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マイペース☆ファンタジー  作者: 風白狼
3章 熱帯の国アレスキア
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6.密林探索 (上)

 港町を出た私達は、また街道に沿って歩いた。途中で魔物に出くわしたりしたが、どうにか切り抜ける。それくらいには私もアッグも慣れてしまっていた。いい意味でも悪い意味でも、熱帯雨林というものは動植物が多いのだ。

 ふと顔を上げると、休憩所に誰か佇んでいた。黄金色の毛並みが美しく、耳はピンと立っている。顔はすっきりと細い。ズボンからは先だけ白くなったふさふさの尻尾が生えている。そして傍らにはその人の持ち物であろう、大きな箱が置かれていた。


「こんにちは。座ってもよろしいでしょうか?」


 ちょうど休憩を挟みたいと思っていた所だったので、私はその人に一声掛けてから中に入る。日差しが来ないだけでもいくらか涼しい。私達が腰掛けると、その人はこちらを見て微笑んだ。


「おや、こんにちは。旅の方ですかな?」


 後ろ姿では分からなかったが、彼は狐族の男性であった。


「はい、私は旅人の満月(デュライア)といいます。よろしく」

「同じく、アッグッス」

「私はメルスと言います。こちらこそよろしく」


 私達はお互いに挨拶を交わした。メルスさんが着ていたのは粗く編まれた上着にゆるめのズボン。決して贅沢な格好ではない。また武器という武器は見当たらず、せいぜい生活用の小さな杖を持っているくらいだ。口ぶりといい、この人は旅人ではないのだろうか。


「メルスさんは何をしてらっしゃる方なんですか?」


 私が尋ねると、彼は少しだけ目を見開いた。


「私ですか? 私はただの薬売りですよ」


 そう言って、メルスさんはそばに置いていた箱の蓋を少しだけ開けた。中からは独特の香りが漂う。彼が持っていたのは薬箱だったらしい。


「ところで、デュライアさんとアッグさん…でしたかな? 急いでいるのでなければ私のお願いを聞いていただけますか?」


 私が薬箱を見ていると、メルスさんが話しかけてきた。黒い瞳がこちらを見つめる。


「お願い…ですか?」

「ええ。実はこの辺りの森には薬草が多く生息していまして。ですが、その分動物や魔物も多いのです。旅人でしたら、護衛も可能でしょう? ああ、もちろんお礼は致しますので」


 メルスさんは金色(こんじき)の頭を下げた。なるほど、薬を売ることを生業としているなら、薬草の多い場所というのは魅力的だろう。そしてまた、魔物退治に秀でた旅人を用心棒として雇おうというのも自然だと言える。お礼をすると言っている辺り、この人は服装の割には裕福なのかも知れない。


「わかりました。こちらも特に急いでいないので、お受けしましょう」


 そんな訳で、私達は薬草探しを手伝うことになったのだ。






 うっそうと生い茂る樹海をかき分ける。アッグが先頭を行き、メルスさんを挟んで私がしんがりを務めていた。道という道はなく、足下はほとんどが茂みで覆われていた。たまに足下がぬかるんでいたりするからなお悪い。また、時には絡まる蔓を切りながら進まねばならない時もあった。


「おっと、少々お待ち下さいな」


 ふいにメルスさんが立ち止まった。彼が見ているところには、樹木に絡まるつる性植物に苺くらいの赤い実がなっている。


「何ッスか、それ?」

「これはフィラといいましてな、薬ではないのですが食べることができます。どうです、お一つ?」


 そう言って、丸い実を差し出される。表面はトマトのようにつるつるしていて、実が詰まっているのか見た目よりも重い。匂いを嗅いでみるが、甘いのか酸っぱいのかよく分からなかった。ちらりとアッグを盗み見ると、大きな口に入れてしまっていつの間にかおかわりをもらっていた。とりあえず毒ではなさそうだ。まあ、こんなところで毒なんか出される意味は無いだろうが。私は一口かじってみた。だが、すぐに後悔した。


(から)っ!?」


 噛み砕く度に唐辛子のように口の中を刺激し、わさびのようにつん、と鼻を抜ける。しばらく咳き込んでも、その燃えるような辛さは消えそうにない。


「おや、辛いものは苦手でしたかな?」


 辛さに苦しむ私を見て、メルスさんは笑っていた。そんなに可笑しかっただろうか。確かに私はどちらかと言えば辛いのは得意ではないが、多分このフィラという実はそれでは済まされないような辛さだと思う。というか、まさか辛いだなんて思ってなかったから不意打ちだ。うん、異世界ってそういう意味で恐ろしい。だが、見ている限りアッグもメルスさんも平気そうに食べている。何でだろう…


「デュライア、食べないんスか? 美味いッスよ?」


 一口かじっただけでそれ以上食べようとしない私を不思議に思ったのか、アッグがのぞき込んでくる。てか、これはもう食べたくない。


「……私の食べかけでいいならあげるよ?」

「マジッスか!? もらうッス!」


 言うが早いか、アッグは私の手からフィラの実を奪うように取った。どうやらそうとうお気に召したらしい。私は水を飲んでまだ残る辛さと格闘していた。

 元々は一つの話ですが、長くなったので二部構成です。


 今回は異世界で知らないものを食べるとこうなるよ、と…

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