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マイペース☆ファンタジー  作者: 風白狼
3章 熱帯の国アレスキア
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(6.)密林探索 (下)

 しばらくして、私達はまた獣道を歩き出した。相変わらず森の中は騒がしいが、その中に混じって低い、唸るような声が聞こえたような気がした。立ち止まって耳を澄ます。が、聞こえるのはやかましい鳥の鳴き声と、先を行く二人の足音だけ。近くにはいないと言うことなのだろうか。念のため剣の柄に手を掛けてまた歩く。先ほどよりも辺りに注意を払う。



 草がざわめく。何かが私の中を電流のように駆け抜ける。私は咄嗟にメルスさんの腕を引いた。刹那、異形の爪がまさにその場所に食い込んだ。メルスさんの顔が驚きで青ざめていく。現れたのは、確かに魔物だった。黄色くしなやかな胴体に黒い斑模様。強靱な四肢には鋭い爪。何より特徴的なのは、体の半分ほどまである長くて立派な髭。悠然としたその姿は美しくも見えた。だが、その双眸には獲物を殺さんとする狂気だった光しかない。

 私はメルスさんを後ろに下げた。危険は他にもあるかも知れないが、今はそうするしかない。剣を抜き、魔力を集めながら構える。先にアッグが動いた。重たげな斧が振り下ろされる。大振りな攻撃は、身軽な敵にはなかなか届かない。加えて、この密林という状況がアッグの動きをより遅くしていた。が、ひらりとかわした着地の瞬間を見逃さす、私は突進。細い剣を魔物に突き立てる。同時に魔法を展開。見えない刃が次々と敵の体を切り裂き、毛並みが赤く染まる。

 突如、獣が吠えた。びりびりと空気が震える。同時に、私の周りに光が出現。よける間もなくそれは収束し、直撃を受ける。痛みに耐えかね、思わず膝をついてしまった。だがその際に隙が生じたらしく、アッグの斧が魔物を両断した。悲鳴をあげ、魔物は崩れ落ちて絶命した。荒い息づかいのままそれを見やる。横たわった死体は茂みに沈んだまま動かない。


「デュライア、大丈夫ッスか?」


 アッグがこちらに駆け寄ってきた。鱗に覆われた顔だが、心配しているのが分かる。


「うん、私は大丈――うあっ」


 言いかけて、激痛が体を走り、私はまた膝をついた。しびれているのか体が重い。どうやら先ほど妙な技を使われたらしい。集中して魔法も使えない。


「本当に大丈夫ッスか?」

「ふむ、先ほどのクアールが使った技の所為(せい)でしょうな」


 メルスさんの手のひらが背中に優しく触れる。少しだけ呼吸が落ち着いた気がした。背後でなにやらごそごそと音がする。


「さあ、この薬を飲みなさい」


 そう言って、メルスさんが液状の薬を取り出した。青色に光って何となく毒々しい。ためらっていると(というか体が動かなかったのもあるが)、メルスさんに口に青色の薬を流し込まれる。うまく喉を通ったが、同時に口の中に形容できないほどの苦みが広がる。ゴーヤだとかコーヒーだとか苦い食べ物はあるが、そういうのはまだ美味しいと言えなくもない。が、今飲まされたモノはそれらとは次元が違った。良薬口に苦し、の言葉でも済まされないほどだ。多分、前世も含めて私が今までに飲んだ薬よりも苦いと思う。私はいつの間にか涙目になっていた。


「デュライア!? まさか毒ッスか?」


 アッグの焦る声が聞こえる。対してメルスさんは落ち着いていた。


「とんでもない、私が持つ中でも万能の薬ですよ。ただ、ちょっとばかり苦みが強いのが難点でして」


 ちょっとどころじゃなかったよ、と私は心の中でツッコミを入れた。しかしその分効果も絶大で、いつの間にか私の体は元通り私の意思の下にあった。



 そんなこんながあって、私達は小さな宿場町でメルスさんと別れた。何か知らないけど、依頼は次の町まで、という事になっていたらしい。まあ、途中で襲われて命を落としでもしたら意味がないけどさ。で、町の宿で休んでいる私が今していることは――


「どうしてデュライアは危機感ないんスか!」


 ――アッグに説教されていた。ってか、どうしてこうなった。よくは分からないが、とりあえず私がメルスさんに薬を飲まされたことらへんが気にくわないらしい。しかし、いまいち何に怒っているのか理解できず、説教されながらも首を傾げている次第である。異性に対して警戒心がないだとか、年頃をわきまえろだとか、そういう事を口早にまくし立てられた。…後者はちょっと無理な要求だと思うけど。しばらくそうやっていたのだが、ふと頭の中をよぎるものがあった。


「もしかしてアッグ、妬いてるの?」

「なっ!?」


 何となくだが、アッグの口ぶりは心配していると言うよりもむしろ嫉妬に近いものに思えたのだ。とはいえ、嫉妬される理由はまだ分からないのだが。私が問うと、アッグは急に声を上ずらせた。


「な、なな何言ってるんスか! 俺が妬くわけないッス!」


 言葉の上では否定しているが、それにしては焦った声だ。その態度は肯定と同じなんじゃないかと思う。それが証拠に、赤い尻尾は慌ただしく左右に揺れている。でも、つまりそれは私のことを心配してくれている訳で。そう思うと、いつの間にか頬がほころんでいた。そして、私は元々赤い顔のアッグに笑いかけたのだった。

 満月(デュライア)だって万能じゃありません。たまにはこういうミスもあります。クアールの使った技は某ゲームを参照しました。



 ちなみに、作者が今までに服用した薬の中で一番不味かったのは喘息の薬です。まだ私も幼かったので粉薬でしか飲めず、水を飲む事すらトラウマになりましたw その後私も成長して錠剤を飲めるようになったので、そういう事は無くなりましたが…

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