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マイペース☆ファンタジー  作者: 風白狼
2章 大都会ピオッシア
19/89

8.落ちこぼれのリザード

 いつの間にか私は、“場違いな”所に来てしまったようだ。道ばたには色とりどりの美しい花が咲き誇り、道はタイルのきらびやかなモザイクアート。立ち並ぶ家々はどれも豪邸と呼べそうなほど大きく立派で、豪華な装飾が施されていた。道を行く人々はこぞって着飾り、上品な雰囲気を漂わせている。歩き方や話し方、それらが全て洗練されているように思われた。それは息苦しく、目がチカチカして落ち着かない。私は覚えず足を速めていた。






「何してるザマス! さっさと直すザマスよ!」

 ふいに、罵声が聞こえた。耳につくような、女性の甲高い声だ。気になってそちらを見やると、声の主は派手な羽の上からさらに豪華な服を着た鳥の人だった。いらだたしげにくちばしを鳴らす彼女の傍らに、黒いタキシードを着た狼顔の男性が控えている。彼らはある人を見ていた。彼らの所持物であろう、人力車が道ばたでやや傾いている。

 その車のそばで罵倒を浴びながらも作業をしているのは、やや小柄で赤い鱗を持ったリザード族。ここからでは男女の区別はつかない。よく見ると、人力車は車輪が歪んで外れている。それを、彼は手作業で(・・・・)直していた。工具で一生懸命ゆがみを修整している。何故魔法を使わないのだろう、という思いはすぐに打ち払った。先ほどぶつかってしまったリザード族の少年を思い出したのだ。


 あくまで推測だが、リザード族というのは魔法の扱いが苦手な種族なのではないだろうか。今車の車輪を直している彼も、上手く魔法を扱えないのかも知れない。恐らく、それをあの鳥形の女性は知っている。にも関わらず、大して手伝おうともせず、まるで魔法の使えない憐れな様を楽しんでいるようにも見えた。周りの人達も、甲高い罵声が聞こえていないかのように、あるいはその光景が見えていないかのように通り過ぎていく。私の心の中は悲しみの雨が降り注いで鋭くとがったように感じた。

 目を逸らしたかった。けれど、それではダメだと声がする。このまま見過ごせば、私はあそこで罵倒する彼らと同類なのだと――


 私は意を決し、剣を抜き放った。これが本当に助けになるのか分からない。しかし、先ほど人と積極的に関わろうと誓ったばかりではないか。私は細長い刀身に、大気の魔力を集める。剣を一振りして車輪に向け、意思を解き放つ。それは彼の手の中にあった車輪に宿り、見る間に形が整う。そして驚くリザード族の人の手をすり抜けると、ひとりでに人力車にくっついた。

 ほっと息をついたのもつかの間、鳥形の女性は声を張り上げた。

「…何をしたザマスか? まさか、他の者に頼んで魔法を使ったのザマス?」

 ヒステリックになり、鮮やかな翼(多分腕)を振り上げる。それを合図に、傍らにいたフェンリル族の男性が鞭を振るった。けたたましい音が響き、リザード族の男が苦痛の声を上げる。直ったというのに、なんて理不尽だろう。しかも口ぶりからして、やはり彼女は彼が魔法を使えない事を知っていたようだ。

「待ってください! この人は悪くないじゃないですか!」

 気付くと私は今にも鞭を振り下ろさんとしていた男の前に立ちはだかっていた。後ろでリザード族の人が息をのむ音が聞こえる。

「誰ザマスか?」

「魔法でこの馬車を直した者です。勝手な事をして申し訳ありませんでした」

 睨みをきかせる女性に対し、私は声のトーンを落として答える。もちろん、言葉だけで申し訳ないなどとは微塵も思ってない。鳥の女性はますますいきり立った。

「こんなクズを助けるなんてどういう神経をしてるザマスか!」

「――クズと知りつつ使役するあなたもよほどのクズ野郎だと思いますが?」

 いらだった私は無表情で皮肉を投げかけた。しまった、つい本音が。冷たく睨み返していると、私の言葉をしっかりと聞きつけた彼女が腕を振り上げた。構えていた男が鞭を振るう。鋭い音と共に、激痛が全身を走った。よける事もできた。しかし私は、敢えてそうしなかった。防ぐ事もしない私に、容赦なく鞭が叩きつけられる。痛みに耐えかね、とうとう私は膝をついた。女性はさげすむような目で私を見る。

「身の程を思い知るザマス」

 女性は踵を返すと車に乗り込もうとする。狼顔の男もそれに続き、慌てたようにリザード族の男性も立ち上がった。私は口の端を上げて笑った。肩で息をしながらも立ち上がり、人力車に手を掛けようとしていたリザード族の男を腕で制す。

「満足した?」

 まだ体中が痛い。が、私は不敵に笑って見せた。女性の顔が険しくなる。

「そこをどくザマス」

 睨まれたが、私は全く臆さなかった。後ろでトカゲ男がどうしていいか分からずおろおろと狼狽えている。

「へえ、さっきクズって言ってたのにこの(ひと)が必要なんだ?」

「なっ…!」

 羽毛に覆われた顔が怒りに歪むのが分かる。それでも私は笑みを崩さない。

「必要ないんだったら私がこの人を連れて行っても問題ないですよね?」

「な、何を言うザマス、この泥棒猫! 妾はその男に給料を支払っているザマス!」

 私の言葉に、彼女は逆上した。へえ、と鼻で笑うと、女性は120オウルくらい払ってみろとふっかけてきた。金額が高いのが仕方ない。うーん、私こういう買収みたいなのは不本意なんだけどなあ…。そうは思ったが、私はカバンから金貨の入った財布を取り出した。こういう相手には逆にお金で解決した方がいい……不本意だけど。

 いわれた通り120オウル取り出すと、その場にいた誰もが呆気にとられていた。まあ、ただの旅人がこんな大金すんなり出せる訳ないからね。女性は悔しそうにこちらを睨んでから、人力車に乗ってどこかに行ってしまった。

 ここに来て急展開(?)

前話のリザード族の少年はここの伏線でもありました。気付いた方はいらっしゃるのでしょうか?


ちなみに、満月(デュライア)はマゾではありません。念のため

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