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マイペース☆ファンタジー  作者: 風白狼
3章 熱帯の国アレスキア
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12.狩り場に潜む強敵

 村の人に方向を聞き、私は駆けだした。後からアッグも追ってくる。場所はすぐに分かった。魔物と思しき者の雄叫びが聞こえたのだ。息が切れていたが、ますますペースを上げて走る。特に苦しいとは思わなかった。ただ、助けなくちゃと思うだけで――



 そうこうするうち、前方に探していた影を認めた。仁王立ちする巨大な魔物と、その前を右往左往している数人の子供達。あのケトと呼ばれていた少年と、彼の傍にいた子供達だ。立ち向かわず、逃げようとはしているのだが、なかなかその間合いが取れずにいるらしい。と、魔物の腕の辺りに光が集まりだした。それは膨大な熱を放ち始める。そして腕を振りかぶり、火炎玉が少年に襲いかかる。私はあらかじめ溜めていた魔力をその少年の前に放った。それは水の壁となり、彼の代わりに火炎を受ける。即席の壁は、しかし火炎玉と共に湯気となって消えた。だが、それだけで十分だった。盾はそれ自身が壊れても、相手の攻撃をこちらに届けさせなければいい。その一瞬の間で、私は少年と魔物の間に体を滑らせた。


「走って! 村まで行って!」


 私は魔物と対峙したまま叫んだ。それを聞き、少年達は一目散に逃げる。ただ一人、ケトだけは残っていた。


「ばっかじゃねーの? あんなヤツ倒せる訳無いだろ!」

「いいからさっさと行くの! あんた達が逃げる時間稼ぎくらいはできるから!」


 言いながらも、私は魔物の攻撃に水魔法で応戦した。相反する攻撃は、再び湯気となって消える。その中に紛れて、敵は一気に距離を詰めてくる。私は剣を構え、突きを繰り出した。相手もそれを察したのか、後方に跳躍してかわす。ちらりと後ろを見れば、少年はこちらに背を向けて走り出していた。

 これでいい。私は剣を構え直した。正直なところ、彼らを逃がす所までしか考えていなかった。倒す事ができればいいのだが――

 私は対峙する相手を観察した。一言で言うならば、巨人だろうか。大人の2倍以上はあろうかという巨体と、頑丈に引き締まった筋肉。先ほど火炎玉を繰り出した腕も、がっしりとした印象を受ける。そして、特徴的なのは太く短いくちばしを持った、トリ頭だということだ。猫のような細長い尻尾が余計アンバランスに思えてくる。だが何より、こいつは強いと直観していた。ほんの少ししか攻防戦を繰り広げていないとは言え、傷一つない肉体がそれを物語っている。これはきっと、ゲームでは町の人から情報を得て弱点を知るなり、攻略本で行動パターンと対処法を把握しておかないと何もできずに殺される感じの敵だ。できれば少しでも情報を集めておきたかったが、今となってはどうしようもない。まして、ここはゲームではないから“攻略本”なる便利なものがあるはずがない。やはり、適当なタイミングでひとまず逃げるしかないだろう。

 私は魔力を集め、風魔法を放った。魔力による風は砂塵を巻き上げ、トリ男に襲いかかる。よろけた隙に、一気に駆けだした。だが、直後に火炎玉が飛んでくる。私は咄嗟に横に跳躍し、それをよける。熱気が頬をかすり、周りの草をいくらか焦がした。振り向けば、魔物はまた腕にエネルギーを集めていた。それに対応できるよう、私もすぐに魔力を収束する。奇妙なことに、すぐには撃ってこなかった。腕の光が徐々に熱気を帯びてくる。私は走り、間合いを取った。振りかぶった腕が炎を放つ。私は溜めていた魔力を放出し、水の壁を作った。またも衝突。視界が白くなる。私は自分から間合いを詰めた。そのまま細身の剣を突き出す。もう少しで切っ先が届く――そう思った時。

 突如、くちばしが開いた。と、凍てつく息吹が全身を襲う。肌を貫くような冷気に、私の足が止まる。周りの水の粒までもが氷のつぶてとなって体に当たる。熱帯であるため防寒対策なんてしていないから余計に厳しい。

 予想外だった。第二波を撃つまでに時間がかかると見越し、その隙に間合いを詰めたが、まだ手札を残していたとは。というか、炎を放ったんだから攻撃が全部炎系だとか、そういう常識は通用しないのか。

 などと考えている間に、敵が迫る。まずい。冷気のせいで体が思うように動かない。ここままでは無防備なまま敵の拳を受けることになる――


「デュライア!」


 声と共に、重い斬撃の音が響いた。不意を突かれ、魔物は耳障りな奇声を上げる。視界の端に鎧を着けた赤い人物が映る。鱗が夕陽を反射していた。


「アッグ!」

「遅くなったッス」


 そう言う彼の息はいくらか上がっていた。鎧と斧を装備した状態で走るのはやはり簡単なことではないのだろう。心強い仲間の登場に、私は安堵した。が、巨人が上体を起こし、無傷な方の腕を振り上げるのが見える。


「――ッ! 危ない!」


 私が叫んだのと、振り上げた腕が直撃したのはほぼ同時だった。斧で防いだが勢いを押さえきれず、アッグは左後方に吹き飛ばされた。そのまま地面に叩きつけられ、土煙が上がる。駆け寄ろうとしたが、すぐ傍まで太い腕が迫っていた。剣で受け流しつつ、後ろに跳んでそれをかわす。こいつ、見かけに反して動きが素早い。右肩から腹にかけてアッグによる切り傷があったが、こちらを逃がす気は微塵もないらしい。魔物の双眸は怒りを帯びていた。

 私は剣を構え、大きく息を吐いた。厄介なのは腕からの火炎攻撃と口からの冷気攻撃。おかげで私の剣は届いていない。ならば遠方からの魔法攻撃だ。防御しながらではなかなか大変だが、この状況では仕方ない。飛んできた火炎玉を横っ飛びによけ、ブレス攻撃の射程範囲に入らぬよう距離を保ちながら魔法を唱える。


『清浄なる光よ、悪しき魂を打ち砕け!』


 詠唱を完了すると、魔物の周囲に光の玉が現れた。刹那、目もくらむような光が魔物を包み込んだ。次々と光の玉が現れては魔物に直撃する。やがて、辺りを静寂が包んだ。周りもようやく元の夕闇に戻っていく。が、私は目の前の光景に愕然とした。

 煙の中にゆらりとそびえる巨大な影。筋骨隆々の肉体にはほとんど傷がない。魔物は空を見上げて雄叫びを上げた。大気がびりびりと震えるのが分かる。効いていない。そもそも魔法攻撃に耐性があるのか、あるいは光属性がダメだったのか。いずれにしろ、先ほどの攻撃がほとんど意味を成していないのは明白だった。押し寄せてきた恐怖に足が震える。その所為で、相手の攻撃に気付くのが遅れた。眼前に迫る炎をかわそうとしたが、既に手遅れだった。真っ赤に燃えさかる業火が体を包む。体を焼く炎は熱いというより、痛い。すぐさま消火したが、体中が痛む。好機と見たのか、魔物は突撃してきた。私も無我夢中で突っ込んだ。何も考えられぬまま、敵の攻撃を剣で捌いていく。懐に飛び込み、剣を突き出した。切っ先は今にも敵の心臓を捉えんとしていた。が、あと少し踏み込みが足りない。


「――ッ! 届け!!」


 願いが届いたのか、声に呼応するように剣が伸びた。私は無意識のうちに剣に巨大化の魔法をかけていたのだ。細身の剣が魔物に突き刺さる。それはまっすぐに敵の心の蔵を貫いた。魔物は声にならぬうめき声を上げる。私は更に踏み込み、傷に深く突き刺す。剣を引き抜くと、魔物は膝から崩れ落ちた。その肉体は霧散していき、やがて紫水晶のごとき魔石へと変化した。

 そこで私は我に返った。辺りを見回し、動く影を認める。


「アッグ!」

「俺は大丈夫ッス、デュライア」


 倒れていた彼はゆっくりと起き上がる。ダメージは少ないようだが、鎧はわずかに歪んでいた。彼の姿を見て、私は安堵した。大きな口で見せる笑顔が眩しい。


「おーい、大丈夫かー?」


 遠くから呼びかける声が聞こえた。声のする方を見ると、村の男達が走ってくるところだった。大丈夫と叫び返そうとして、視界ががくんと上にずれた。いや、世界が上にずれたのではない。これは――

 慌てて駆け寄る彼らの姿が徐々に闇の向こうに消えていく。その闇の導くままに、私は意識を手放した。

魔物討伐完了ですね。

しかし、強敵は描写が難しいです…。ここまで長い戦闘シーンを描いたのは初めてかも? ちなみにこの敵、イメージしたのはFF10のキマイラです。とは言っても色々変えていますが…

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