないように見える。

 門をくぐって、私はまた驚いた。綺麗に舗装された道路に沿って、石造りの建物が並んでいる。どの建物も白さが際立っていて、まるでギリシャの街並みのようにも見える。建物がそうやって並ぶ様は、この街の大きさを物語っているようでもあった。


「で、まずどこにいくんスか?」

「そうだな……とりあえず日も出てきたし、まずは宿に行こう」


 アッグの問いに、カイトは少し考えてから答える。彼の言うとおり、日が昇ってきて徐々に暑くなってきているのだった。街中とは言え、外を出歩くのは得策ではないだろう。私は先を歩くカイトに駆け寄ろうとして――足を止めた。視界にあるものが映り込んだのだ。

 気になって、建物と建物の間、脇道の向こうを見つめる。そこでは何人かの女性が一人の男性を囲んで楽しそうに話していた。なぜ、そんな光景が目にとまってしまったのかというと。その男性というのが問題だった。

 彼はすらりと背の高い美形の男性であった。きらきらと陽光を反射する水色の髪の毛。そして髪の毛から覗く、すっと尖った形の耳。間違いなく、エルフ族の人だった。


「デュライア? どうかしたッスか?」


 アッグに名を呼ばれ、私ははっと我に返った。二人が心配そうにこちらを見つめている。そのことが少し申し訳なかったけれど、言わなくては。


「カイト、あそこに――」


 そう言うも言葉が続かず、私は道の向こうを指さした。不思議そうに、カイトが脇道をのぞき込む。と、その表情が急変した。


「ミシュエル!」


 そう叫ぶやいなや、カイトは駆け出してしまう。私とアッグは慌ててその後を追いかけた。エルフの男性も、振り向いて驚いたように目を見開いた。


「カイト! 無事だったのか」

「ミシュエルこそ」


 軽く息を切らせながらも、カイトは笑う。つられてエルフのミシュエルさんも微笑んだ。


「あら、そちらの方は?」


 彼の周りを囲むように立っていた女性たちがこちらを見ながら尋ねている。ミシュエルさんはふわりと微笑んで彼女らに向き直った。


「ああ、彼は先ほど言っていた、私の探し人です」


 その一つ一つの動作は丁寧かつ上品で、美形であることと相まって思わず見つめてしまう。


「そうでしたか。見つかったようで何よりですわ」


 彼の説明で合点がいったのか、女性たちは楽しそうに笑いながら案外すんなり立ち去っていった。整った街道に私たち4人が取り残される。ふわり、とミシュエルさんの視線がこちらに向けられた。


「ところでカイト、彼女らは?」


 問われ、息を整えていたカイトは思い出したように私とアッグを見やった。


「ああ、彼女らとはここまで一緒に来たんだ。人族の方がデュライア、リザード族の方がアッグ。……オレの命の恩人だ」


 彼がそう紹介してくれる。私は軽く会釈した。大したことはしていないと思うけれど、“恩人”と言ってくれたことが何だかこそばゆい。


「そうでしたか。カイトを助けて頂いたようでありがとうございました、デュライア、アッグ」


 ミシュエルさんは微笑んで、優雅にお辞儀をした。その動作は洗練されていて、王族や貴族を思わせる。


「それでは改めて自己紹介を。私は旅人のミシュエル・ハミ・グレクス・ケツァコルハイデ・マナ・ロンドアーツといいます。どうぞよろしく」


 ――フルネームが長いっ! 実はどこかの王子様でした、みたいなオチが来そうなくらい長い。私が唖然としていると、ミシュエルさんは何を思ったのか私に歩み寄ってきた。撫でるように髪の毛に触れ、顔をのぞき込んでくる。深い青色をした瞳が、とても近くにあった。


「あ、あの…?」


 私が遠慮がちに口を開くと、彼の目ははっとしたように大きくなった。しかしすぐに穏やかなものへ戻ると、腕と顔を遠ざける。


「いえ、貴女の瞳がとても美しかったものですから」


 そう言って、ミシュエルさんは微笑んでいる。……これは、まさか口説かれでもしているのだろうか。意味がわからず、しばし固まってしまった。多分今、私はすごくヘンな顔をしていると思う。


「は、はあ……ありがとうございます…?」


 どうすべきか迷い、私は曖昧に笑みを作った。ちらと周りを見れば、アッグは睨むようにミシュエルさんを見ているし、カイトはあきれ顔だった。呆れてるってことは、これが通常運転なのだろうか。そんな風に思っていると、ミシュエルさんが口を開いた。


「さて、積もる話もありますが、お礼もしたいですし、店の中にでも入りませんか?」


 彼の言うことはもっともだった。なぜなら、砂漠の太陽は高くまで上がり、じりじりと私たちを焼き始めていたからである。私たちはいったんその場を後にし、涼しそうな店の中に入った。







 入ったのは、空調の効いたカフェだった。窓が小さいため外の光はほとんど入ってこないが、レンガの壁は落ち着いていてリラックスできる。4人掛けの席に、私とアッグ、そしてその向かい側にカイトとミシュエルさんが座っている。


「ありがとう、デュライア、アッグ。おかげでミシュエルと再会できた」


 注文を終えて落ち着くやいなや、カイトがそう切り出す。彼の紫色の瞳は見たことがないほど嬉々として輝いていた。そんな風にお礼を言われてしまうと、何だか気恥ずかしい。


「あはは、そんなことないよ」

「いや、お前がいなかったら、オレはこの広い街ですれ違っていたかもしれない」


 命も救われたしな、と付け加えてカイトは私の方を真っ直ぐ向いた。私は照れくさくて鼻の頭を掻く。と、彼の隣に座るミシュエルさんが微笑んだ気配があった。


「まったくです。貴女は名前の通り女神のような方ですね」


 ミシュエルさんはエルフの長い耳を少し動かしてそう言う。彼の言葉に、私は思わず眉をひそめた。


「名前の通りの、女神…?」


 私が聞き返すと、ミシュエルさんは優しげに微笑んで答えてくれる。


「ええ。空に浮かぶ二つの月――その白い月を守るのは女神“デュライア”、赤い月を守るのは男神“デュロス”ですから」


 そこまで言われて、ようやく私は理解することが出来た。私の名前――デュライアって、月の女神の名前だったんだ。そういえば、六厳善(ろくがんぜん)は白い月が綺麗に出ている日に私を拾ったといっていた気がする。だから私は月にちなんだ名前をつけられたのだろう。


「確かに、月明かりで道を照らす女神のよう、だな」


 カイトが感心したように頷く。……そこまで言われると、何か違うような気もするけど。そう思っていると、アッグもぽんと手を打った。


「わかるッス! デュライアって、“女神”って言葉がよく似合うッス!」


 素直な言葉でそう言われると、まんざら嫌だとは思わなかった。くすぐったくて、不器用にはにかむ。今、きっと私は顔が赤くなっていると思う。少しだけ、頬が熱かった。


 ことり、と音を立てて、運ばれてきた飲み物が机に置かれる。口につけると、よく冷えた飲み物が心地よかった。自分の飲み物に一口つけてから、思い出したようにミシュエルさんが話を切り出した。


「そういえば、デュライアはどうして旅をしているんですか?」


 それは同じ旅人として聞いてみたいという感じだった。私はこれまでのあらましを話した。見聞を広めるために旅に出たのだということ、ピオッシアでアッグと出会ったこと、砂漠の途中でカイトを見つけたこと――私たちが話している間、ミシュエルさんは相づちを打ちながら真剣に聞いてくれた。話が終わると、ミシュエルさんはなるほど、と頷く。


「そうでしたか、見聞を広めるために……」


 感慨深そうにそう言うと、ミシュエルさんは何か思いついたのかふわりと微笑んで、


「そうだ。だったら私の故郷――『シルフェリオ』に行きませんか?」


 そう提案した。曰く、シルフェリオとはエルフ族が集まって作られた国だという。ここからいくらか距離はあるが、もし良ければ見に来て欲しいと、ミシュエルさんは言う。もちろん、私に断る理由なんてなかった。


「はい! もちろん行ってみたいです!」


 エルフの国。そう聞くだけでわくわくしてくる。世界を見るためなんだから、誘いに乗っからない理由なんてない。私は未知なる土地へ期待を膨らませていた。

 存在をほのめかしておいたミシュエルさんとようやく合流! 次回からは彼が加わって、賑やかに新章が始まる予定です!w


それから、“デュライア”の名前はこの世界の月の女神、という設定でした。もともと月っぽい名前にしたいなあと思ってたんですよね。そして伏線に……気付く方はいるんでしょうかね?w

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