5.ようやく街を探索できるよ
首長竜を雷魔法で倒したものの自分も少し感電してしまったらしく、私はおぼつかない足取りで陸地に座り込んだ。剣を杖代わりにして息を整える。ようやく落ち着いたところで、私は先ほど“外の風”を感じた場所を探した。記憶を頼りに地底湖の壁を探ると、一部動く箇所を発見。気になってあれこれと探っていると、音を立てて壁が消えた。その先には空洞があり、先ほど感じたような外の風が吹き込んできた。歩いていくと、ほどなくして洞窟の外に出る。目の前には、密林。私は人の通ったらしい場所をたどって、元の入り口へ戻った。
当然別の場所から戻ってきた私を見て、待機していたガルトさんは驚いていた。あり得ないとでも言いたげに縞模様の尻尾が揺れている。
「お前……一体どこから?」
狼狽しているためか、ガルトさんの声は震えていた。まあ、来た道を引き返すのがセオリーだろうし、第一あんな隠し通路なんてそうそう気付かないと思う。私はたまたま気付いたけれど。
「いえ、出口見つけたんでそこから出てきました」
あっけらかんとそう言い放つ。やはりガルトさんは呆然としていたが、やがて気を取り直したように息を吐く。
「…まあいい。それより、“宝”は持ってきたんだろうな?」
「これの事ですか?」
問われて、私はカバンから洞窟の奥で見つけた装飾の施された箱を取り出した。ミイラの腕が入っていた、あの箱だ。一応開けて中身も確認してもらうと、これでいいと頷いてくれた。
“宝”を持って旅人協会の建物に入る。青っぽい毛並みの、ケルクさんが優しい表情で出迎えてくれた。
「無事、帰って参りました!」
明るい声音でそう言うと、ケルクさんは大きな手で私の背中を軽く叩いた。よくやった、といわんばかりの動作だ。
「見事じゃ。そなたを新たな旅人として歓迎する」
ケルクさんの指の周りに魔力が集まり、不思議に光り始めた。どこがいいか尋ねられたので、私は左腕の肩の下辺りを指さした。ケルクさんは私の腕に触れる。そこに魔力が作用したかと思うと、私の左腕には紋章が刻まれていた。五角形の盾と、右から斜めに降りた剣。その前面にこの国の象徴である麒麟の姿が描かれたデザインだった。細やかな模様が美しい。私がそれに見とれていると、銀色に輝く首飾りみたいなものを渡された。細いチェーンに、直方体をひねったような形の塊がついている。よく見れば、下に宝石が埋め込まれていた。聞いてみるとこれは通行証で、どこをどう通ったのかまで記録される物だそうだ。つまり、ICカードを首から提げるのか。
街に入るという本来の目的を果たした私は、ケルクさんや旅人協会のメンバーに見送られながら、雑踏の中へと足を踏み入れた。
思ったより試練編が長引いてしまいました。
次回からようやく大都会に入っていきます!