4.洞窟の奥に
戦闘描写ありです。
光る苔の明かりを頼りにして、洞窟の奥地へと入り込む。それまでよりも一段と明るい場所に出て、私は思わず目を細めた。
そこにあったのは、広い湖。壁に生える苔以外に、水の中に光る粒が泳いでいる。ウミホタルみたいな生き物なのかな? おかげでそこだけ明るかったのだ。目が明かりに慣れてくると、湖の反対側に祭壇らしき物が見えた。そこに“宝”があるのだろうか。私は水面に魔法を掛けた。そして、そっと足を下ろす。足が水に沈んでいない事を確認し、もう一方の足も水面に浮かべる。ちょうど、水の上に立っている状態だ。やっぱ、こういう事ができる魔法ってサイコー。などと歓喜に浸りつつも、私は水の上を歩いた。波も立たない静かな空間。水の上を歩く足音だけが、その場を支配していた。
祭壇らしき陸地に上がる。守られるように、装飾の施された箱が安置されている。ちょっと引っかかるけど、これが“宝”だろうか。しかし、箱だけで中身が入っていないのは困るので、好奇心で私は箱を開けてみた。だが、中にあったのは光り輝く宝石や金銀などではなかった。
「何これ?」
思わず声が出てしまうほど、予想外のモノ。一見すると何かの腕のようだ。かぎ爪が生え、指の間には水かきがついている。からからに干からびており、とても固い。何これ、ミイラの腕!? 何でそんなものが宝なの?
いや、ひょっとしたら見た目からは想像できないほど価値ある物かもしれないし、あるいはこの箱自体が宝というオチかもしれない。一応別の所に隠されているという事も考慮して、色々探してみたが、これ以外のものは何もなかった。水の中にあると……ちょっと骨が折れるなあ。これが“宝”だと信じて持ち帰りましょう! そうして来た道を戻ろうとした、その時。
それまで静かだった地下湖に、外の風が吹き込んだ。原因を確かめる前に、風は止み、水面が大きく揺れた。湖の中央が盛り上がったかと思うと、大きな波を立てて巨大な影が出没した。双眸は輝き、首は長く伸びており、水中に巨大な体が沈んでいる。分かりやすくいえば、ネッシーをより怖く描いたような姿だ。この地底湖の主だろうか。
首長竜はぎょろりと私の姿を見据えると、首を振った。危険を感じて飛び退く。私が立っていた場所に首長竜の牙が食い込み、岩が割れる。隙ができるかと思いきや、すぐに私に向き直った。とてもじゃないが、話し合える雰囲気じゃない。再び私に迫る牙から、私は逃げた。水面を走り、チャンスを窺う。
だが私は、あることを失念していたのだ。首長竜の後ろから、まるで第二の首のように尻尾が持ち上がる。不意打ちで、私はよけることができなかった。尻尾の直撃を受け、水中に沈む。尻尾の一撃と水圧が体にのしかかる。減速したおかげで湖底に叩きつけられることはなかったが、手痛いダメージには変わりなかった。体勢を立て直し、自身に魔法をかける。水中で呼吸ができるようにするためと、水圧から身を守るためだ。
しかし、水中戦ではこちらが不利なのは目に見えていた。ウミホタルらしき物の明かりを頼りに、湖の主を見据える。魔力を一度剣に集め、解き放つ。水は荒れ狂い、ごうごうと首長竜を渦に巻き込んだ。だが、それにはほとんど堪えていないようだった。平然と私に牙を向ける。私はそれを受け流し、首に剣を突き立てた。今度は効いたと見え、耳障りな悲鳴をあげる。もう一撃、というところで、また尻尾が向かってくる。私は剣で斬りかかったが、構わず巻き付いてきた。体がみしみしと音を立てそうなほど、尻尾が強く締め付ける。このままでは骨が折れてしまいそうだ。振りほどこうともがくが、相手は離してくれそうになかった。怒りに狂った双眸が、私に近付く。まずい。早く何とかしなくては――
自分も危険だと分かっていたが、私は体中に魔力を集めた。そして、全身からすさまじい電流を発する。本来、純粋な水は電気を通さない。動物の皮膚もまた、電気を通しにくい。だが、ここは鍾乳洞。この湖には鍾乳石の成分――厳密には炭酸水素カルシウム――が含まれている。その電解質の助けを借り、高圧電流は水中を駆け巡る。そして、水に濡れた事により電気抵抗の小さくなった首長竜の体に届いた。これにはさすがに相手も耐えられなかったらしい。締め付けていた尻尾はゆるみ、湖底に沈む。好機と見た私は水ごと首長竜を水上に持ち上げる。同様に私も水上にあがり、長い首を切り落とした。断末魔を上げ、首長竜は霧散したのだった。
伊達に鍾乳洞だったわけでは無いですよ! …嘘です偶然つじつまがあっただけです。
そもそも鍾乳洞というのは石灰石(炭酸カルシウム)が二酸化炭素を多く含む水に炭酸水素カルシウムとなって溶け、それが再び炭酸カルシウムとなって固まる事で、長い年月を掛けて形成されます。余談ですが、理科の実験で二酸化炭素を通じると白く濁る石灰水も反応は同じですね。
思ったより試験が長引いてしまいましたw
内容を考えるのには結構苦労しましたね
次回も読んでくださるとありがたいです。