2.旅人の集まる場所
トカゲの姿をした(リザード族というらしい)門番さんことナイルさんに連れられてやってきたのは、街の中にある大きな建物の前だった。3階建てくらいの建物で、屋根は赤茶色に塗られている。どっしりとした門が私達を迎えるようにそびえ立っていた。その看板には『旅人協会 本部』と書かれている。見慣れない言葉に、私は首を傾げた。
建物内に入ると、そこには多くの人々がいた。旅装束の人が大半を占めるが、綺麗な衣服を身に纏った人や、スーツのようにしっかりした服を着ている人もいる。しばらく観察していたいところなのだが、残念ながら私は奥の部屋に引っ張られてしまった。
案内された部屋で待っていたのは、青い毛並みが特徴的な、狼に似た人だった。喉から腹までは白い毛が生えており、あごの下には髭と思しきものもある。緑色の優しそうな目が私を見つめていた。
「ようこそ、アレスキア王国旅人協会本部へ。わしはここの長を務めるケルクじゃ」
「初めまして。私は満月といいます」
自己紹介をし、恭しく頭を下げるケルクさんに、私もおじぎを返した。勧められて椅子に座ると、ナイルさんが私の横に立った。
「この子は優れた剣術を持っています。どうでしょう、ここに入れてみるのは」
「ふむ……。顔をよく見せてみい」
そう言って、ケルクさんは私の顔をまじまじとのぞき込んだ。彼が顔を離した時を見計らって、私は尋ねる。
「私の顔に何かついてますか?」
「うむ、確かによい旅人となれるであろう。それに、そなたには特別な運命が待っているようじゃ」
ケルクさんは穏やかな声で言った。特別な運命、ね。そんなの待ってなくていいんだけど。私はただ世界を見て回りたいだけだから。まあいいや。それとは別に聞きたいことがある。
「で、私をここに連れてきた訳は?」
私が尋ねると、ケルクさんは優しく笑った。曰く『旅人協会』とは旅人を支援する団体で、そこに加入するときちんと身分が証明されるのだという。しかも、世界共通だそうだ。“試験に合格すれば”誰でも加入する事ができ、どの国にも行く事ができる。「旅人」という国家資格だと思ってもらうと分かりやすいかもしれない。とにかく、旅を続けたい私にとって好都合の組織、という事だった。
「一応聞きますが、それって私の自由は保障されるんですよね?」
例えば入ったから何かしら仕事を請け負わなければいけない、とか、国のために命を賭して戦え、とか、そういう事を言われるのは困る。あくまでもこれは、見聞を広めるための旅なのだから。何より、自由な旅人でありたい。そんな私の心境を察したのか、ケルクさんの笑みは穏やかだ。
「わしらは旅人を支援するだけじゃ。情報を共有しあい、道具を交換する。そして、お金に困ったなら仕事を与える。何をするにもそなたの自由だ」
その言葉に、私はほっと胸をなで下ろした。それが一番気がかりだったのだ。いや、それ以外、私は断る理由を持ち合わせていなかった。なぜなら、これだけの好条件が整っているのだから。こういう訳で、私は彼らの提案を受け入れたのだった。
またまた新しい種族が出てきました。
トカゲ姿のリザード族と、狼に似た姿のフェンリル族ですね。
正直、種族の名前はあまり本文中に出せないと思います。が、こうして後書きには載せるようにしますかね
ちなみに「ケルク」という名前ですが、某ゲームの寺院に仕える老師の名前をそのまま使いました。そのキャラとイメージが似ていたので…
次回は『旅人協会』に入れるように満月さんが奮闘します!