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マイペース☆ファンタジー  作者: 風白狼
4章 砂漠の道訪ねて
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(6.) 風呂場騒動 (下)

主人公視点

 手桶のお湯を体に掛け、一息つく。久々のお湯の感覚に、体だけでなく心も洗われるような感覚がした。タオルを絞り、私は湯船に入る。


「くぅ~、やっぱりお風呂っていいなあ」


 伸びをし、私はそうつぶやいた。そのままぼんやりと天井を仰ぐ。そこにはピラミッドを思い起こさせる、幾何学的な装飾が施されていた。昼間と言うこともあってか、私の他には誰もいない。時折お湯が立てる波の音がするばかりだ。そのことがいっそう神秘的な情景を醸し出す。



 ふと視線を下げると、ガラス戸に気付いた。曇りガラスの向こうは、露天風呂だろうか。緑色の生け垣と、立ち上る湯気が見える。私は湯船からあがった。そしてタオルを体に巻いた。せっかく露天風呂があるんだし、入ってみよう。そう思い、私はガラス戸に手を掛けた。

 開けた途端、鮮やかな緑が目に飛び込んできた。よく見れば、肉厚の葉を持つ生け垣のようだ。砂漠の殺風景さを打ち消すような、生き生きとした色。


「わぁ、木が植わってるなんてすごいなあ」


 思わず言葉がこぼれていた。けれど、それは仕方ないと思う。こうした色を久々に見たのだから。

 そっと足を湯船に入れる。湯加減はちょうどいい。そのまま足を入れていき、底につく。足を動かして深さを確認してから、私はお湯につかった。私は広々と足を伸ばして、一息つく。視界に映る緑が心を落ち着けてくれるようだった。肩にお湯を掛けながら、私はこれからのことに思いを馳せた。




――ガサッ


 大きな音に、私は驚いて振り向いた。今、生け垣が揺れた気がする。体をこわばらせ、注視する。が、生け垣の中の何か(・・)は見えない。危険かもしれないとは分かっている。それでも正体が気になって、私は生け垣にゆっくりと近づいた。

 と、先ほどよりも大きく枝が揺れ、葉が音を立てた。私は驚きで思わず立ち上がる。そして生け垣の中から、大きな影が転がり落ちた。


「てめ、アッグ! 一人だけ逃げやがって…!」

「…カイト?」


 その姿を認めて、私は声を掛けていた。声を荒げていた影――カイトはびくりと肩を震わせる。ふた呼吸ほどの間のあと、おそるおそるという感じで、彼はこちらを振り向いた。怯えたような視線と目が合う。


「っ! すまない!」


 しかしカイトは私の姿を認めるやいなや、すぐに視線をそらした。心なしかその顔は赤い。そこで私は、自分が一糸纏わぬ姿であることを思い出した。何となく気まずくて、お湯の中に座り込む。しばらく、お互いに無言だった。私が立てたお湯の音以外は、静寂がその場を支配していた。

 うん、とりあえず状況を整理しよう。私がお風呂に入っていたら、生け垣からカイトが出てきた。男湯は反対方向にあるし、彼は服を着ている。故意に生け垣の中に入ろうとしなければ、ここにいないだろう。つまり、覗きに来たのか。結論が出ても、私の心は至極平静だった。もちろんはじめは驚いていたが、今は意外だという以外に特に何も思わなかった。


「…何してるの?」


 答えは分かりきっていたが、私はそう訊いてみた。ぎくり、という効果音でもつきそうなほど、カイトは体をこわばらせている。


「ふ、風呂を、覗い……てた」


 彼は視線をさまよわせ、ボソボソと答えた。そして直後、私が何か言うよりも早く、こちらに向き直った。


「けど最初はそんなつもりじゃなかったんだ! アッグが覗きに行くって言うから止めようとして、成り行きでそのまま――」


 カイトは顔を赤くしたまま懸命に弁解してくる。そういえばさっき、アッグが逃げたとか叫んでいた気がする。彼が嘘をついているとは思っていないが、あまりにも一生懸命で可笑しかった。


「で、そのままきたんだ?」

「そ、それは…」


 私が身を乗り出すと、彼はもごもごと口ごもって目をそらせた。


「いつからいたの?」

「わ、割と最初から…」

「そっか」


 私の中には、覗きという行為に対する苛立ちはもちろん、それに気付かなかった自分自身に対する呆れが混在していた。そこに羞恥がないのは、おそらく精神年齢のせいだろう。



 徐々に場の空気に耐えられなくなってきたのか、カイトはこちらに背を向けて逃げだそうとしていた。


「逃げるつもり?」


 私はそんな彼にとげのある声色でそう尋ねた。問われ、カイトはピタッと動きを止めた。こちらを向こうとはせず、体をこわばらせてわずかに震えている。


「覗きをしておいて、私に何か言うことはないの?」


 そこで彼はくるりと向きを変え、間髪入れずに頭を下げた。


「覗いてすみませんでしたっ!!」


 腰からほぼ直角に折り、カイトは私に謝った。私は別にそこまでされるほど怒ってはいなかった。あくまでもこれからしないように謝って欲しい、と思っていただけだったのだ。私が何も言わないでいると、彼は慌てて踵を返した。あ、と思う間に彼は駆け出し、姿が見えなくなってしまった。


 悪いことしちゃったかなあ…。私は何だか申し訳ない気分になって、お湯の中に体を落ち着けた。一息つき、ざばっと風呂から上がる。謝ってもらったけれど、もう気にしていないと伝えに行こう。私は体を拭き、服を着ていく。……ついでに、主犯のアッグにもきちんと制裁を加えないとね。

という訳で、風呂場騒動編でした。

もちろんアッグはこの後主人公にしかられましたとも。


 一応補足すると、主人公は人生を終えてからの転生なので精神年齢は見た目相応でないのです。

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