1.私ってやっぱり変なの?
ピオッシアを出た私達は、街道をひたすらと歩いていた。街道と言っても、そこは熱帯雨林に溝を入れたような感じだ。木々は高くそびえ、密集していて奥の方まではなかなか見渡せない。草藪の中を突っ切って行くよりはいくらかマシだとは思うが、それでも完全に安全だとは言えないのもまた事実であった。
気配を感じ、立ち止まる。今まさに進もうとしていた場所に、異形の怪物が現れた。キメラというか、合成獣っぽい。しかし、魔物はそれだけではなかった。歩行能力を得た植物も、何体か襲いかからんとしている。私は剣を抜き、向かってきたキメラの鋭い爪を受け流した。バランスを崩した異形の獣に、アッグがすかさず斧を振るう。重たい刃のフルスイングはあっという間に怪物を両断した。ついでに、植物みたいな魔物も甲高い断末魔を上げた。しかし、攻撃を受けなかった輩がアッグに群がる。私は剣に集めていた魔力に意思を宿し、そいつらに向かって放つ。その周囲に急激に熱気が発生したかと思うと、植物の魔物はあっという間に灼熱の炎に沈み込んだ。あとに残ったのは、燃えかすではなく紫色に輝く魔石だけ。元々魔力が凝縮した実体のない存在だから、燃えかすなんて残らないんだろうな。そんなことを考えながら、私は魔石を拾い上げた。といっても相手が雑魚だったから、はっきり言って大きさもショボい。
振り向くと、引きつった顔のアッグと目が合った。
「デュライアって……ホント何者ッスか?」
「え?」
私は私だと思うけどなあ、と首を傾げていると、アッグは声を荒げた。
「だって今、魔物が魔石になっちゃったッスよ!? あり得ないッス!!」
あ、今目の前で起こったことを“あり得ない”って言っちゃったよ。私にとってはこれが普通だったんだけどなあ。
「そうなの? 私、そういうのあんまり分かんないんだけど…」
「何言ってるんスか! 魔物が魔石になるなんて、聞いた事もないッス!」
アッグの声は、本当に慌てていた。けれど、やっぱり私には自分が変だという実感がない。だって、この世界の常識を知らなさすぎるし、何より自分=普通と考えてしまうのが人間の常というものであろう。
「それさぁ、アッグの方が変なんじゃないの?」
「逆ッスよ! おかしいのはデュライアの方ッス!」
一応聞いてみたが、勢いよく否定されてしまった。しかし、考えてみればそうか。先ほどアッグがとどめを刺した魔物は、確かに魔石にならずに形を保っている。それに多くの人間が魔物を浄化できるんだったら、この純魔石が珍しくて高価であるはずがない。でも、そう考えると、私は一体何者なんだろう。とりあえず、常人ではないみたいなんだけど…。
私はキメラの遺体に近付いた。細くまっすぐな剣をそれに突き立てる。まるでガラスが粉々に割れるような音がすると、キメラの姿が消えて代わりに魔石が転がった。
「ほら、魔石になった」
改めてそれをアッグに見せつけると、彼は信じられないとばかりに首を振った。
「な、何でッスか…?」
「いや私に聞かれても」
私も、何故自分だけがそんな事ができるかなんて分からない。捨て子で親のことを知らないから、余計気になる。まあ、今ここで考えても仕方ないか。旅をしていけば何か分かるかも知れないから、私は私のやりたいように生きよう。
『そなたには特別な運命が待っているようじゃ』
ふとケルクさんの言葉を思い出して、私は慌てて首を振った。ないない。いくらちょっと他と違うからって、そこまで大げさな訳ないでしょ。私は脳裏に浮かんだ考えを封じるかのように、剣を鞘に収めた。
しかし、私は魔物を倒す際、無意識のうちに意思と魔力を切り離す超能力のような物を使っているらしい。しかも、それは珍しい力のようだ。旅の目的が増えちゃったなあなどと気楽に考えながら、私は街道を進んだ。
しばらくぶりの更新です。続きを待っていた方には本当に申し訳ありません。また不定期更新となってしまうと思いますが、どうか気長に見守ってやってください。
という訳で、ここで『魔物を浄化する』というのは満月だけの能力であることが発覚しました。伏線は引いたつもりなので、気付いた人もいらっしゃるかもしれませんね。
では、次回からもお楽しみください。




