表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マイペース☆ファンタジー  作者: 風白狼
4章 砂漠の道訪ねて
38/89

2.極寒と灼熱の地獄道

 翌日。私達はまだ暗がりの残るうちに宿を出た。簡単な朝食を貰い、未だに冷気が立ちこめる道を歩く。アッグは不満そうだったが、私は無理を言ってこの時間帯に出発したのだった。

 外の冷気が肌を刺す。私は顔を外套にうずめた。辺りは草木が無く、ごつごつした岩ばかりが視界に入る。その光景が、余計に寒々しい印象を与えた。


「なんでまだ寒いのに出発したッスか!」

「そんなこと言ったって、日中の方が辛いもん。動きやすい朝と夜のうちに少しでも移動しておかないと」


 アッグはやはり不満らしかった。私は彼を説得する。アッグもそれ以上は言えないようで、また黙り込んだ。とはいえ、彼にとってはこの寒さは堪えるらしい。一体何度このやりとりを繰り返したことか。次に文句を言われても無視してやろうかなどと考えながら、私達は歩いていた。




 やがて日は昇り、じわじわと肌を焼くようになる。私は辺りを見回し、大きな岩を見つける。そしてその影に入って腰を下ろした。


「話には聞いてたッスが……暑いッス…」

「だね…」


 アッグの言う通り、日陰にいてもじっとりと汗ばんでくる暑さだ。この灼熱地獄の中を更に歩いていたら、間違いなく脱水症状に見舞われてしまうだろう。私はフードを目深にかぶる。それでこの熱気が和らぐ訳ではなかったが、日差しは少しだけ入らなくなった。

 太陽は更に昇っていき、それにつれて辺りは更に熱気を増す。時折吹く風は砂を伴った熱波で、涼しさの欠片もない。動くことはおろか話すのさえも気だるくて、私もアッグもお互いに無言だった。むしろ、動いて汗を無駄に流す事が無いので賢明な判断とも言える。夕暮れ、涼しくなるのを待ってまた移動するのだ。

 私は一度伸びをし、岩にもたれかかった。そのままぼんやりと空を仰ぐ。動植物がほとんど無く、砂嵐以外に表情を変えないこの砂漠の真ん中で、ただ日が暮れるのを待つというのは非常に退屈だ。どうせ他にする事無いし、いっそ仮眠でもとっておこうか。私は岩に体を預け、ゆっくりと無意識の中に沈んでいった。




 肌を撫でる冷気に、私は目を覚ました。実際にはあの暑さでぐっすりとは眠れず、アッグと代わりばんこに起きて見張りしてたみたいになってたけど。そして今目を覚まして、既に太陽が傾いて赤々と燃えていることに気がついたのだった。私は立ち上がり、ぐっと伸びをする。


「さて、行きますか!」

「了解ッス」


 私達は涼しげな空気の中を歩き出した。赤く染まった空が、徐々に明るさを失っていく。体に当たる風もまた、寒気を含み始めていた。思わず体が震える。カバンからコートを出し、すぐに羽織った。昼間に比べれば楽だとはいえ、やはり堪えるものがある。ちらりとアッグを振り返ると、彼は彼で震えていた。いや、私より震えているかも知れない。リザード族って、実は見た目通り変温動物だったりするのだろうか。

 太陽が沈みきってしまうと、辺りは闇が支配するのみとなった。わずかに星明かりと月明かりが降り注いでいる。見上げれば、二つの月は半分だけ光っていた。これが満月だったら絵になるのにな、とどうでもいい事が脳裏に浮かぶ。私は視線を戻した。既に向こう側が見渡せないほど暗くなり、息も白くなってきた。


「アッグ、これ」


 そう言って、私は町で買った魔法具に火をつけ、それをアッグに渡した。魔力により生み出された炎は、照明にも暖炉にもなる。おかげで暖かく、明るくなったように感じた。


「え? デュライアは寒くないんスか?」

「アッグの方が寒そうにしてるから」


 アッグの問いにそう答えると、彼は嬉しそうに火に当たった。私だって寒いのだが、今この距離でも何となく暖かいから大丈夫だ。私は彼に向き直った。


「その代わり、照明係はよろしく」

「…意外とちゃっかりしてるッスね」


 もっともらしい口調でそう言えば、アッグは苦笑する。が、その表情は格段嫌がっているふうでも無かった。まるで子供のわがままを聞き入れる甘い親のような、そんな表情をしていた。





 そうして歩いていくこと数日。日も暮れ、そろそろ町も見えるかという辺りで、私はそれ(・・)を見つけた。近付いてよく見ると、何故か真っ赤な傘を背負った、人族の青年がうつぶせに倒れていた。一旦仰向けにして声を掛ける。が、まともな返事は返ってこない。辛うじて苦しそうなうめき声を上げるばかりだ。体も熱く、そのために顔は紅潮していた。これは相当大変な状況ではないだろうか。私は魔法で氷の塊を出し、それをタオルに来るんで青年の首元に巻いた。今この場ではこうして冷やす以外の応急処置はできない。


「アッグ、この人を担いで町まで走れる?」

「わ、分かったッス」


 彼にもことの深刻さは分かっていたようで、軽々と青年を担いで走り出した。私はそれを追いながら、彼に倍速の魔法を掛けた。町まではあと少し。このスピードで走ればどうにか助けられるかも知れない――

 私達は必死に町に駆け込んだ。

 真っ昼間に砂漠を歩くのは自殺行為ですよ、という事が書きたかったんです。

水は限られているのに、動くと汗としてどんどん失われてしまいますから。


そして、次回から展開が変わる…?

どうぞこれからもお楽しみください

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ