4.新たな仲間
砂漠で行き倒れていた青年、カイト(君付けしようかと思ったが呼び捨てでいいと言われた)は私達と打ち解けていた。最初の時の敵意が嘘みたいに思える。あの時は警戒していただけで、根はいい人なんだろう。
「そう言えば、次何処に行くか決めたッスか?」
思い出したようにアッグが言った。訊かれて、私は少し首を傾げる。
「いや、まだ…」
治るまではカイトの看病をしようとは思っていた。けれどそのうち彼も全快するだろう。その後のことなんて、全く考えていない。近くの町へ行ければいいやと思っている。そう考えて、私はふとある事が気になった。
「ねえ、カイトはこれからどうするの?」
「…オレ?」
急に話を振られて、彼は戸惑っていた。そしてどこか悲しげに、ふっと目を逸らした。
「オレは――仲間を捜してるんだ」
「仲間?」
カイトはうつむいたまま、ぽつりとつぶやく。私が聞き返すと、彼は頷いて続けた。
「ミシュエルっていって、空色の髪をしたエルフなんだ。知らないか?」
カイトは顔を上げた。すがるような瞳が私を見つめてくる。
「ごめん、見てない」
「そうか…」
彼の探すミシュエルさんどころか、私は旅に出てからまだエルフ族の人と遭遇していない。私の答えに、彼はまたうつむいてしまった。
「そ、そうだ! 差し支えなければこれまでの経緯とか話してくれない?」
私は努めて明るく言った。カイトはしばらく黙っていた。やがて、ゆっくりと口を開く。
「ミシュエルは、オレの、大切な仲間なんだ。一緒に旅をして、依頼を受けたりして……」
物静かな口調でそう語った。視線は床に落ちている。カイトは一度言葉を切ると、ぐっと唇を噛みしめた。
「そしてあの日、オレ達はとある依頼で、船で移動していた。安全な航路のはずだった。だが、そこを海竜が横切り、海は大荒れとなり、オレ達の乗っていた船は壊れた。打ち上げられた浜で気付いた時には、あいつの姿は無かったんだ」
カイトは膝の上で拳をきつく握りしめている。私はそんな彼に何も言葉を掛けてやれなかった。
「お金や必要な物はほとんどあいつが持っていたから……オレは、あいつを捜している途中で倒れてしまった。お前が助けてくれなかったら、今頃オレは――」
悲しそうにそう言って、カイトは口をつぐんだ。静寂が部屋に立ちこめる。しばらく誰も何も言わなかった。
「私達も、ミシュエルさんを探すの、手伝うよ」
「は?」
私は微笑んで、明るくそう言った。カイトからは素っ頓狂な声が返ってくる。彼の紫色の瞳にも困惑の色が浮かんでいた。
「だ、だが、それだとお前達に余計な迷惑を――」
「それは気にしないで。元々私達は特にあてのない旅をしてただけだから、誰かを捜す、って目的が加わったって何の問題もないし」
上ずった声で言うカイトの言葉を、私は途中で遮った。それでも、彼はまだ何か言いたそうに口をぼそぼそと動かしている。
「それに、旅に慣れた人が一緒だと私達も助かるな」
まだ納得していないらしい彼に、私は笑いかけた。彼の話からして、旅の経験は彼の方が多いだろう。私はもとより世間知らずで、アッグだって自分の住んでいたピオッシアの外はほとんど知らないのだ。だから、旅人として活動していた彼の存在は心強い。もちろんそれ以上に、困っている彼を放っておけなかった。だからこうして、彼の人捜しに付き合おうとしている。
私の話を聞いて、紫の瞳がまっすぐに私を見据えている。そして、カイトはふっと破顔した。
「来るなと言っても着いてきそうだな……。分かった、よろしく頼む、デュライア」
「こちらこそ」
私達は固く握手を交わした。と、アッグが横で言いにくそうに頭を掻く。
「探すのはいいッスけど…どこに行くッスか?」
問われて、はたと困ってしまった。言い出したはいいものの、何処に行けば良いのかなんて全然考えていなかった。
「それは今から考える」
「やっぱり考えて無かったんスか!?」
アッグのツッコミをやや無視して、私は思案した。あごに手を掛けて、視線を上げる。と、カイトが呆れたような、可笑しがるようなため息をついたのが分かった。
「ここはバーヌの町だと言ったな? なら、西に行けばイサラスの街がある。あそこはこの国の首都ほどではないが、大きな都市だ。何か情報もあるかもしれない」
カイトは静かに、しかしはっきりとそう言った。カバンから地図盤を取り出してみれば、確かにここより西にイサラスという街の名がある。少し距離はあるが、途中の街に寄りながら行くことができるだろう。カイトって、本当に旅に慣れているんだなあと素直に感心した。
「へえ、じゃあまずはそのイサラスに向かってみよっか」
私が言うと、アッグもカイトも笑顔を見せた。行き先のある旅も、悪くない。それに、ミシュエルという人物にも会ってみたい気がした。
少し間が空いてしまいましたが、更新です!
ここに来てようやくパーティーが3人になりました。相変わらずのまったりペースですw
物語はまた新たな方向に進展します。お楽しみに!




