話したい聞いてほしい
お昼ご飯がすんで、ちょうど眠気がやってくるころだった。
コーヒーで眠気を追い払おうとカップを口に運ぶ。
そのとき、電話が鳴った。仕事の番号だ。
「はい、総合相談・苦情窓口です。どうされましたか」
①テレビのひな壇タレントがうるさい、という相談だった。
テレビでは、ひな壇の若いタレントたちが騒いでいる。
意味のない言葉を投げて笑い声を重ね、ただ音量だけが増えていく。
内容が入ってこないほど「うるさい」という。
「番組制作側への直接要望をお勧めしています……はい、静かにしてほしい、ですね」
(そんなスイッチあるなら僕が押したい)
「視聴者のご意見としてまとめて送付します。実際の反映は保証できません」
(むしろ音量下げたほうが早いですって言えない)
通話が切れた直後、次の電話が鳴った。
②自宅前がゴミ収集場所なのを変えてほしい、という相談。
窓を少し開けると、家の前のゴミ収集場所のにおいが流れ込んでくる。
どうしてよりによって、うちの真ん前なのか。
匂いが、こちらの生活にだけ入り込んでくる……と早口で話す。
「配置変更には、近隣合意が必要です……はい、合意です。そこが一番の難関です」
(近隣合意という名のラスボス)
「まずは地域の代表の方にご相談いただく流れになります」
(代表の人に怒られる未来が見える)
また切れて、また鳴る。
③スナップエンドウの種だけピンポイントで食べられた、という相談。
庭に目をやると、昨日蒔いたスナップエンドウの種が、きれいに消えていた。
土が小さくえぐられ、そこだけ穴になっている。
種だけを正確に持っていった、見えない誰か。困ったような声。
「可能性としては鳥や小動物が考えられます。監視カメラの設置はご家庭判断で……」
(ネズミか、スパイ、どっちかだな)
「防鳥ネットの活用をご検討ください」
(ネット張る前に心の網が破れてる)
通話が静かに終わっていくたび、
僕の中で何かがカチカチとはまり、妙に可笑しくなった。
テレビはうるさくて、
ゴミ置き場は迷惑で、
種は食べられていく。
――ああ、世界はやっぱり整っていない。
でも、電話の向こうの人たちは、ちゃんと生きていた。
怒って、困って、笑って、ため息をついて。
不完全な世界の中で、不完全なままの生活を続けていた。
だったら、僕もそうしよう。
世界はたぶんこのままだ。
うるさくて、適当で、気まぐれなまま。
だからせめて、少しだけ自分を作り替える。
文句に占領されない場所ぐらいは、心の中につくっておく。
カップの底に残ったぬるい温もりが、
苦情だらけの世界の中で、なぜかいちばん優しかった。
【優斗:追記】
種だけピンポイントで食べるって……野生界のゴ〇ゴ13だな。




