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マイペース☆ファンタジー  作者: 風白狼
4章 砂漠の道訪ねて
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10.襲撃

 砂漠の道を、ユミールは順調に進んでいく。時折小さな魔物が出没したが、障害とはならなかった。やがて、切り立った崖が前方に現れた。そこまで高くないがのっぺりと広がっており、迂回は難しそうだ。そんな崖の中程に、ぱっくりと開いたヒビ。それはずっと向こう側まで伸びている。ここはよく使われる通路なのだ、とヤクさんが教えてくれた。確かに割れ目はきちんと整備されていて、(わだち)も見える。だが、私は何となく不安を覚えていた。

 ユミールはその道にさしかかり、するすると進んでいく。と、何か黒い物がころん、と目の前に転がってきた。


「伏せろ!!」


 カイトが叫ぶ。と、目も眩むほどの閃光が走った。間一髪で伏せ、目を閉じる。収まった頃、おそるおそる目を開いた。と、いつの間にか何人かの大人達に囲まれていた。堅牢な鎧に身を包み、手にはよく手入れされているらしい剣や槍といった武器を持っている。さらに悪いことに、前後だけでなく崖の上からも弓が狙っていた。

 ――待ち伏せされていたのだ。私は剣に手を掛け、キッと相手を見据えた。


「ここは俺たちの縄張り(シマ)だ。怪我したくなかったら通行料を払うことだな」


 大人達の一人、豚に似たオーク族の男がにたにた笑いながら言った。他の大人達――牛族やフェンリル族といった屈強そうな男達――も武器を見せびらかすようにして笑っている。威圧的な態度に、ヤクさんは震えていた。


「チッ、賊め…。おい、こんな奴に従う必要はねえぞ」


 横からカイトの舌打ちが聞こえた。言いながら、彼は赤い傘を構える。いつでも迎え撃てる。そう言葉の外で言っているように感じた。私自身、カイトと同意見だ。盗賊行為を許す訳にはいかない。私は剣の柄に手を掛け、いつでも抜けるようにした。アッグも斧を手に持っている。


「にいちゃん、強気だなあ?」


 こちらの様子を見て、オーク族の男は嗤う。男が手を挙げると、一斉に弓が引き絞られる。その矢が放たれたのが合図となった。




 カイトが飛び出す。真っ赤な傘が開くと、降り注ぐ矢の雨は停止し、勢いを失って地に落ちた。彼を狙って別の男が剣を振り下ろす。カイトはひらりと躱すと、素早く魔法弾を撃って退けた。私は剣を抜き、迫った槍を受け流して魔法を放つ。収束した雷が槍を持った男に直撃。そのまま相手は気絶した。そうこうしている間にも矢が降ってきて、時折私の顔をかすめた。

 邪魔だ。私は崖の上に構える男達を見上げた。あの弓矢をどうにかしなければ。


「カイト、こっちはお願い!」

「はあっ!? お願いってお前、どういうことだよ!?」


 困惑した叫び声が返ってきたが、私は構わず魔力を集めた。自分に浮遊魔法を掛け、空中へ飛び立つ。飛んできた矢をはじきながら、私はイメージした。そのイメージを魔力に乗せ、片方の崖にいる男達に向けて放つ。白い塊が剣の先から放たれると、矢をも巻き込み命中する。それは大きなトリモチとなって弓矢の男達の動きを止めた。もう一方も、というところで、何かが私に急接近する。身を翻して襲撃を躱す。が、振り下ろされた一撃に対処できず、下方に吹き飛ばされた。魔力を込め、かろうじてたたきつけられるのを防ぐ。崖の上に降り立った私に、すかさず剣が迫った。バックステップで躱しつつ距離を取る。


「ふん、ガキだと思ってたが案外やるじゃねえか」


 襲撃してきた男は鼻を鳴らす。その男は幅広の大剣を構え、鎧に身を包んだフェンリル族であった。

 強い。剣を交えたのはほんの少しだったが、体がそれを感じ取っている。私は呼吸を整えた。と、男は顎で撃て、というような仕草をする。と、残っていた弓兵が攻撃を再開した。


「っ!」


 しまった、まだ片方は残っていたんだ。私は戦慄し、剣を構えて駆け出す。だが彼らを阻止することは叶わなかった。


「どこを見ている」


 低い声と共に、剣が振り下ろされたのだ。すんでの所でそれを避ける。勢い余った大剣は岩を砕き、石のつぶてが飛散する。私は魔法障壁でそれらをはじいた。と、横薙ぎに刃が迫る。体をのけぞらせ、切っ先から逃れる。凄まじい剣圧が髪の毛を揺らした。息をつく日間もなく、剣が返ってくる。私はそれを受け止めた。鋭い金属音が響き、二つの剣がつばぜり合いになる。だが、力は向こうの方が上だ。そのままの姿勢で押され、耐えきれずによろけてしまう。すかさず大剣が振るわれる。私は思いきって尻餅をついた。眼前を剣がかすめていく。素早く体の向きを変え、せかせかと間合いから逃れた。見た目かっこわるい逃げ方だが、そうするより他になかったのだ。男の舌打ちが聞こえる。


「いつまで鬼ごっこを続けるつもりだ?」


 次々に振り下ろされる男の剣技から、私は逃げるばかりになっていた。このままではいけないとは分かっている。だが、力だけでは勝てないのは目に見えていた。

 一度息を吐き、私は意を決した。右から振り下ろされた剣を下に受け流し、素早く相手の懐に飛び込む。体を伸び上がらせ、鋭く剣を突き出した。のど元を狙ったはずだったが、それは相手の頬をかすめるだけに終わった。毛深い顔に、赤い線が刻まれる。


「このアマ…!」

「ぐっ!?」


 無防備になった私の胴に、男の拳が入る。私は勢いよく飛ばされ、したたかに背中を打った。カラン、と手を離れた剣が落ちる音が聞こえる。それを目で追い、痛む体を動かそうとする。が、男に腹を押さえつけられ、できなかった。


「俺は女を手に掛ける趣味はないんだがな」


 言いながら、男は私を足で押さえつけている。私の剣は手に届くところにない。万事休すだ。私は思わず奥歯を噛みしめた。そして男の剣が振り下ろされようとした、まさにそのとき。

 まばゆい光が男を襲った。それが炎の弾だと気付くのに数秒かかった。


「寝ている場合か、デュライア!」


 下からカイトの怒声が飛ぶ。先ほどの炎は彼の援護だったのだ。男に直撃はしなかったようだが、相手の注意は彼に向いている。私は痛む体に鞭打って体を起こし、剣を拾い上げた。そして、魔力を集め始める。それに気付いた男が迫ってくる。だが。


『荒ぶる風よ、猛々しく渦を巻き上げ、邪を吹き飛ばせ!』


 呪文と共に、私の目の前で竜巻が具現化し、接近する男を巻き込んだ。勢いを衰えさせず、ごうごうとうなりながら進む。それは崖の上の弓兵を全て巻き上げ、吹き飛ばした。竜巻が去った後には、気を失った男達が倒れているだけとなった。



 こうして私たちは襲撃を退け、崖の道を渡りきることができた。


「カイト、さっきはありがとう」

「ったく、お前は。無茶をするという選択肢しかないのか」


 カイトは呆れたように吐き捨てると、私の頭をぐりぐりと押した。


「でもデュライアが向こうを引きつけてくれたから、こっちはかなり楽になったッス」


 アッグがフォローを入れてくれる。が、カイトはそれに噛みついた。


「ばか、そんなこと言ったらこいつがまた調子に乗るだろうが」


 言いながら、カイトは私の頭をぐいと押した。アッグはそうかもしれないッスが、と困り顔だ。


「ふふ、仲がいいんですね」


 私たちの行動を見ていたヤクさんが可笑しそうに笑う。何か気に障ったのか、カイトは眉をひそめて私から手を離した。しばらく奇妙な沈黙が流れる。その間にも、ユミールは砂漠の道を進んでいった。

今回は戦闘をメインに書いてみました。しかし、なにか武術を参考にしている訳ではないので間違っているかもしれません…

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