好きな人同士でグループ作って
電話は、五回鳴ってから取ると決めている。
深呼吸の時間。声を整えるための間。
五回目の音が途切れた瞬間、受話器を耳に当てた。
「はい、総合相談・苦情窓口です」
少しのノイズ。
そして、小さな声が乗った。
「学校の、ことで相談なんですけど」
声は小さい。けれど、はっきりしていた。
自分の痛みの場所を、もう知っている声だった。
「先生が 『好きな人同士でグループ作って』って言うんです」
教室のざわめきが、受話器の向こうで立ち上がる気がした。
椅子が引かれる音、笑い声、机の移動。
名前を呼ぶ声。呼ばれない名前。
「好きな人なんて、いません。というか、僕のこと好きな人がいません」
笑って言った。
明るく見せるほど、傷は深い。
「みんなが動き始めたあと、机に座ってるの、僕だけで」
想像してしまう。教室の真ん中の空白。
椅子一つぶんの孤島。
誰も遭難者を見ないまま、授業だけが進んでいく。
「それで、先生が『ここに入れ』って言うんですけど……」
少しだけ間があいた。
「そのグループの人たちが、ちょっと嫌な顔をするんです。
『あ、こいつ入って来たな』みたいな顔」
気のせいでは?と言いかけて、やめた。
空気は、嘘をつかない。
笑い声の温度差。輪の外の温度。
「余ったから無理に押し込めた感じがするんです」
言葉が淡々としているほど、刺さる。
返す言葉はいくらでも浮かぶ。
でも、どれも軽い。形だけだ。
「先生が決めてくれたら、『制度のせい』って思えるんです」
「僕のせいじゃなくて」
ああ、この子はちゃんと考えている。
痛みを分析できる人ほど、傷つく。
「ご意見として学校にお伝えします。直接の介入は、仕組み上は難しいです」
自分の声が、仕事の声になっている。
壁をつくる声だ。守るための、逃げるための。
「はい。わかってます。仕組みは、仕組みなので」
声が少し小さくなった。
「相談してよかったです。余りものでも、相談はできるんですね」
胸の奥で何かが軋んだ。
君は余りものじゃない。
言葉は喉まで来て、そこで止まる。
僕の先輩が言っていた。
友人は、『好きなことの先』で待っているって。
同じ色の何かに夢中になったとき、人は自然と並ぶのだと。
マニュアル離脱を、すばやく元に戻す。
「ご利用ありがとうございました。また何かございましたらご連絡ください」
通話が切れたあと、ゆっくり受話器を置く。
目を閉じる。
余りものなんて、本当はいないのに。
机の上で、書類が増える。
胸の奥で、青いボールも増える。
転がるたび、音だけが静かに残る。
今日もまた、誰かが輪からはずれていく音を聞いた。
それでも、明日も電話は鳴る。
そして、僕は取る。
五回鳴らして、息を整えて。
誰かの孤島に、少しだけ橋の気配を届けるために。




