9.芸術の街
私は例の置物と同じように、スラムで買った物をクロウディの街の人に見てもらった。時には対価として銀貨などを貰うこともあったが、結果的には大損だ。だが、私にはそんな事は問題ではなかった。提示した物の中には認められる物もあったが、取り合ってくれない品物もあった。成功したと思われるものは3分の2程度だろうか。必ずしもうまくいく企みではないと分かっていたが、結果には落胆した。私の存在はとてもちっぽけだったのだと、改めて思いしらされる。立派な噴水を長めながら、私は深くため息をついた。
「落ち込むことないッスよ、デュライア。元気出すッス」
アッグは私の肩を軽く叩いた。その声色はとても優しい。私に気を遣い、何とか慰めようとしてくれる彼を、私は直視できない。何だか自分が情けなかった。
「助けようと行動しただけでもすごいことッス! それに俺、デュライアがやったようなこと思いつかなかったッスから…」
顔を上げない私に、アッグはあれこれと言葉を紡ぐ。最初はすべて聞き流していたが、徐々にそれが耳の中に入ってくる。聞いているうちに、何だか可笑しく思えてきた。私は顔を上げ、彼と向き合う。
「ありがと、アッグ」
微笑もうとしたが、きっと上手く笑えていないだろう。赤い鱗の彼は、何だか慌てているように見える。
「そ、そうッス! 確かこの街に料理の美味しい街があるって聞いた事があるッス。言ってみないッスか?」
気付けば、日は既に南中よりいくらか西に傾いている。どうやら奔走している間に昼食を取り損ねたようだ。せき立てるようなアッグに促され、私は重い腰を上げた。
この街にとっては料理も芸術品なのだろうか。最初に見た時の感想がそれだった。野菜も肉類もバランス良く配置され、ソースが美しいコントラストをなしている。もちろんすごいのは見た目だけではない。野菜は歯ごたえがしっかりしているし、肉汁の滴るステーキは深みのあるソースに包まれている。一口ごとに幸せが満ちていく。やっぱり、美味しいものは偉大だ。ここに来ることを提案したアッグ自身も嬉しそうに食事を堪能している。
「そう言えば、次はどこに行くッスか?」
アッグの問いに、私はいや、と答えた。
「まだ決めてないけど、行けるところに行こうかな~って」
私がそう言うと、アッグは急に笑い出した。どういうことかと眉をひそめる。アッグは笑いながら答えた。
「デュライアらしいッス」
彼の言葉に、私も思わず笑った。なぜだか分からないけれど。でも、心の底から笑えているように思った。
久々の更新となりました!
活動報告には受験結果も書いたのですが、興味のある方はどうぞ。
今回の話は短いですが、また気ままに書いていきますのでよろしくお願いします。




