第5話 水無川水瀬を探せ!
放課後、水瀬さんが風のように目にも留まらぬ速さで教室から出て行った。
きっと……というか、完全にウチのせいだろうな。
でも、ウチのしたことは間違えてないと断言できる。
だってそうでしょ?
何かを変えたいと願うなら、何かを断罪する覚悟が必要なんだから。
だからウチは、彼女の過去を断ち切るべく、言葉で追い詰めた。
そうでもしないと、彼女はいつまで経っても逃げたままの弱い人間になってしまう。
それは彼女にとっても、ウチにとっても良くない。
とりあえず作戦変更。
言葉で追い詰めて逃げるのなら、行動で追い詰めるしかない。
そしてウチは立ち上がり、水瀬さんの近くの席である女子生徒に偽善を装って声を掛けた。
「あれ、もしかして水瀬さんは帰られてしまいましたか?」
「うん。なんか凄いスピードで帰ってったよ?」
「そうなんですね……。もし時間があるようなら校内見学の続きをしようと思っていたのですが……」
「それは残念だったね……。でも、あの急ぎ用なら何か用事でもあったんじゃないかな?」
「スーパーの特売セール、とかでしょうか?」
「時間帯は合ってるけども! この辺りはスーパーが少ないからそれはないんじゃない?」
「さすがに冗談ですよ」
ニコニコッと微笑んでおく。
多分、これ以上は有益な情報は聞き出せそうにないな。
とりあえず、本当に帰ったかどうかを確認するために下駄箱を調べてみるか。
「帰り支度のところを呼び止めてしまってすみません」
「全然大丈夫だよ。岬守さん、また明日ね~」
「はい、また明日」
女子生徒の背中を見送った後、ウチも帰り支度をしてから正面玄関へと向かった。
『岬守美彩』と『水無川水瀬』、出席番号が近くなので、彼女の下駄箱を自然に確認することができた。
ちなみに下駄箱に入っていた靴は内履き。どうやらすでに帰っているらしい。
……ふむ。
辺りを見渡して、外履きへと履き替える前に談笑している一つの女子集団に声を掛ける。
「こんにちは。楽しそうに何を話されているのですか?」
「あ、美彩さん! 今からみんなでカラオケに行こうかなって話してたところなんだ。美彩さんも良かったらこの後どう?」
「すみません。この後、水瀬さんにお渡ししなければならない書類がありまして……」
「今日転校してきた子だよね? その子なら凄まじいスピードで帰ってったけど……」
「そうなんですよね。私の遅い足ではとても追いつけそうになくて……。だから諦めてゆっくり追いかけることにしたんです」
自己能力を貶して、微笑を混ぜる。
別に運動神経が良いわけでもないから、嘘を吐いたことにはならない。
そして、本題はここからだ。
「そんな気にすることないよ! 運動神経が良いからって偉いわけじゃないし!」
「ありがとうございます、そう言っていただけるだけで救われます。ちなみに、校門をどちらに出られたとか分かりますか? あまりご自宅までは伺いたくなくて……」
「あー。確かに、今日知り合ったばかりなのに家まで押し掛けるのは極力避けたいよね……」
「そうなんですよ……」
「うーん。確か、右に出て行ったような気が……。ごめん、確証が持てなくて……」
「いいえ、ありがとうございます! さっそく向かいますね」
「はーい! 美彩さん、今度は一緒にカラオケ行こうね!」
「はい、その時はぜひご一緒させてください」
そう言って、ウチは外履きに履き替えて校門を右に出た。
確か昨日、学校から商店街までの道を帰り道だと言っていたはずだ。
商店街を最短で通るには、校門を右に出る選択が正解だから、きっと彼女たちが言っていた目撃情報は正しい。
あとはどう特定するかだが……正直、普通なら特定するのは困難を極めるだろう。
でも、突き止めた。
彼女の本性、彼女の事情、彼女の心情、そして彼女の願い。
全ての情報を一つずつパズルゲームのように組み合わせれば、一つの答えに辿り着く。
「ふふ、水瀬さん。すぐに終わらせてあげますからね」
そしてウチは、答えの元へと真っ直ぐ向かった。




