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マイペース☆ファンタジー  作者: 風白狼
3章 熱帯の国アレスキア
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3.旅人への依頼

「お姉ちゃん、すごい!」


 魔物を倒し、剣と魔石を拾い上げた私に、子供達がわっと駆け寄った。どの子も目をきらきらと輝かせている。


「かっこよかった!」

「すっごく強いんだね!」


 自分の周りではしゃぐ子供達に、私は曖昧に笑った。いや、子供達でなく、周りにもいつの間にか人だかりができて騒がしくなっていた。落雷の音が近くでしたから、野次馬が集まって当然か。とはいえ既に魔物の姿は無いから、何があったのかを推し量るのは難しそうだ。


「な、何があったッスか、デュライア?」


 人混みをかき分け、赤い鱗のアッグが駆け寄ってくる。その顔には困惑が浮かんでいる。


「いや、魔物を退治しただけだよ。ただ、ちょっと派手にやり過ぎちゃった」


 私はアッグに肩をすくめてみせた。本音を言うと、せっかくだから某ゲームみたいなかっこいい技を決めてみようかと。まあ、あれは二人でのコンビネーション技なんだけど。アッグはそんな私の答えにちょっと呆れていた。そうこうしていると、人だかりの中から牛族の男性が近づいて来た。


「もし、旅のお方。腕に覚えがあるようですな?」

「え? ええ、まあ、多少は…」


 突然のことに、私は軽く会釈をしながら答えた。アッグには謙遜しすぎッスと言われてしまったが、私は自己主張が苦手なのだから仕方ない。男の人は深刻そうな顔つきになって言う。


「実は最近、急にキャツシーが現れまして、漁船を見つけると襲いかかり、魚を捕っても奴らに食べられてしまうんです。お願いします、奴らを退治してください」


 キャツシーというのは、白い海鳥の姿をした魔物だという。被害状況といい、私はカモメのようだと勝手に想像した。


「なるほど、分かりました。私で良ければお手伝いしましょう」


 私が承諾すると、何故かお祭りムードで町の人達に引っ張られてしまった。こういう世界って、魔物退治に当てる人手が足りないんだろうか。見ず知らずの、信頼できるかも分からない旅人に対する振る舞いには到底思えない。いや、それだけ“旅人”という存在がこの世界において信用に値するものなのかな。私は町の人の雰囲気にのみ込まれそうになりながらも、できるだけ詳しい情報を聞き出すことに集中した。




 翌日の早朝。『キャツシー掃討作戦』という大袈裟な名前でそれは始まった。

 内容はこうだ。毎朝の漁の際、私達も船に乗り込む。引き揚げた魚を狙ってキャツシーが襲ってくるはずなので、そこを一網打尽にしようというのだ。漁船を襲う際はかなりの数だそうで、それを全滅させてしまえばしばらくは安泰だろうという考えだ。

 時刻は、ようやく辺りに陽の光が差し込もうとしている頃だった。相手の顔もほとんど見えない暗闇を、私とアッグ、そして協力してくれる漁師さんが進む。魔法ランプの明かりを頼りに、船に乗り込んだ。船は寝静まった洋上を滑るように進む。明け方と言うこともあってか、風が吹き付ける甲板は少し肌寒い。元々寒がりな私は風のあまり当たらない船内で待機していた。

 漁場が近付くにつれ、視界が光を取り戻して広がっていく。これくらいであれば、恐らく鳥目のキャツシー達も来るだろうか。やがて仕掛けを施したという目印が見えてくる。


 だが、既に先客がいた。例の魔物達が、魚を引き揚げるのを今か今かと待ち構えていたのだ。私はすぐさま剣を抜き、甲板に躍り出た。刹那、溜めていた魔力に意思を与えて放つ。稲妻が浮きの上で佇んでいた白い鳥を捕らえた。驚いて飛び上がる彼らに、容赦なく雷を打ち込む。……別に雷魔法である必要は無いと思うんだけど、なんか、飛んでるモンスターって雷を当てたい。いやなんとなく。とはいえ、予想よりもそれは効果的で、白い鳥はあっけなく落ちていった。

 私の先手をきっかけに、どこからか大量のキャツシー達が襲いかかってきた。とりあえず漁師さん達を船内に下げ、アッグと私は迎え撃たんと構えた。私は再び魔力を集めると、辺りの空中に拡散。意思を持ったそれらは風を纏い、乱気流となって鳥たちを襲う。キャツシーは突然の風の変わりように対応しきれなかったのか、次々とバランスを崩していく。彼らの自由を私の風の中に捕らえたところで、刃の意思を加える。風の刃はいとも簡単に魔物達を切り裂き、魔石がばらばらと振ってきた。


「デュライア、俺はどうすればいいッスか?」


 アッグが、どこか呆れたように尋ねる。魔法も使えず、かつ遠距離武器でない彼が空を自在に飛ぶこの敵を倒すのは難しい。


「とりあえず、一匹も漁師さん達に近付けないように守ってて!」

「了解ッス!」


 私はアッグに叫び返した。いくら私が魔法を使い、敵軍勢のほとんどを壊滅させられるとしても、一人ではやはり不安な面があるのだ。よほど接近されれば逆にアッグにも対応が可能だろう。そういう意味では彼がいることが心強い。私はまた、迫り来る軍勢に魔法を放った。





 戦闘開始からどれほど時間が経っただろうか。かなりの数を落としたはずだが、依然敵の数は衰える気配がない。それどころか、増えている気さえする。


「ちっ、どっから湧いてきてんだよ…」


 何度目か分からない悪態をつきながら、私は剣を振るった。ん? 湧いてる…?

 私は空を見上げた。既に太陽は昇っていたが、魔物の影にかなり遮られている。明らかに、はじめよりも数が増していた。これほどの敵を相手にするだけの魔力を集めるには、時間がかかりすぎてしまうだろう。

 ……仕方ないか。私は船の屋根の上に飛び乗ると、カバンからちょうどいい大きさの魔石を取り出す。本当はもっと別の時に使いたいところだけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない。

 私は紫色に光る石に秘められた力を解放した。膨大な魔力を剣に収束し、空に放つ。眩いばかりの光を放ったかと思うと、そこに巨大なドラゴンが出現。実際にドラゴンが現れた訳ではなく、それっぽい幻を見せているだけだが。キャツシーはドラゴンの姿に慌てふためいているようだった。ついでに、ドラゴンの攻撃に見せかけて魔法攻撃を放つ。魔物といえども、恐怖の感情は持つらしい。戦意をなくし、集まっていたはずの彼らは飛び去っていった。予想通り、全てが同じ方角に向かって。



 私は甲板に降りた。着地はしたが、足下がふらついて膝をついてしまう。


「だ、大丈夫ッスか、デュライア?」

「大丈夫……ただ、魔法を、使いすぎた…みたい」


 慌てて駆け寄るアッグを、私は荒い息づかいで制止した。呼吸を整えながら立ち上がる。大気に魔力が満ちているこの世界では、魔法をいくら使ったとしても魔力の枯渇は起こりえない。けれど、魔法を使う際に少なからず精神力を必要としてしまうのだ。長期戦で魔法の連射は望ましくないな。私はふらつきながらそう思った。



 空は昼の明るさになっていた。キャツシーを退けたことを確認し、漁師さん達が駆け寄ってくる。どの顔も喜びが満ちあふれていた。


「いよっしゃ! 撃退だ~!」

「ありがとよ! これでまた安心できるぜ!」

「帰ったら早速宴の準備だな!」


 獣人達の喜びの声を、私は遠巻きに見つめていた。


「いい気なもんだね…。まだ終わっちゃいないのにさ」

「…? どういう意味ッスか、それ?」


 同じように勝利に浮かれたアッグが、怪訝な表情でのぞき込んでくる。私は曖昧に笑った。


「アッグは鈍いねぇ~」

「???」


 私がため息混じりにそういうと、赤い鱗の顔は横に傾いた。それは私に答えを求めているように見える。私は甲板から海を臨んだ。


「まあまずは、陸地に着いてから、かな」

「教えてくれてもいいじゃないッスか~~!」


 アッグが不満そうに叫んだが、私は気にせず、ただ笑った。

 今回は派手に戦闘させてみました。しかし、戦闘描写がまだまだ未熟だなあ…


 ちなみに某RPGには、「ひらいしん」という名前の二人技があり、一人が敵一体に剣をさし、そこにもう一人がそこに雷魔法を打ち込む、という技があります。エフェクトがかっこいいので描写してみました。

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