第3話 廊下での出来事
「……はぁ」
無駄に長い廊下をトボトボと歩きながら、自然と口から溜息がこぼれてしまう。
私だって、好きで溜息してるわけじゃないよ?
でも、仕方ないじゃん。
休み時間を挟む度に、質問の大嵐が襲ってくるんだから。
そんな私の心境を悟ってのことだろうか、昼休みになった今、岬守さんが教室の外へと連れ出してくれた。
その心遣い、本当に助かりますって感じだ。
「ふふっ。皆さん、水無川さんに興味津々でしたね」
隣にいる岬守さんが、幼い一人の少女のように悪戯に笑う。
みんなはきっと、私との空白の一年の差を埋めようと色々気遣ってくれているのだろう。
けど、その気遣いが逆に働く場合も存在する。
私の場合がそうだ。
近くなればなるほど、結果的に私から遠く離れていく。
だから一年の差を埋めるのではなく、半年、いや三ヶ月分ぐらいで丁度いいのだ。
三ヶ月分ぐらいの距離感で、みんなと学校生活を送る。
それが今回、欲しい物を手に入れるために私が導き出した答えだ。
「その心遣いは大変嬉しいんですけどね……。でも、少し休みが欲しいというか……」
「皆さん、水無川さんとのギャップを無くそうと必死になっているんですよ。だから、あまり悪く思わないであげてくださいね?」
「そんな! 私のために行動してくれているのに、悪くなんて思わないですよ!」
「そう言っていただけると嬉しいです! もちろん、私もその一人ですからね?」
「……それは、凄く嬉しいです」
岬守さん、不意打ちの可愛い笑顔は反則でしょ……。
女の私でも思わずときめいてしまったのだから、きっと男子なら今頃好きになっていただろう。
さすがはお嬢様学校、男女問わず人の心を掴むスキルは長けているっぽい。
私も、こんな風になれたらな……。
「そういえば岬守さん、今どこへ向かっているのですか?」
「岬守さんなんて、まるで他人行儀みたいじゃないですか。これから共にする仲間なんですし、私のことは美彩とお呼びください」
「で、では、美彩さんで……。私のことも水瀬で良いですよ」
「分かりました。それではこれから水瀬さんとお呼びしますね」
そう言って、美彩さんはニコッと微笑んだ。
なんだろう。
ただ名前を呼び合っただけなのに、この内から溢れ出るむず痒い気持ちは。
しばらくは、美彩さんの方を見れそうにないや。
「そういえば、どこへ向かっているのかという質問に答えていなかったですね。水瀬さんにとっておきの場所を教えようかと思いまして。そこなら静かに休めますので」
「え、入って初日の私なんかに教えても良いんですか……?」
「えぇ、大丈夫ですよ。私と水瀬さんは親友になれますから。もちろん、根拠はあります」
「根拠、ですか……」
いや会話のテンプレートを守るなら、そこは根拠はないと言うところでは?
まあ、そんなことは今はどうでもいい。
今問題視すべきは、美彩さんに私の何かを知られているかもしれないということだ。
前の学校での出来事?
それとも、私が今までやってきたこと?
もしかして、私の本性を……?
でも、これら全ては関係構築の上ではマイナスの要素でしかない。
となると、別の何かか……。
当たり前だが、いくら思考を巡らせたところで美彩さんの思惑が見えるはずがない。
「……どうかされましたか? 顔色が優れないように見えますが……」
「い、いえ! 何でもないです!」
「本当ですか? 何かあればすぐに言ってくださいね。こう見えて私、学校では顔が広いんですよ?」
「分かりました、その時はぜひお願いします」
とりあえず、今みたいな感じで誰かに心配をかけさせないように行動しないと。
そうしないと私の欲しい物は、きっと手に入らないから。
そして私たちは、永遠とも感じるこの長い廊下を静かに歩み続けるのだった。




