10.旅は準備が大事
ほんのちょっと酒の入った体で宿に入る。夕食は食べてしまったので、食事は自分持ちでいい、安い宿に入った。アッグは強い酒を割とたくさん飲んでいたように思うが、普段との差異をあまり感じない。持ってきたばかりの荷物を整理している。私は何か違和感を感じた。この宿、今まで見てきた中で一番安い。なのに、ぼろいという感じはせず、むしろ清潔だ。すきま風も無ければ熱気がこもりすぎることもない。値段がピンキリなのにもほどがあるような…。
そんな事を考えていたせいか、酔いが覚めてしまったらしい。元々そんなに飲んでないけど。私は立ち上がり、風呂の用具を持って大浴場へと降りていった。……なんでだろう、さっきアッグが嬉しそうな顔をしていた気がする。
流れる温水が体にまとわりついた汗を落としていく。浴場は大きくはなかったが、その方がかえって落ち着く。茶髪に湯を通し、頭皮を指の腹で洗う。よほど汗をかいていたのか、やや時間がかかってしまった。水を切り、立ち上がる。が、ふと何かを感じて振り向いた。そこにあったのは洗う人に向かう鏡。いくら注視しても、自分の深緑色の瞳が見つめ返すだけだった。気のせいかと思い直し、湯船に浸かる。気付くと、私以外に若い人はここにいなかった。頭の中を疑問符が支配する。
今日は変だ。なんだか無性に落ち着かない。私は長く湯に浸かることができず、得体の知れぬ何かから逃げるように出てきてしまった。
翌日。私とアッグは武器屋の中にいた。私は使い慣れた剣で事足りるので、目的はアッグ用の武器だ。アッグはこれといって武器を持っていなかった。本人曰く、一応武器の扱いを習ったことはあるのだとか。街道であっても魔物が出るこの世界で、魔法も使えない彼が生き残るのに武器が必要なことは自明の理。そういう訳で、街の中の武器屋に立ち寄ったのだ。
そこはオーク族の双子が経営しているらしい。武器屋の隣で、一方が防具も扱っている。アッグは見本用に並べられた武器を手に取ったり眺めたりしていた。武器や防具は基本オーダーメイドだ。特にこの世界は体格の違う様々な種族が暮らしているから、人それぞれに合った武器防具をその都度作る方が楽なのだろう。かく言う私は特に意味もなく武器を眺めていた。剣や刀、槍や斧、ハンマーにメイスなど。見たことのある武器もあれば、そうでないものもあった。前世ではこんな風景ないのだし、元々こういうのが好きなので私は好奇心に駆られていた。こうなったらしばらくここで眺めててもいいと思う。
「決めたッス」
そうこうしていると、アッグが唐突に顔を上げた。手には、自分の選んだ得物――大振りな斧が握られている。斧は重いから、扱いが難しい武器だったような…。改めてそれでいいのかと問うと、アッグは力強く頷いた。
「じゃあ、これください」
私は店主に言った。でっぷりとした体格のその人は、商品とアッグの体格を確認して工房に入っていった。すぐにできるとは言っていたが、それでも暇になるだろう。私はまた見本を見比べようと視線を戻した。が、
「デュライア、俺、鎧も欲しいッス……」
アッグが言いにくそうに頼んできたのだ。鎧は武器よりも割高だった。私は軽装主義なので、丈夫に作られた服しか着ていない。重い鎧を着るとどうしても動きが鈍くなってしまうからだ。そもそも財布のひもを握っているのは私なので、ちょっと言いづらいところがあったのだろう。
「必要なら構わないよ?」
「ほ、ホントッスか!?」
私が首を縦に振ると、アッグは目を輝かせた。俊敏性を取るか防御を取るか。戦い方は人それぞれでいいと思う。アッグの場合武器が重い斧だから、素早さを取る必要はないのだろう。鎧で固める方が有利なんだろうな。私は鎧を見比べた。皮をなめしたレザーアーマー、厚い鉄板に覆われたプレートアーマー、鎖を編み込んだチェインメイルなど。それぞれ防ぎやすい攻撃が違う。まあ、リザード族は鱗が生えているから、鱗状に金属がつけられたスケイルアーマーである必要性は無いと思う。
案の定、アッグが選んだのはプレートアーマーだった。金属製で、大抵の攻撃なら跳ね返してしまいそうだ。双子のもう一方がアッグの採寸をし、鎧を作るために奥へ入っていった。待っている間、私はまた武器防具の見本を眺めるのだった。
RPGでは定番の、武器防具購入。
仲間が増えたり新しい街に着くとまずは品揃えを見ますよねw
そして、武器よりも鎧は高額だったりしてお金集めにくろうしたり…
この作品ではリアリティーを目指しているので、文献等を参考にしつつ武器や防具も書いています。
さて、冒頭の真相、分かった方はいますか?
後々明らかになると思うので、それまでお待ちくださいな




