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マイペース☆ファンタジー  作者: 風白狼
3章 熱帯の国アレスキア
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11.苛立つ少年

 アーサルさんに案内されて、私とアッグはタームの村に着いた。木を組んで造られた、高床の家々がまばらに集まっている。村人達は数人広場に集まっていたが、こちらの姿を認めるやいなや嬉しそうに駆け寄った。虎族の狩人アーサルさんも、捕らえた獲物を彼らに見せる。おお、と歓声が上がった。更に数人が広場にやってきて、どのように分配するかなどを話し合っていた。

 私はアーサルさんに促され、周りの家々よりもいくらか大きな建物に通された。そこは生活のためと言うよりもむしろ、人の集まる憩いの場という印象を受ける。言うなれば村の公民館というところだろうか。床には綺麗にござが敷かれ、壁には毛皮や角が飾られている。中には歴戦の戦士の持ち物だったのだろうか、手入れされてはいるが使い込まれた武器なども飾ってあった。

 そんな建物に村の人々が入ってくる。虎族の男性は大きな机を出し、獅子族の女性は食事の準備を始める。客人だから当たり前なのだろうが、準備を手伝わないのは何となく落ち着かない。しかし彼らに待っているように言われ、私は座って眺めるだけであった。


「宴ッスか? 楽しみッス」


 待ちきれないらしく、アッグは尻尾をパタパタと動かしている。私もつられて軽く微笑んだ。


「こいつが旅人だって?」


 舌打ちと共に、不機嫌そうな声が聞こえた。見れば、少し離れたところで数人の少年がこちらを見ている。なかでもまだ未熟ながら立派な体格をした虎族の少年はさげすむようにこちらを見ていた。


「初めまして、満月(デュライア)と言います」


 私は舌打ちなど聞こえなかったかのように明るく挨拶した。微笑むと、今度は聞こえるように舌打ちしてきた。そのままずかずかとこちらに歩み寄る。金色に輝く瞳が私をじろじろと見回した。


「ふ~ん、こんな奴がヒトネを倒したってか? はん、だったらオレだって旅人になれるよ」


 少年の言葉に合わせて、他の少年も冷やかすように嗤った。虎族の少年は相も変わらず私を見下ろしている。ガタン、と隣で立ち上がる音がした。


「デュライアは強いッス! 何も知らないのに悪口言うのはやめるッス!」


 アッグが勢いに任せて怒鳴る。彼は本人曰く小柄な方だが、リザード族特有のごつごつした顔は怒りを帯びて凄みを増した。その剣幕に、少年はたじろいだ。が、すぐに挑発的な目つきになる。


「おい、リザード。オレはこれでもあんたには敬意を払ってたんだけどなあ!」


 お互いが喧嘩腰になり、まさしく一触即発だ。このままではどちらかが手をあげかねない。


「いいよ、アッグ。ほら、座って」


 私ができるだけ穏やかにそう言えば、彼は目を見開いて私を見つめた。その表情で、大体何を考えているのか分かる。


「デュライアは悔しくないッスか!?」

「あまり問題起こさないで」


 彼の質問には答えずに、私はただ笑いかけた。そう言われて返す言葉が無いのか、アッグは渋々と座り込んだ。本当の事を言えば、馬鹿にされたことは悔しい。でも、この少年のようなタイプの人間は張り合ったところで何の解決ももたらさないのだ。言葉で返しても信用されないだろうし、暴力に訴えるのはもってのほかだ。今は相手をせず、機会のある時に見返してやるしかないだろう。


「ふん、ビビって反論もできないか?」


 少年は勝ち誇ったように言う。私はそんな彼を見つめた。


「ケト! 客人に失礼だろう!」

「親父…!」


 怒声が響いて、誰もが声の主を振り返った。ケトと呼ばれた先ほどの少年は、大股で歩くその人物の登場にあっという間に逃げ腰になる。虎族の男性――アーサルさんは問答無用で少年の頭を押さえつけた。そのまま頭を下げさせる。


「すまない、こんな息子で。ケト、お前も謝れ」


 叱られてもなお彼は舌打ちして反抗していたが、やがて嫌々ながらも謝罪の言葉を述べた。といっても自分が悪いなどとは微塵にも思っていないだろうが。私は笑顔で気にしなくていいと答えた。





 日がいくらか傾き始め、子供達は家に帰して、何人かの大人だけが村に来た旅人をもてなす宴に出席した。きっと、子供心には大人だけずるいという印象を受けただろう。それだけ昼間の剣呑な雰囲気が嘘のように賑やかだったのだ。

 料理というのはその町の土地柄を反映するものなのだろう。ひときわ存在感を放っているのは、肉を厚切りにしてスパイスをまぶしただけのシンプルなモノ。しかし、その大きさ、厚さはともに目を見張るものがある。その豪快なステーキを頂こうとした、その時だった。



「大変だ! 子供達が――例の狩り場に!」


 誰かが勢いよく会場に飛び込み、そう叫んだ。穏やかな空気が一変し、辺りは困惑のどよめきで埋まる。私はすぐさま立ち上がり、建物を飛び出した。

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